「
ぼっと、的である木材が燃えた。
「すごいなぁ……」
魔法?
魔術?
とりあえず、そういうのがある世界なのは知っていたが、実際目にするとやはり驚きがある。
「魔術を直に見るのは初めてですか?」
フィレンツォの言葉に、私は首をかしげて考え込む。
見た記憶がないのだが、何かを感じた事がある、その何かが分からなかったがもしかしたら。
「みるのははじめてだとおもいます、ですがなにかふしぎなものをかんじてました」
「成程……ダンテ様は感知能力が高いのでしょう」
フィレンツォは私の言葉から私の能力について推測してくれた。
「さて、では実際に試してみましょうか」
フィレンツォは先端が燃えて消えた木材の的から新しい木材に変えてくれた。
フィレンツォの的にした物と同じ材質の木材のようだ。
彼がゴマすり等せず、私の素質、能力をきちんと図ろうとする誠実さが確認できた。
それがとても嬉しい。
――いや、別にゴマすりされたりしたわけじゃないけど、やたらとお父さんとお母さん以外の城の皆は過保護でちょっとねー……――
「ふぃれんつぉのまねをすればいいのですか?」
「はい、私と同じようにやってみて下さいませ」
確認を取り、手をかざし、魔術書に書いてあったように思い描き、術を口にする。
「
爆発音とともに、的があった場所が炎上した。
ぽかんとする私。
ちらりと横を見れば、フィレンツォも硬直していた。
少ししたら彼は我に返った。
「――
フィレンツォが大声で叫ぶと、水が滝のように燃え盛っている場所に落ちてきた。
火が――炎が消える。
「……ふぃれんつぉ、ぼくはたいへんなこと……してしまったのですか?」
明らかに、フィレンツォの使った術以上の事態になったので私は恐る恐る問いかける。
「いいえ――ダンテ様は大変な事をしたわけではございません。ただ……これは少々考えなくてはなりませんね」
フィレンツォは真面目な顔で私にそう答えたが、決して私を咎めるような事も怯えるような様子も見せなかった。
フィレンツォが魔術で誰かと連絡を取り、そのまま案内されたのは、魔術関係の物がたくさんある部屋。
「わぁ……」
「カーラ様、失礼いたします」
「もう、フィレンツォ。カーラでいいと言ってるのに」
すると、術師らしい恰好の女性が現れた。
ブルーグレーの長い髪に、青い目の女性。
女性は私を見ると膝をついて頭を下げた。
「始めまして、ダンテ様。私はこの城でジェラルド陛下にお仕えしている術師、カーラ・アングレカムと申します」
初めて――否、ゲームの序盤で確か術関係の勉強をする時にデフォルメキャラとして出てくる女性と特徴が一致する。
ただ名前は出てこなかったので初めて聞いた。
「カーラ様は、アングレカム辺境伯のご息女です」
「えっと、はじめましてかーらさん」
「カーラとお呼びください、ダンテ様」
「はい」
カーラは微笑んで私を椅子に座らせた、隣でフィレンツォは立っている。
「では、ダンテ様。ダンテ様の術素質を確認させていただきますね」
カーラはそう言って、透明な水晶のような球体を私の前に置いた。
「ダンテ様、この石に両手を近づけていただけますか?」
「はい」
私は言われるままに両手を近づける。
石が一瞬でヒビだらけになった。
「「……」」
「あの、これはどういう……」
神様は黙っているから私は困惑するしかない。
だって、意味が分からないのだ。
「そうですね。どうやらダンテ様は術素質が全体的に『高すぎる』のです」
「たかすぎる?」
「ええ、そしてそれを制御……つまり加減することができていない状態にあります。まだダンテ様は幼いからおそらくフィレンツォの報告程度で済んだのですが、今から加減を覚えないと、少々大変な事になるかもしれません」
カーラは私に対して真面目な表情で説明する。
「……せいぎょできなくて、だれかをきずつけたり、そういうことになってしまうかもしれないということですか?」
「はい、そうなります」
「フィレンツォ!!」
「カーラ様、ダンテ様はまだ幼いですが賢い御方です。故に、下手に隠すより正直にお伝えした方が良いでしょう」
私は自分の事が怖くなった。
「……」
「ダンテ様、今何をお思いですか?」
「……こわいなって……おもいました……」
「ダンテ様、貴方がそう思われる御方で良かった。強すぎる力は、恐ろしいのです。それを無自覚に使うということをダンテ様はなされないでしょう」
フィレンツォは私の手を握って、話かけてきた。
「ダンテ様、これから貴方様の生は他の方とは違うものになるでしょう、父君でもある陛下が歩んだ道とも異なるものになるでしょう」
「……」
その通りだろう。
ダンテの――いや、私の行く道、私が願う一つのゴールでありスタートへの道は色んな意味で前途多難だ。
それに今のような私の知識にはない事態だって起きている。
私と「ダンテ」は名前と姿が同じだけの別人になのだ、色々な意味で。
でも、私は力で気に入らないと誰かを傷つけることを選ぶ気はない。
権力を振りかざして踏みにじることもしたくない。
私は、私なりの方法で必ず出会うであろう「彼ら」を幸せにしたいのだ。
彼らを「愛したい」のだ。
その内の一人とはもう出会っているけども、まだどうすれば分からない。
先は見えない、答えも分からない。
けれども、私は自分の「力」で誰かを悪意を持って傷つける気は毛頭ない。
私は、善人ではない、悪人でもない、私だ。
嘗ては高坂美鶴、そして今は――この国の後継者、ダンテ・インヴェルノ。
けれども、美鶴のままでもある。
否。
私は、私の事が良く分からない。
自分自身を理解できていない。
そして、今の私は更に不安定な要素が入ってきている。
『後悔しているか?』
声が聞こえた。
けれどもその答えだけは決まっている。
――後悔なんてしていない――
そうだ、後悔はしていない、答えは「NO」だ。
「ダンテ様、ダンテ様はどのような大人になりたいですか?」
フィレンツォは私に「王」とではなく「大人」とたずねてきた。
「……まだわかりません、でもだれかをきずつけてよろこんだり、ふみにじってくるしめるのをこのむようなおとなにはなりたくありません。ぼくは、どうなりたいかわからないけど、だれかをきずつけるようなことをこのむおとなには、なりたくありません」
「分かりました。そのお言葉を忘れないで頂きたい。ですがお願いがございます。どうか一人で抱え込むことはしないでください。その為の私達です」
「そうです、ダンテ様。私達は貴方様には良き王になって欲しい、けれども決して自己犠牲の王にはなって欲しくない、それが望みです。ですから私共を頼ってくださいませ」
二人の言葉、嘘偽りのない言葉が救いだ。
私は、この力と向き合って、ちゃんと制御できるようにしよう。
おそらく、まだ分からない「力」があるかもしれない。
これは「ダンテ」の人生ではない
画面越しではない、私は此処にいる。
自分を知り、その上で己と向き合おう。
私は、今、此処にいるのだから。