赤ん坊時代は、赤ん坊故のままならなさと格闘しながらなんとか過ごした。
姿は見れなかったが、エドガルドは弟である
まぁ、他の貴族とかのをちょっと教えてもらったけど、よほどのことがない限り長男、長子が家を継ぐことになる。
だが、王家はそうではないらしい。
ここの王家は女神インヴェルノの祝福を受けた子が、次の王になるのだ。
王の子でなければ、他の貴族のようであれば、最初に産まれたエドガルドが跡継ぎだった。
けれども、彼はそうはならなかった。
王の子だが、女神の祝福のない子。
故に、跡継ぎには次の王になることはどうあがいても出来ない。
きっと、彼はその時点で色々と外には見せないけれども拗らせていたのだろう。
そして
女神の祝福を持つ子が生まれた。
彼には同情はするが、その結果、実の弟を強姦するような行動に出るのは認める事はできない。
と、いうわけで。
「こおりのまじゅつは……」
絶賛、もくもくと一人でお勉強の時間である。
まだ体は四つになったばかり&異世界の文字だというのに、神様のおかげですらすらと読める。
有難い。
いや、本当助かる。
『まぁ、それ位はするに決まってるだろう』
――いや、感謝してますよ――
――何せ、ある意味ハードモードですからね。少しでも知識や身を守る術や世界の成り立ちを覚えて色々と役立てないと――
『勤勉だな、だからこそのあの未来が予定されてたのだが……あの馬鹿が、余計な事を』
相変わらず神様は、私が死ぬ原因の一つを作った奴への怒りが収まる様子がない。
別にいいんだけども。
「ダンテ、此処にいたのかい?」
扉の開く音と、声に振り向けば国王様――お父さんがいた。
「おとうさま」
本を閉じて、立ち上がって頭をさげるが、やはり幼児の体はおぼつかない、尻もちをついてしまった。
――ぐむー――
「おお、大丈夫かい?」
お父さんが駆け寄ってきて、私を抱っこする。
「だいじょうぶです、おとうさま」
「それならいい。しかし無理はしてはいけないよ?」
「はい」
「……少し信じられないのが私は悲しいなぁ」
お父さんの険しい表情。
――いやぁ、
――遊び盛りの子どもらしからぬ行動ばかり!!――
――そりゃ信じられないですし、不安にもなりますわな!――
――ですがそんな事言えませんよ!!――
「ダンテは勉強や体を動かすことが好きなのかい?」
「はい」
「そうか……なら、ちょうどいい」
お父さんの言葉に、私は首をかしげる。
「少々早いが、お前専属の世話係をつけることにしたのだ。入るがいい」
お父さんの言葉に、誰かが入ってくる。
その人物に私は心の中で目を丸くした。
「初めまして、ダンテ様。私はフィレンツォ・カランコエと申します」
黒髪に、碧眼の男性。
私は知っている。
ダンテのサポート役――恋愛ゲーム的に言えば「誰がどのような状態か」や「ダンテの状況予定」等についてを補助する非攻略キャラだがかなり重要な人物だ。
ちなみに、彼が攻略出来ないのは彼が既婚者なのもある。
そして私は彼を寝取るとかそういう関係になるつもりはないので無問題。
だが、問題がある。
彼がダンテ――私の世話役基執事とかそういうサポート的な存在になるのは、もっと後のはずだ、実際見た目もほんの少しだけ若い、微々たるものだけど。
――どういうこっちゃ?――
私の頭の中に大量の疑問符が浮かぶ。
『簡単なことだ、お前がゲームでのダンテの幼少期とは違う行動をした結果、出会いが早まったのだ』
――オゥイエ――
『まぁボーナスがついたようなものだ。一人で勉強するのも構わないが、教えてもらう方が良い場合もあるだろう?』
――プラスに考えればそうなるかなぁ?――
『そういう事だ』
「今後何かあったらフィレンツォに話すと良い。もちろん私やアデーレにも相談して構わん」
「はい、おとうさま」
「……ダンテ、お前はなんというかあまりにも歳不相応すぎて心配になるぞ」
ぎくり
と心の中でびくつきつつも平静を保って首をかしげる。
「では、フィレンツォ。頼んだぞ」
「はい、陛下」
お父さんは椅子に私を座らせてから、部屋から出て行った。
「ダンテ様」
「ふぃれんつぉさん?」
「フィレンツォとお呼びください」
「……ふぃれんつぉ」
「はい、ダンテ様」
「ふぃれんつぉはほかのひととちがってかみのけがくろいのはなぜなのですか?」
「私の一族はは基本的に他国から妻を迎えることが多い為、血が混じりその結果得意とする魔力の性質が髪の毛に現れるようになったのです」
――へーなるほどー―
「くろはどんなせいしつなのですか?」
「夜、闇、影、そう言った性質です」
フィレンツォの言葉に違和感を感じた。
まるで大人に接するように言うのだ、子ども向けの言い方とは異なる。
「ダンテ様。どうやら貴方様は普通の子どもとは違うようですね。祝福があるからとは違う意味合いで」
ぎくり
――色んな意味で怖くなってきたぞコイツー!!――
「――ですが、それがダンテ様の特徴なのでしょう。それでいいと思います。これからは何かございましたら何なりと、このフィレンツォを申し付け下さい」
フィレンツォは私の手を握って微笑んで言う。
――あぶねぇあぶねぇ――
内心びびりつつ、それを出さないようにする癖は美鶴だった時からついている。
あまり良い癖とは思えないけれどもおかげで、乗り切れた気がする。
「ダンテ様、何をなさりたいですか?」
「しりたいのです、いろんなことを」
「成程……今読んでいるのは……魔術書ですね」
「はい」
とりあえず入門の本を手に取り、読んでいた。
色々と鍛えておかないといけないから。
――実の兄に強姦なんてされたくねーよ、実の兄じゃなくても強姦はされたくないけど――
フィレンツォとの出会いが早まった事でゲームの時より良い方向に進んでくれないものかと願った。
『やめておけ、大体そういう事を願うとロクな事にならんぞ』
――はいはい、分かりましたよ!!――
楽観したい私に神様は釘をさしてきた。
確かに、楽観したり気を抜くと一瞬でヤバイ事態になるのは重々承知だ。
用心するに越したことはない。
「――では、外で実際にやってみましょうか」
「はい!」
フィレンツォの提案に私は思わず元気よく返事をすると、彼は微笑ましそうに私を見つめた。