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第13話 俺だけレベルアップ出来ない件

 青の洞窟を出た俺たちは、アルティナが確保してくれてる宿屋に向った。


 到着すると、かなり老舗の大きな宿で、フロントのある空間がレストラン兼ロビーのようになっていて、大勢の客で賑わい、テーブルもほぼ満席って雰囲気だ。


 アルティナが事前に店の端っこの方にある大きめのテーブルを陣取っていたので、俺たちは難なく席と飯にありつけた。


 うむ、やはりアルティナは優秀な従者だ、本当に欠点はないのだろうか?でなきゃ面白くない。


 俺たちは夕飯がてらそれぞれの成果について報告する


「へえ、これがファランクス?なんだかただの亀の甲羅っぽいけど、今も生きてるの?」


 アルティナがそう言いながらテーブルに乗せたニコルの甲羅をツンツンしていると


「だれじゃ!わちきの睡眠をじゃまするやつはぁ!」


 甲羅からうさぎの頭と手足が飛び出してくる


「わ、なにこれ!」


「かわいいでしょ これペットにした」


 美月は嬉しそうにニコルを両手で抱えてる。

 ニコル自身もまんざらでもない表情でピョコピョコ上下に手足を動かしている、プライドが高いのか低いのかよくわからん亀うさぎだ。


「アルティナ、信じられるかぁ...こいつが英雄スルバと一緒に300年前の魔族大侵攻を退けた守護獣なんだぜ」


 すると美月につかまれてたニコルがぴょこんとテーブルに立ち、興味深そうにじーっとアルティナ顔を見みて


「おやや?おまいはハイエルフじゃな、この辺では珍しいの」


 するとアルティナが気まずそうな表情をして顔を背けた。

 かまわずニコルは続ける


「わちきも大地の使徒でな、聖地クエルクスから来たんじゃ、同郷のもんに会うのはぁ300年ぶりじゃー」


 ん?ハイエルフって…クエルクス・ワールドで未だ開放されてない「大神樹の聖地」ってエリアに住んでる設定の種族だったよなたしか。まだゲームでは見た事なかったな。


「その話はやめてくれないかしら…あと私はあんたみたいに年寄りじゃないし、昔の聖地の事なんて知らないわよ」


 アルティナは不機嫌そうだ、もしや故郷が嫌いなのか?じつは名家の家出少女とかだと面白いんだけどな。


「ほやぁ?つれないではないか。おまいたちの聖王はアレはまだ生きておるのか?」


「知らないわあんなヤツ、殺したって死なないでしょ」


「ずいぶんではないかぁ、でも気に入ったぞよ、わちきもアレは嫌いじゃぁ。きゃはは」


 すると美月が突然口を開く


「大地の聖剣を創った、聖地クエルクス…」


 そう言うと突然考え込む美月


「大地の聖剣が怪しいと言ってたこと、聖地と何か関係があるのか?」


 美月は首を横にふる


「それは分からない、大地の聖剣は聖地で創られ、勇者オーリューンが聖地で手にしたって文献で読んだから」


「そもそも大地の聖剣ってなんなんだ?特別な力でもあるのか?」


 すると美月は俺をじっと見て


「大地の聖剣には、倒した相手の魂を封じる力がある」


「へえ、聖剣の中に?」


「そう、だから聖剣に封じられた魔王はもう転生が出来ない...はず、なのに今、新しい魔王がいる」


「そうか、勇者オーリューンに倒された先代魔王は聖剣に封じられてるから転生出来ないはずか....確かに変だな」


 美月はうつむき、何やら考えている

 まだ隠してる事実を伝えるべきか悩んでるのかな


「ここでは…これ以上言えない」


 そう言って美月は周りを見る。

 確かにここじゃ誰が聞いてるかわかんないもんな。


 俺たちはとりあえず食事を終え、それぞれの宿泊する部屋に向かった。というかそのはずだった。


 泊まる部屋のドアの前に立つ俺は素朴な疑問をぶつける


「アルティナさん…なんでみんな同じ部屋なのかな?」


 ウソだろという感じで尋ねるとアルティナはあっけらかんと返してきた


「え?大部屋の方が安いし、話も出来るし好都合でしょ」


「いやいや、年頃の男女が同じ部屋で寝るってのは道徳的にだな」


 何を言ってるのかわからないという表情のアルティナ


「は?アナタは勇者で私は従者でパーティメンバーでしょ?美月だって勇者だし仲間なんだから問題ある?」


 あー…エルフってそういう感情が欠落してる種族だって何かで読んだことがある。そのせいで超長寿なのに人数が増えないとかなんとか。


 部屋に入るとベッドが三つあった、よかった…同じベッドじゃないのがせめてもの救いだ。

 奥には部屋専用に風呂もついているようだから、このメンバーでなければ結構良い部屋だな。


 俺たちはそれぞれのベッドを決める。

 真ん中が俺、右隣りが美月とニコル、そして左隣がアルティナ、うーむ完全なサンドイッチ、俺、今日眠れるかな。


 ある程度の部屋支度を整えた俺たちは、美月との聖剣話を再開することにした


 しばらく考えて美月が口を開く


「これはとても重要な話…」


「ごくり…それで」


「聖剣は…… 一本じゃなかった」


「え?!どういうことだ」


「私は見たの、他にも同じ聖剣を持つ者を」


 なんだかとんち問答みたいな話になってきたぞ。

 聖剣は聖地で創られて、それを手にしたのが勇者オーリューンで、王家に伝わるのが先代魔王を倒して封じてるオーリューンの聖剣で、なぜかそれがもう一本あって、なぜか魔王が転生復活してる?


