フィレンツォに提案されて私は色々と自分の力を確認することになった。
言ってしまえば、私の能力は「チート」に近いと感じた。
理由は簡単だ、ゲームのダンテは「後継者として平均的な能力」という初期設定であり、それを育成していく必要があるのだ。
で、そこで失敗するとエドガルドに強姦されることになる。
強姦される確率は減るのは有難い。
だが私の力、素質、能力は「チート」というにはあまりにも不便なのだ。
まだ幼い故に私は制御が難しい。
読んでいた小説や漫画の何かしらのチートは基本的には本人にどういう形であれ良い方向へと働くことが多い。
もし私が人を傷つけることも平気で、冒険者に転生してたりしたならやりたい放題だっただろう。
自分の力の程度を理解できなかったらそれはそれで恐ろしい。
自分の力を過小評価しているチートも見た事がある。
もしそれをやって、ふとした拍子で使って大惨事なんて事もありえる。
だから、私は私の力を認識し、それを制御する術を覚えなければならない。
理由の一つがエドガルドの件である。
私の力に関しては私の教育をしてくれる方達と、父と母、フィレンツォしか知らない。
つまり、実兄であるエドガルドは知らないのだ。
何故か。
理由は簡単、父母もエドガルドが既に私に対して良くない感情を持っていることを理解しているからだ。
劣等感やらなにやらを抱えているのに、それに祝福されてるだけでなく、力も優れているとかそんな情報知られてみろ。
エドガルドがしでかす内容が悪化しかねない。
付け込まれる要因が既にあるのに、それを増加させても何もいいことはないのだ。
エドガルドが姿を見せる事は殆どない。
だが、彼がいる時は即座に知覚できる。
憎悪と嫉妬と何か別の物が混ざり合った鋭い視線を感じるから。
エドガルドの――兄の本心は私は知らない。
美鶴の時、そこまで至る事ができなかったし、攻略勢もそこまで至れなかったのだ。
それに悩みがある。
まぁ、人間というか生物は忘却する生き物だ。
つまりだ。
嘗ての私、美鶴がやった「冬の愛を暁は歌う~愛の
攻略対象となる存在や、攻略班が血反吐吐いて何とか見つけた隠し攻略キャラについても知っている。
隠し攻略キャラ、実はエドガルドなのである。
いや、近親相姦系は平気だが……
どういうこっちゃ?
となったし、隠し攻略キャラがエドガルドだとは判明したのはとあるバッドエンドにいった事。
元となったゲームの公式は攻略情報を出してくれないし、隠しキャラも絶対公式からは言い出さないが――公式サイトでシルエット無しの隠し攻略対象と表記されている存在が一名ちゃんと表記しており、エンディングではどのようなエンディングかなどはちゃんと明記してくれるのでそれで判明したとの事だ。
公式で発表されている攻略対象キャラは四名と隠しが一名。
つまり実際は五名の攻略対象がいるというわけだ。
しかし、エドガルドのエンディングは見た記憶がないので、何をどうすれば含められるかが分からない。
公式は不親切だが「隠しを含めて全員を同時に攻略できる」とは表記している。
――未だちゃんと実際に姿を見ていないエドガルドをどう攻略するんだ?――
そう、私は
兄はどうやら私を避けているようだ。
けれども、視線を感じて振り返れば、ちらりと私と同じ色の髪が視界に入った。
話しかけたくても、どうすればいいのか分からない。
こちらが提案しても、向こうが拒否してくるのだ。
両親も提案しているらしいが頑なに拒否し続けている。
――一体どうなるのやら……――
不安材料が盛りだくさんだけども表には決して出さない。
けれど一人思案する時私は憂鬱になってしまう。
「ダンテ様、お休みなさいませ」
「フィレンツォ、お休みなさい」
六年ほど前から一人で眠る許可がでたので、私は今自分の部屋で眠る様になっている。
そして一人目を閉じる。
世界が真っ暗になる。
夢の中。
手を見ると、今の自分の手ではない、昔の自分の手が目に入る。
『どうだ? 大分慣れてきただろう?』
「まぁ、そりゃ慣れますよ」
『魔術、剣術、体術、政治学関係――諸々に関しては問題はなさそうだな。問題はエドガルド――兄の事か』
「そうそれ、未だロクに直接姿をロクに見せないのに、こっちにスゴイ嫉妬とか色々混じった視線向けてくるのはわかるのよ。私の方から振り向くのは不味いからフィレンツォが名前読んでから振り返るようにしてるから更に見れないんですよね……でも、あまりそういう感覚が鋭いと思われると後々大変そうな気がして……」
『一理ある』
父母は嘘をついてないから分かる、エドガルドの事を二人は自分と同じように愛している、大切に思っている。
けれども、エドガルドには、兄には、それが伝わらないようだ。
幼い頃は、素直だった。
まだ、祝福の事を知らないから。
けれども、祝福の事を――王の後継ぎになる為の条件を知った途端、変わってしまったと。
貴族ならば跡継ぎになれるはずの存在、だから王に相応しくあろうとした。
だが、己には王になる資格はないとされた。
女神に、この国の始祖にお前は王になるべき存在ではないと言われたも同然と取ったのかもしれない。
そして時が経ち、弟が、私が生まれた。
女神に祝福されて、王になるべき存在と認められて。
それはどれほど彼の心を傷つけるものだっただろうか。
女神に祝福される条件について詳しくはしらない。
けれども、彼の事を考えればとても残酷なことだ。
父は、長子であったそうだ。
祝福された前国王――亡き祖母は、それ以上子どもを望まなかった。
理由は分からないと父は言った。
女だから、男だから、性別で選ばれるわけでも長子だから選ばれる訳でもない。
でも、選ばれないということがとても苦しい事は理解できる。
でも、全ては私の想像だ。
最初にゲームをやった時、エドガルドは「ダンテ」を強姦して、そして脅して、脅かし続けた。
憎悪の言葉をぶつける。
何故あそこ迄憎悪の言葉をぶつけたのか、私にはまだ理解しきれていない。
あれは、エドガルドの本心なのか、それとも――
『美鶴、いやダンテ』
「――はいはい、なんですか?」
『全てを答えることはしない、が一つだけ言おう』
「?」
神様が指を一本立てた。
『エドガルドの拗らせは、まだ本番ではない』
「はい……⁇」
神様の言葉に耳を疑う。
『二年後――エドガルドは共同都市メーゼへと留学する』
「二年後……っていうと」
『エドガルドが18歳になった時。お前は12歳になる少し前だな』
「……」
『留学期間はお前同様四年、つまりお前は16歳になる少し前に戻ってくる』
「16歳……⁇」
16歳、何があったっけかとゲーム内の事を必死に掘り起こそうとする。
『ふむ、忘れているか。仕方ない』
『エドガルドが「ダンテ」を強姦しようとしたのはダンテが16歳の時だ』
「あ゛」
神様の言葉に思い出す。
16歳の誕生日のイベントの後の夜、部屋に侵入してきたエドガルドが「ダンテ」を強姦しようとすることを。
そして神様の言葉の意味を私は理解する。
『そうだ』
『エドガルドは、留学中に実弟であるお前への感情をより悪い方に拗らせるのだ』