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第11話 回避不可能な領域

 クエルクス・ワールドにも登場する紺碧の武者こと悉那虎ツナトラは、攻撃力と防御力は高いが俊敏スピードは大した事ないしHPもさほど多くない。


 その代わり個性的で強力な刀スキルを複数持っている。しかもこの刀スキル攻撃が厄介で俊敏と関係ない原理の速度で襲ってくるのだ。


 おそらく今構えているのが、刀の届く範囲に入った敵を即自動反撃するスキル、【八卦陽陰】。

 射程範囲に日輪のような輪が浮かびその内側を光が照らしているので危険地帯が分かりやすい。


 反撃はすべて【カウンター】扱いになっていて、もし斬撃を受ければ通常の二倍ダメージを貰うことになり、今のレベルで下手に飛び込めば即死することになるんだが…


 もちろん俺はこのまま飛び込む!


「【カウンター】」


 走り込みながら、こちらも回避直後の攻撃が2倍になるカウンタースキルをかける。


 俺が射程距離に飛び込むと同時に悉那虎ツナトラのスキルが発動


「【八卦陽陰】」


 抜刀からヒットまでわずか0.1秒という超高速で居合の斬撃が襲っくる。


 俺はスローモーションでその斬撃を見極め、ギリギリで回避すると、そのまま悉那虎ツナトラの懐に入り胸部にファストアタックを発動、カウンターの蓮撃を見舞い、すぐさま射程外へとステップアウトした。


 しかし鎧の硬い悉那虎ツナトラのHPは1割ほど削れただけだ


「ほう、八卦陽陰を初見で避けた上、反撃まで繋げるとは天晴れな奴」


 悉那虎ツナトラが感心したような口調で俺を見る。

 鎧のせいで目線は分らないんだけどたぶん見てる。

 俺は(ゲームだけど)一度見た技や、来ると分かってる技なら魔法やブレスの範囲系攻撃でない限り絶対に回避する自信がある。


「そんな程度の技じゃ、俺には届かないぜ」

「言いおるわ、お主のような相手は120年振りだ」


 俺は偉そうに言ったものの、実は悉那虎ツナトラの、最後の奥義技だけは、諸事情あって攻略出来なかった。


 だがそれはゲームでの話だ!リアルなら突破できるはず。


 とその時——


 目の前に突然、美月の姿が現れ悉那虎ツナトラが、がくりと一瞬膝を落とす。


 ——【 ひかりを喰らふ者】


 美月の見えない攻撃が決まった。

 見ると悉那虎ツナトラのHPが3割ほど削れてる。


 しかしこのままだと、露見した美月が悉那虎ツナトラの居合範囲なので、俺はすぐさま棍棒のノックバック攻撃で奴を美月から遠ざけた。


「美月!よくあの鎧を貫通できたな」


「私の見えない攻撃は、装備の防御力を無視するの」


 なるほどね、あの技を受けるときは、生身の防御力だけってことか。

 俺のワールドブレイクほどではないが、悉那虎ツナトラみたいな重装戦士が相手の時は超有利だ。


「でも安心しないで、私のは、見られる度に意識されやすくなるから」


 なるほど、初見必殺の暗殺スキルってわけね。

 あともう一回くらい決めてもらえると助かるんだが。


「拙者の八卦陽陰は消せぬ人影を捉える技、おなごよ…ぬしの技は影をつくりし光そのものも消すようだな」


 ほうほう、それぞれの技はそいういう原理なのか、だからといってどうやってるのか分からんが。

 しかしさすがは紺碧の武者、悉那虎ツナトラだ、奴に同じ技を二度決めるのは厳しいか。


「色々解説しちゃって大丈夫か?悉那虎ツナトラ!」


 と俺は悉那虎ツナトラを挑発するように叫ぶ


「ふん、分かっていても如何にもならないのが、真の技というもの」


 そう言うと悉那虎ツナトラは刀を両手で持ち、天を衝くような構えを見せた。


「美月!やばいのが来るぞ」


 そう叫んだが、彼女の気配はもう既に意識出来ない。

 いやー、攻防一体とは便利なスキルだね。

 自分の心配をするかということで、俺は攻撃に備える。


 すると悉那虎ツナトラが垂直に自身の3倍ほどの高さへ跳び上がりそのまま空中から


【戦乗龐衰斬】


 無数の円月型の斬撃を四方八方に繰り出してきた。


 斬波にさほどスピードは無いが、とにかく数が多く、そこら中の地面が切り付けられている。雨あられとはこのことだ。


 俺が全ての斬撃を【時を統べる者】のスローモーションで回避しつつ、悉那虎ツナトラを落下地点で迎え打つべく距離をつめたその時だ


【雲龍不知火】


 悉那虎ツナトラは落下しながら、真下に向かって強烈な一太刀を振るってきた。


(やばい!読まれてる)


