「ちっ、美月、いったん距離をとるぞ」
俺たちは急いで居合の射程圏外まで下がる。
美月が心配そうに俺の腕を握りながら
「どうする?ここでは回復魔法も、回復薬も使えない」
そう、
それが、魔導士のアルティナをあえて連れてこなかった理由でもある。
ていうか不死身じゃどっちみち攻略不可能だろ、くそ!
「さすがHP1のままじゃ無理だな、美月も怪我してるし、退却しよう」
俺たちが、入ってきたドアに向かって走り始めた時だった
「またれよ!おぬしらの勝ちだ」
「え?そうなの?」
そして恐る恐る、
「はっはっは、これほどの巧者だったとは、驚いたぞ」
相変わらずな豪胆だが、戦闘中よりも優しげな口調の
安心した俺たちは、床にどっかりと座り込み、安堵のため息をつく。
「なんだよ、最初に言っといてくれよ、ていうか不死身ってなんだよ反則だろ」
まったく安心と不満とまざった複雑な心境だ
「許せ、拙者はこの扉を守るために英雄スルバによって創造されし者、わかりやすく言うとゴーレムだな」
なるほどね、人じゃなかったわけか、まあどう見ても人外の強さだったけど。
気を取り直し、俺は気になってた事柄を
「そういえば...120年振りのとか言ってたけど、以前に強者と戦ったのか?」
「そうだ、120前に、拙者は倒された事がある」
なんと、この
すると美月が気がついたように
「それは、もしかして先代魔王を倒した勇者…」
「その通りだ、勇者オーリューン、あやつはまさしく剛者だった」
懐かしそうに満足げな様子の
まさか俺と同じユニークの持ち主だったのか?これは気になる
「オーリューンもあの奥義を回避できたってことか?」
という問いに
「いや違う、あやつは拙者の奥義を超える数の連撃を放ち、打ち勝ったのだ」
あの八連撃を超えるとは本当に人間かよ…
ちなみに何連撃だったのか尋ねると
「うむ、数えたわけではないが、本人は十六連撃と言っておったな、つまり拙者の倍だな」
十六連撃って伝説のなんとか名人かよ!でもあれは1秒間にだろ?0.1秒なら160連射ってことじゃん、ありえないだろ…
「なんだよそれ、完全にチートじゃん、流石に俺も避ける自信がないわ…」
「いや、お主なら案外やれるかもしれんぞ、はっはっは」
なんか
いやまて、え?ってことは、俺は焦った
「まさか、この先の、ファランクス…勇者オーリューンがすでに攻略しちゃった後なのか?」
ん?と考えるようなそぶりをみせた
「ああ、それには失敗したようだぞ」
「「しっぱいした?」」
俺と美月の驚いた声がコントみたいに重なった。
そりゃそうだ、その化物みたいな強さの勇者オーリューンが攻略できないんじゃ俺らにも到底無理だろ。
「この先のアレは、ちょっと変わっておってな、うむ」
そう言うと
「この鍵で、その扉を明ければ、アレに挑戦する事ができる。英雄スルバがこの場所を創って以降、未だアレを手なづけた者はおらぬが、まあ、悩むよりもやってみるが良い」
その鍵を受け取ると、不思議なことに俺と美月の怪我が治りHPが元にもどった。
続けて経験値が入り、俺と美月のレベルも27まで上昇する。
各自ポイントを振り分けたり、次の戦いに向けての準備をしている間に、
俺たちは
その奥の空間は
そこに近づくと、台座の上に手足のひっこんだ青白い亀の甲羅が乗っていた。
「これ...あの英雄の像にくっついてたこ」
そう言いながら美月が亀の甲羅に触れると、突然、甲羅が光輝き、空中に浮あがった。さらに甲羅から手足が生え、頭が飛び出し、うさぎのような姿の小動物が現れた。英雄スルバの像の肩に乗ってた、アレだ。
「わちきの眠りを妨げる不届きものめ!」
「おい美月…うさぎがしゃべってるぞ」