「んーーーー?どっちかがニセモノってこと?」


 と混乱する俺に、すかさず美月が首を横に振る。


「私が持っていた聖剣は、ちゃんと聖剣としての能力が機能してたし、もう一つの聖剣もそうだった」


 ここでお茶を準備してたアルティナが話に入ってくる


「ねえ美月…もう一つの聖剣て、誰が持ってたの」


 すると美月はうつむいて黙ってしまった


 えー、それを教えてくれたら核心に迫れるのに。

 なんではっきり言わないんだよ。


 そして美月がボソリボソリと話す


「まだ確信が持てない点があるの、だからもうちょっと待って欲しい」


 まあ美月がそういうならこれ以上聞くのはやめておこう。少なくとも嘘をつくような子じゃなさそうだし、何か考えあってのことだろう。


 俺と同じ考えに至ったのかアルティナは質問を変えた


「そういえば聖剣には、勇者にしか使えない特別な能力があるのよね」


「うん…例えばこれ」


 そういうと美月は立ち上がり、両手を目の前に出して、何かを受け取るように手のひらを上に向けた。

 そしてスキルを唱える


【ライト・リバース】


 するとその手に大地の聖剣オーリューンが現れた。

え?!なんだ……これって俺が武器屋に売っぱらったやつだよね?おれが詐欺師になっちゃうじゃん!?もうあの武器屋には行けないな…


「これは勇者がレベル30になると発現するスキル、聖剣が認めた勇者なら、拓海にも使えるはず」


 たしかにレベル30に上がった時からステータスに、そのスキルが追加されてる。よく分からない名前だったので放置してたんだった。


 続いて美月は聖剣に手をかけ、鞘から一気に剣を抜いた。すると元々青白く光っていた剣刃が、一際輝き美月の体も同じ光に包まれた


【勇者覚醒】


 美月がまたスキルのようなものを唱えたかと思うと、聖剣の中に光が収束した。

 それを見終えた美月は再び聖剣を鞘に納めた。


「これが、勇者と聖剣に与えられた能力」


 美月の話によると、勇者がレベル30で習得するこのスキルを使えば、仮に聖剣を落としたり盗まれたり手放したりしても、ここ聖剣が認めた勇者であればいつでも手元に帰還させることが出来るとのこと。


 同時に、レベル30になった勇者は、聖剣を鞘から抜いて装備することが可能になって「勇者覚醒」というスキルを獲得。それを使うことで「覚醒勇者」になってレベル30制限が解除となるらしい。


「ふーん、なるほどね、勇者職のレベル制限解除って独特なんだな」


 なぜならクエルクス・ワールドでも30、60にレベルキャップがあるが、人間種なら試練を受け上位職になる事で制限を解除出来る仕様だった。同じような仕組みが魔族や魔物にもあって、上位種に進化する事でレベルキャップが解除される。


 俺は勇者職を選ばずに、戦士職と縛りプレイしかやってないから勇者の仕様はよく分かってないんだよな。


「って事は、俺にもそれが出来るってこと?」


「たぶん…やってみて」


 俺は美月の見よう見真似でやってみることにした


【ライト・リバース】


 すると美月の手にあったはずの聖剣が消え、俺の手の中に現れた。


「なるほど、便利なスキルだな、でもこれって勇者間で剣の奪い合いにならないか?」


 するとアルティナが


「勇者は基本的に1人しか存在しないのがこの世界の常識なの、正直言って二人の勇者が共存してる現状が驚きだわ、ある意味大発見かも」


 なるほどなー、でもまあ俺は聖剣は装備出来ないから関係ないんだけどな。かんけい、あれ?ちょっとまてよ?


「俺、聖剣を、鞘から抜けないんだが…」


 さっきからガチャガチャやってるがまったく抜ける気配がない。


 するとアルティナ


「だってアナタ、棍棒しか装備できないんでしょ?」


「あ!」


 はっとなる俺


「あ…」


 何かに気がつく美月


「あ?!あーーーーーーーーー!!バカァ!!それってアナタだけがもうレベルアップできないってことじゃない!!」


 当然に絶叫するアルティナ。


 またバカって…でもたしかにこれはヤバいぞ、この先どうすればいいんだ俺は。


 永遠に続くかのような美しいエルフの怒りの説教と共に、不穏な夜がふけっていった。

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