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第12話 無敵の勇者と大地の守護獣

 悉那虎ツナトラは何事も無かったように、立ち上がった。みればHPも全開している。


「ちっ、美月、いったん距離をとるぞ」


 俺たちは急いで居合の射程圏外まで下がる。

 美月が心配そうに俺の腕を握りながら


「どうする?ここでは回復魔法も、回復薬も使えない」


 そう、悉那虎ツナトラの攻略を難しくしているのが、この「魔法使用禁止」と「回復アイテム禁止」という、この空間に課せられているルール、つまり縛りだ。

 それが、魔導士のアルティナをあえて連れてこなかった理由でもある。

 ていうか不死身じゃどっちみち攻略不可能だろ、くそ!


「さすがHP1のままじゃ無理だな、美月も怪我してるし、退却しよう」


 俺たちが、入ってきたドアに向かって走り始めた時だった


「またれよ!おぬしらの勝ちだ」


 悉那虎ツナトラが叫び、俺たちを呼び止めた。


「え?そうなの?」


 そして恐る恐る、悉那虎ツナトラの元へ近づくと


「はっはっは、これほどの巧者だったとは、驚いたぞ」


 相変わらずな豪胆だが、戦闘中よりも優しげな口調の悉那虎ツナトラには、どうやらもう攻撃してくる意思がなさそうだ。


 安心した俺たちは、床にどっかりと座り込み、安堵のため息をつく。


「なんだよ、最初に言っといてくれよ、ていうか不死身ってなんだよ反則だろ」


 まったく安心と不満とまざった複雑な心境だ


「許せ、拙者はこの扉を守るために英雄スルバによって創造されし者、わかりやすく言うとゴーレムだな」


 なるほどね、人じゃなかったわけか、まあどう見ても人外の強さだったけど。

 気を取り直し、俺は気になってた事柄を悉那虎ツナトラに尋ねる


「そういえば...120年振りのとか言ってたけど、以前に強者と戦ったのか?」


「そうだ、120前に、拙者は倒された事がある」


 なんと、この悉那虎ツナトラを倒せる奴が俺以外にいたってことか、でも120年前か、120年前…ん、なにか記憶に引っかかるぞ。


 すると美月が気がついたように


「それは、もしかして先代魔王を倒した勇者…」


「その通りだ、勇者オーリューン、あやつはまさしく剛者だった」


 懐かしそうに満足げな様子の悉那虎ツナトラだが、オーリューンはどうやってあの奥義を攻略したんだろうか。

 まさか俺と同じユニークの持ち主だったのか?これは気になる


「オーリューンもあの奥義を回避できたってことか?」


 という問いに悉那虎ツナトラは首を横に振る


「いや違う、あやつは拙者の奥義を超える数の連撃を放ち、打ち勝ったのだ」


 あの八連撃を超えるとは本当に人間かよ…

 ちなみに何連撃だったのか尋ねると


「うむ、数えたわけではないが、本人は十六連撃と言っておったな、つまり拙者の倍だな」


 十六連撃って伝説のなんとか名人かよ!でもあれは1秒間にだろ?0.1秒なら160連射ってことじゃん、ありえないだろ…


「なんだよそれ、完全にチートじゃん、流石に俺も避ける自信がないわ…」


「いや、お主なら案外やれるかもしれんぞ、はっはっは」


 なんか悉那虎ツナトラの性格好きなんだよな、憎めないっていうか、でもゴーレムだから、ここを守るだけの亡霊?みたいなもんだよな、人間なら仲間にして連れていきたいのに残念だな。


 いやまて、え?ってことは、俺は焦った


「まさか、この先の、ファランクス…勇者オーリューンがすでに攻略しちゃった後なのか?」


 ん?と考えるようなそぶりをみせた悉那虎ツナトラ


「ああ、それには失敗したようだぞ」


「「しっぱいした?」」


 俺と美月の驚いた声がコントみたいに重なった。

 そりゃそうだ、その化物みたいな強さの勇者オーリューンが攻略できないんじゃ俺らにも到底無理だろ。


「この先のアレは、ちょっと変わっておってな、うむ」


 そう言うと悉那虎ツナトラは懐から青い鍵をとりだした


「この鍵で、その扉を明ければ、アレに挑戦する事ができる。英雄スルバがこの場所を創って以降、未だアレを手なづけた者はおらぬが、まあ、悩むよりもやってみるが良い」


 その鍵を受け取ると、不思議なことに俺と美月の怪我が治りHPが元にもどった。

 続けて経験値が入り、俺と美月のレベルも27まで上昇する。

 各自ポイントを振り分けたり、次の戦いに向けての準備をしている間に、悉那虎ツナトラは再び扉の前の舞台に戻り、最初に見た正座の姿勢になって沈黙した。


 俺たちは悉那虎ツナトラに深々とお辞儀をした後、その後ろにある扉を開き、中にはいった。


 その奥の空間は悉那虎ツナトラの部屋よりさらに一回り小さく、部屋の真ん中に、人の身長より少し低い台座のような石がある。


 そこに近づくと、台座の上に手足のひっこんだ青白い亀の甲羅が乗っていた。


「これ...あの英雄の像にくっついてたこ」


 そう言いながら美月が亀の甲羅に触れると、突然、甲羅が光輝き、空中に浮あがった。さらに甲羅から手足が生え、頭が飛び出し、うさぎのような姿の小動物が現れた。英雄スルバの像の肩に乗ってた、アレだ。


