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それでも、私は~自己を見つめる~




 とりあえず、一番危惧していた事は片付いた。

 家族の方もまぁ、引きずっているっちゃいたので、両親の夢に顔を出す。



 後悔する羽目になった。



 私の書いた性癖のオンパレードの小説全部出版するように頑張るとか言い出した。

 ウェブサイトに連載していないけど完結済みなの全部。


――止めてー!!――


 マジで止めたが、聞く耳持たず。

 娘が生きた証を残したい気持ちは嬉しいのだが、あの性癖オンパレードの話達を両親が出版とか私には地獄すぎる!!

 頼むから小説の中身は読むな、出版したいならこの間会った私オタク友達に頼んでくれと言ってそれで納得してもらえた。


 性癖丸出しのエロ小説親に読まれるとか添削されるとか私には地獄だ。



 というか、死後に出される小説がそれってどうよとか思わなくもない。

 辛し。





『……大丈夫か』

「両親の夢に出たのを後悔」

『……あれは……まぁ、そのなんだ……俗にいう偉人の手紙が死んだあとに公開されるようなもんだな』

「性癖オンパレードのエロ小説だからそれよりダメージ高いと思うんですが??」

 白い空間の白い床に蹲って顔を覆ったまま私は答える。


――慰めにならぬわ!――


『……まぁ、時間はある』

「何が?」

『もう忘れたのか、お前の転生先についてだ』

「あ――……」

 どうやら神様は私が言った転生先に関する事についてまだ納得していないらしい。


 実際――


 ハーレム!

 チート!

 愛されたい!!

 幸せになりたい!!


 とか、そういう分かりやすい物とは私のもの似てるけどはちょっと違う。

 その上、私は別に男になりたい訳ではないし、心の性別が男な訳でもない。

 だったらふたなりにでもなればいいと言われるとまた違う。


 どんな世界に転生したいか、と聞かれて思い浮かんだ先はあの「世界」で、転生したい存在はあの物語の「主人公」だった。


 転生先で好き勝手に生きたいのであれば、自分に都合のいい世界の自由な立場に生まれ変わってチート能力をもらえばいいだけの話。

 もしそれなら、私は女性として生まれて、人に好かれて、男性を魅了して、男性を好きにできる能力とかをもらって、彼らをまぁ俗にいうペニバンとかそういうので抱けばいい話。


 だけれども、私はそれを選ぶ気にはなれない。


 少し前にやったあのゲーム。

 私は、今までで一番感情移入した。

 理由は分からない。



 もし、転生するならこの世界に行きたい、そして彼らと幸せになるために「ダンテ」として生まれたい。

 彼らを幸せにするには「ダンテ」でなくてはならない。

 だが「ダンテ」になるだけでは彼らを幸せになんてできない。



 あのゲームを私はやり尽くしていない、その証拠は公式が「まだ誰一人『あのエンド』にたどり着いていない」という言葉であるからだ。

 公式が用意している結末が私の望むものなのか分からないけども。


 あのゲームは確かに次期国王である「ダンテ」が主人公だが、何もしなければただの次期国王でしかない、好きになった相手を誰も幸せにできない可能性が高い。

 自分が不幸になる可能性もある、というかそちらが高い。



 正直転生先としては良いかと聞かれたら即答できない。

 でも、私はそれでも――



 あの世界に転生したい。

 主人公の「ダンテ」として生まれたい。





 まぁ、これは転生というより、成り代わりが近いのだろう。

 そこも、渋る理由かもしれない。


『いや、別にそこを渋る理由にはならん』


 私が色々と考えていると、神様はそう言った。

 相変わらず勝手に思考を読まないでほしいのだが、この神様は。

「じゃあ、何なんですか?」

『いや、その世界の元となる「ゲーム」について無論私は良く知っている。故に難易度が高いそして――』


『お前、攻略情報見ながらやってても、かなり苦戦してただろう? というか一番ノーマルエンドになりやすいキャラのが現状一番良かったエンドだろう?』


「う゛」

 神様の言葉に、私は詰まる。

 そう、あのゲーム、難しいのだ非常に。

 それに、ゲーム発売からかなり時間が立っているのにも関わらず完全攻略がなされていない。

 バッドエンドルートは簡単だ。

 だが、完全なハッピーエンドルートはまだ空白のまま。

 ノーマル、ビターエンド等そのあたりもまだまだなのだ。


 それにあのゲームを作った会社は攻略情報を出してくれない事に定評がある。


 ため息が聞こえた。

『……まぁ、いいだろう。お前が望む場所にたどり着き、そしてさらに未来を歩くのを私が手助けしよう』

「え?」

『と言っても、基本は次どうすればいいかを教えるサポートが殆どだと思え』

「……」

『ただ、大丈夫な時は余計な口出しはしない。お前も分かっている箇所があるだろうしな。後、今後私とこうして会話している間は時間が止まっているから安心しろ』

「はぁ……」

『それと、確実にセックスしてる時は私はお前との情報のほとんどを遮断するからな、命の危機とかやったら不味いこと以外は』

「うわー基本覗き見されてるんですねー私……」

『仕方ないだろう! お前の人生を台無しというか……身内の馬鹿の所為で終わりにしてしまったんだから責任取って幸せにすると他の連中に公言したのだ!! 何が何でも幸せになってもらう、基満足して大往生してもらうぞ!!』

「あー成程……」

 神様にも神様なりの事情があった。


 しかし、何故そこまで公言したのだろう?


『……その馬鹿は私の孫のような立場だ。他の連中は馬鹿に甘くて、まだ私が無理だと言ったのに役を与えた結果がこれだ。他の連中は、事の重大さにどうすればいいか困り果ててるからな、なので「私はあの未熟者のしでかした結果死んだ者の方に着く、貴様らは全員総出で直せ!!」と不用意に関わるな基甘やかした責任を取らせる意味合いもある』

「……どっちが大変?」

『お前が死んだ事で滅茶苦茶になったのを帳尻合わせる方が大変だ』

「……そんなに重要人物だったの私?」

『なる予定だったのだ。あの馬鹿は人の生の先を弄るとどうなるか口酸っぱく言ったのにも関わらず……』

 声に怒りがかなり混じっている。


 怒髪天を衝くとはまさにこの事。

 相当頭にきているようだ。


『――こちらの話は聞いていてお前の気分が良いものではないだろう』

「気分が悪いというか、神様って大変ですねとしか……」

『本当にだ』

 神様はため息をつく。

『お前の考え等を読んだが、そこまでお前が考えているなら私は否定などする理由はない』

「つまり――」

『高坂美鶴、これよりお前を生まれ変わらせよう。その記憶を持ったまま』


『異世界の神アンノの創造せし世界「アルモニア」の冬の国と呼ばれるインヴェルノ王国。その後継者である第二王子――ダンテ、へと』


 神様のその言葉と同時に、私の視界はぐにゃりと歪み、暗転した――





『美鶴、手助けなどはするが、あまり頼りすぎるなよ? それと私は甘くはない』


――分かってますよ、それ位、その為に、私はいくらだって努力しましょう――


 遠くに聞こえる神様の声に、私は心の中でそう返した――








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