「うん…かわいい」
「うさぎではない!わちきの名前は大地の守護獣”ニコル”じゃ、えらいんだぞ」
なるほど名前だけきくと凄そうな雰囲気がある
「おい!おまいたち!もしかしてあわれな挑戦者か?わたちきを従わせるなど300年はやいのだぞ」
「なんか調子くるうな…者オーリューンは本当にこいつを攻略できなかったのか?」
「でも、このこ欲しい」
「きゃはは、オーリューンか、まあ口ほどにもなかったぞよ」
そんな会話が続いたあと、亀うさぎが何やら興奮し、偉そうに胸を張っている
「おまいたち!そろそろ試練をはじめるぞよ。そうじゃな〜見たところとても弱そうだから、二人同時でよいの、制限時間はうーん、10分じゃ」
試練とはなんぞやと尋ねると
「えっと、つまりぃだな10分以内に、わちきのファランクスを相手にい、わちきのHPが半分以下になるまでダメージを与える事ができれば合格じゃ!」
「試練を通過したら、俺たちのペットになるのか?」
「ペット?とは何かよくわかんが、合格すれば守護獣になってやってもよいぞよ、きゃはは」
「このペットほしい、拓海、やろう」
美月がいつになくワクワクしている、こういう変なのが好きなのか?
しかし、あの勇者ですら突破できなかったらしいから、相当に難しいチャレンジに違いない。
「よーし、じゃ始めてくれ!」
「わちきに挑めるチャンスは一回限りじゃ!でわぁ、【ファランクス】!」
その声と同時に、亀うさぎことニコルの甲羅から青い亀甲型のシールドのようなものが複数出現して、まるで意思がある生物のようにニコルを取り囲んだ。
「これがファランクスか…魔法防御壁に似てるな」
さてどうしたもんかと考えていると美月が言う
「伝説書に、盾と鎧を兼ねる、この世界で最強硬度の青い鱗を最大32枚操って防御するって書いてあった」
へえ、そうなんだ、美月って以前から亀うさぎが気に入ってて事前に調べてた?
「しかも、自分の意思でも、自動制御でも、臨機応変に選べるらしい」
なるほど、美月の豆知識のおかげで突破口が見えてきた。
っていうかこれ、俺たちにはヌルゲーなんじゃないか?
———数分後
ニコルはHPが半分程度になり、地面でジタバタしていた。
「うわーーーん、なんなんじゃおまいたちはぁ!消えたり出てきたりぃ、わけわからん貫通攻撃したりぃー反則なのじゃー!!」
「まあこうなるとは思ってたけど、約束はちゃんと守ってくれよ」
「はやく…ほしい」
するとニコルは悪あがきのように石の台座にのぼり、頭手足をひっこめて、再び亀の甲羅になった。
「いやじゃー!まだ半分じゃ!この体制になればわちきの防御力は32倍じゃ!」
なんかこもったような声で甲羅がわめいている。
半分以下なんだから半分でも合格だろ、ていうか【ワールドブレイク】を調整しながら殴るのもめんどうなんだが。
すると美月が甲羅の穴に剣をかざしてボソッとつぶやいた
「私のスキルなら…この隙間からも刺せるよ」
するとニコルは慌てて甲羅から頭と手足を出し
「まいりました!わちきはちみたちの守護獣になるときめたぞよ!えへへ」
こうして俺たちは、伝説の英雄スルバの、守護獣ニコルことファランクスを手に入れ目的を達成した。
クエストが終了したと同時に二人のレベルが30まで上昇した。
さて、あとはアルティナがどこまで情報収集出来たかだが、とりあえず火龍王討伐の条件が整った。
今回の最大の収穫はファランクスだが、美月がとんでもない能力を秘めてたこと、勇者オーリューン
がチート級の強者だったことなど、想定以上の成果を得られた気がする。
いやーやっぱ縛りプレイは楽しいな、と思っていた俺だったが、この後、この