「わちきの眠りを妨げる不届きものめ!」


「おい美月…うさぎがしゃべってるぞ」


「うん…かわいい」


「うさぎではない!わちきの名前は大地の守護獣”ニコル”じゃ、えらいんだぞ」


 なるほど名前だけきくと凄そうな雰囲気がある


「おい!おまいたち!もしかしてあわれな挑戦者か?わたちきを従わせるなど300年はやいのだぞ」


「なんか調子くるうな…者オーリューンは本当にこいつを攻略できなかったのか?」


「でも、このこ欲しい」


「きゃはは、オーリューンか、まあ口ほどにもなかったぞよ」


 そんな会話が続いたあと、亀うさぎが何やら興奮し、偉そうに胸を張っている


「おまいたち!そろそろ試練をはじめるぞよ。そうじゃな〜見たところとても弱そうだから、二人同時でよいの、制限時間はうーん、10分じゃ」


 試練とはなんぞやと尋ねると


「えっと、つまりぃだな10分以内に、わちきのファランクスを相手にい、わちきのHPが半分以下になるまでダメージを与える事ができれば合格じゃ!」


「試練を通過したら、俺たちのペットになるのか?」


「ペット?とは何かよくわかんが、合格すれば守護獣になってやってもよいぞよ、きゃはは」


「このペットほしい、拓海、やろう」


 美月がいつになくワクワクしている、こういう変なのが好きなのか?

 しかし、あの勇者ですら突破できなかったらしいから、相当に難しいチャレンジに違いない。


「よーし、じゃ始めてくれ!」


「わちきに挑めるチャンスは一回限りじゃ!でわぁ、【ファランクス】!」


 その声と同時に、亀うさぎことニコルの甲羅から青い亀甲型のシールドのようなものが複数出現して、まるで意思がある生物のようにニコルを取り囲んだ。


「これがファランクスか…魔法防御壁に似てるな」


 さてどうしたもんかと考えていると美月が言う


「伝説書に、盾と鎧を兼ねる、この世界で最強硬度の青い鱗を最大32枚操って防御するって書いてあった」


 へえ、そうなんだ、美月って以前から亀うさぎが気に入ってて事前に調べてた?


「しかも、自分の意思でも、自動制御でも、臨機応変に選べるらしい」


 なるほど、美月の豆知識のおかげで突破口が見えてきた。

 っていうかこれ、俺たちにはヌルゲーなんじゃないか?


 ———数分後


 ニコルはHPが半分程度になり、地面でジタバタしていた。


「うわーーーん、なんなんじゃおまいたちはぁ!消えたり出てきたりぃ、わけわからん貫通攻撃したりぃー反則なのじゃー!!」


「まあこうなるとは思ってたけど、約束はちゃんと守ってくれよ」


「はやく…ほしい」


 するとニコルは悪あがきのように石の台座にのぼり、頭手足をひっこめて、再び亀の甲羅になった。


「いやじゃー!まだ半分じゃ!この体制になればわちきの防御力は32倍じゃ!」


 なんかこもったような声で甲羅がわめいている。

 半分以下なんだから半分でも合格だろ、ていうか【ワールドブレイク】を調整しながら殴るのもめんどうなんだが。


 すると美月が甲羅の穴に剣をかざしてボソッとつぶやいた


「私のスキルなら…この隙間からも刺せるよ」


 するとニコルは慌てて甲羅から頭と手足を出し


「まいりました!わちきはちみたちの守護獣になるときめたぞよ!えへへ」


 こうして俺たちは、伝説の英雄スルバの、守護獣ニコルことファランクスを手に入れ目的を達成した。

 クエストが終了したと同時に二人のレベルが30まで上昇した。

 さて、あとはアルティナがどこまで情報収集出来たかだが、とりあえず火龍王討伐の条件が整った。


 今回の最大の収穫はファランクスだが、美月がとんでもない能力を秘めてたこと、勇者オーリューン

 がチート級の強者だったことなど、想定以上の成果を得られた気がする。


 いやーやっぱ縛りプレイは楽しいな、と思っていた俺だったが、この後、このがとんでもない事態を引き起こしてしまうことになるとは、俺はまだ気づいていなかった。


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