 俺は、即座に反応し、その斬撃の射程外へ回避行動をとった。

 しかし悉那虎ツナトラの狙いはそれだけではなかった。


 奴は斬撃が地面に当たると同時に、まだ空中にある両足を輝かせ、そのままの勢いで両膝で地表へ強烈な膝蹴り入をれる。


【四股踏地壊】


 その瞬間、一太刀目の斬撃の衝撃と足技の衝撃が重なり、めくり上がった周囲の岩盤が、鋭利な石槍となり無数にせり上がってきた。


 空中からは斬波の雨あられ、落下地点への強烈な斬撃、広範囲の地面から無数の石槍。

 スローモーションで大半の攻撃はなんとか回避できたが、さすがに全てを避けることが出来ず、HPが半分以下になるダメージを受けた。


「めちゃくちゃしやがる!でもすげえ」


「う…」


 すぐ近くで美月の声が聞こえた、どうやら美月もダメージをうけたらしく、残りHPが俺より少ない。


 そうか、意識されないといっても、本当に消えているわけじゃない、俺と同様に広範囲攻撃をされると厳しいってことか。


「大丈夫か!美月」


「ちょっと厳しい、地面がこうだと技が」


 そうか、悉那虎ツナトラの狙いは美月を戦力外にすることか。彼女の技はなんとなくだが、隠密と縮地を合わせたような移動方法を使っている感じがするから、この足場だと厳しいのか。


 ってことはあいつ、まだ俺の方を舐めてるわけだな、好都合だ。


 今のは三つのスキルを合わせたコンボ技・・・CTからいって再び使うにはまだ時間がかかるはず、ていうかもう一度使われたら俺らは全滅だ。


 今やつが出せるのは八卦陽陰と、俺が攻略出来なかった最強奥義ってところだがどうする。一か八か、やってみるか。


 俺は狂気の腕輪を装備しスキルを発動する。


【ラストリゾート】


 攻撃力が3倍になる代償にHPが残り1になる玉砕技だ。


「ほう、ここで玉砕を選ぶとは、大した覚悟だ」


「決着といこうぜ、おまえの最強奥義を出せよ」


 すると、悉那虎ツナトラは八卦陽陰の構えをやめ直立の姿勢で刀を両手垂直にし、やや腰を落とした自然体のいわゆる八相という構えだ。


(よしくるぞ)


「その見上げた心意気に我が奥義で応えてやろう....」


「奥義 【八卦八相八閃】」


 この奥義は相手が八卦陽陰の射程圏に入ると同時に、八方向から八連続の斬撃を0.1秒以内で発動するというチート級の大技だ。


 俺は以前ゲームでは、その斬撃の一部を回避する事が出来なかった。その時は奴にそれ以上近づくことが出来きず、途中で撤退するしかなかったのだ。


「拓海、大丈夫なの?あのゲームでも、誰も攻略したことがない技だよ」


 そうこれのせいで、このクエストは無理ゲー、運営のバグと言われてたくらいだ。


「大丈夫だ、ゲームでは避けられなかったが、今回はやれる!」


「わかった、信じる」


「よし、【カウンター】」


 俺は【カウンター】スキルを起動させ棍棒を握り締める。

 身体中のアドレナリンが湧き上がるようなこの感覚、やはり俺は困難なほどに集中力が高まるんだなあああ!


「いくぞ!悉那虎ツナトラぁああ!」


 俺が射程に入った瞬間、悉那虎ツナトラの奥義が発動。


 八つの方向からの斬撃、俺の集中は最高潮に高まり、いつも以上に世界の時間が伸縮する——

一撃目を回避、二撃目を回避、三、四、五、六、そして七撃目(ゲームではここで食らったが)、これも回避、時間が止まったと錯覚するこの感覚、そして最後の八撃目も回避!


「【ファストアタック】」


 【ラストリゾート】で3倍、さらに【カウンター】で2倍となった合計6倍攻撃力に【ワールドブレイク】が確定、防御貫通攻撃がヒットする。さらに二連撃目の追い討ちも決まり、悉那虎ツナトラは倒れた。


「よっしゃーーーー!!最高だ!」


 胡座をかくように崩れ動かなくなった悉那虎ツナトラを剣でツンツンする美月


「すごい…本当に倒した」


「なんで…ゲームでは倒せなかったんでしょ?」


「それはだな、フレームレートってやつだ」


「フレームレート?」


「ああ、クエルクス・ワールドは、ゲームクオリティを維持するためにフレームレートを1秒間60フレームに固定されてるんだ」


「それとこれと、どんな関係があるの?」


悉那虎ツナトラの攻撃は0.1秒で繰り出される、それは60フレーム換算だと6コマなわけ」


「うん、たしかに、それで?」


「あーだからさ、0.1秒の間で認識出来るのは6撃目までで、それ以上はフレーム不足になって表示されないから流石の俺でも見えないものは避けられないわけよ」


「なるほど…リアルな世界にはフレームレートが無い」


「そう、今回はすべての斬撃が最後まで見えた。だから回避出来たってことだ」


「拓海…やっぱりヘンタイ」


「そう褒めるなって」


 そんなやりとりをしていると突然、悉那虎ツナトラに青白い光が灯る。


「拓海…復活する!」


「まじかよ…それは反則だろぉ!」


 すると、悉那虎ツナトラは再び立ち上がった。

 まさか…こいつ不死身なのか?俺達は絶望感に包まれた。

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