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第10話 紺碧の武者に挑め

 実は青の洞窟の海中を数メートルほど潜った壁面には横穴が空いている。


 クエルクス・ワールドの元プレイヤーだった俺たちは迷うことなく横穴へ向い奥から微かに見える光の方角へと進んだ。

 辿り着いた場所には体育館ほどの広さの空洞があり、地上と同じように空気があった。

 空洞の中の壁は青白く鈍く光り、満月の夜程度の明るさが保たれていた。

 奥には石壁に大きな扉があって明らかに自然に出来たものではないと分かる。


「やっぱりあのゲームと同じだったな」

「うん」

「あ、そういえば…」


 と美月の方を見たら、海水でびっしょりと濡れた彼女の白いワンピースが体に貼り付き、細いウエストや、胸の辺が透けていて大変目のやり場に困った。これはゲームには無かった仕様だ。

 そんな俺の焦った目線に気がついたのか、美月は急いで紺色のガウンの前を閉めて座り込んだ。


「いや、そういうつもりじゃなかったんだ!」


「……ヘンタイ」


 なんだかんだ俺も年頃の男だよ、同郷で同じ高校生ってのがリアル過ぎて、なんだか急に恥ずかしくなってきた。

 これがアルティナくらい異次元な美人だとマネキンやCGみたいで逆に意識しなかったんだけどな。


 ———その頃宿屋で価格交渉をしているアルティナさん


(ん…なんか、急にイライラしてきた)


 冷たいオーラを感じとった宿屋の主人


「わ、わかりましたよ、その価格で良いです!」


 場面は再び青の洞窟...


 俺たちは焚き火をおこし、火に互いに背をむけて座り、服を乾かしていた。


 気まずいな・・・こういう場合どんな話をすればいいんだろう。この沈黙の時間は、まるで拷問に近いものがある、この後二人で戦闘しなきゃいけないのに困ったぞ。


 そういや、美月のステータスをまだ確認してなかったな、レベル20って言ってたっけ、魔王と対峙するくらいの勇者だったってことは、スペック以上の能力なんかも持ってるはずだよな。


「あのー美月さん、仲間として、お互いのことをもっと知っとくべきだと思うんで、君のを見ていいかな。もちろん俺のも見せるからさ。」


「え…急にそんなこと言われても、まだ、そんなに、仲良くもない」


「いやいや…これからしばらく一緒にいるわけで、そういうの大事だと思うんだ」


「アルティナは…いいの?」


「アルティナのはもう見たよ、すぐに見せてくれたよ」


「え……そうなの、そういうものなの?」


 こいつはどんだけコミュ障なんだよ...パーティを組むなら情報開示は当然だし、戦略や連携に関わる話だし、ずっとソロだったわけでもあるまいし、今まではどうしてたんだよ。


「うん…じゃ、覚悟きめる!」


 そう言って美月が思い詰めたような真剣な顔でこちらに向き直したので、俺も彼女の方に向き直す。

 なんかガウンを握る手が震えてるようなのだが、もしかして寒かったのか、風邪をひいてなきゃいいんだが。


「ありがとう、俺のユニークについてもちゃんと説明するからさ」


「エ?」


「え?」


「あ、あ、あ、あたしてっきり」


「はい?」


 美月は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。なんなんだこの子は、相変わらず発言や行動の要点が見えないのだが、とりあえず、開示はしてくれるみたいなのでスキャンしてみた。



 美月みづき

 職業:勇者 Lv.20 

 HP:380 MP:180

 体力:75

 攻撃:100

 防御:80

 俊敏:75

 魔力:55


 体術:Lv.1

 剣術:Lv.20

 魔術:Lv.1

 神恵:Lv.16


 装備:月華の剣 (攻撃+78 魔法防御30) 幻影クロス(防御+40 隠密40)、幻影シールド(防御25、回避35)

 スキル:【サーチキャスト】【旋風斬(CT60)】【疾風連斬(CT60)】【防御魔法 第二界】【神聖魔法 第二界】


 ユニークスキル:???


 なるほど美月は剣術、盾、回復、バランス系、生存率重視ってところか、俺とは真逆って感じがするな。

 どちかっていうと騎士っぽい構成だが、弓使いでもないのに隠密にこだわってるようだな。

 神からもらったラストエスケープは失ってるらしいけど、あれは戦力にならんスキルだし、何か他にユニークとか持っているんだろうか。


 一通り美月のを見た後に、今度は俺のステータスを開示し、二つのユニークスキルについて説明した。

 もちろん棍棒しか装備できない縛りについても。


 拓海たくみ

 職業:勇者 LV.21 

 HP:320 MP:130

 体力:25

 攻撃:130

 防御:25

 俊敏:195

 魔力:25


 体術:Lv.21

 剣術:Lv.1

 魔術:Lv.1

 神恵:Lv.1


 装備:棍棒 (攻撃+1) レンジャークロス(防御+10 俊敏+20)


 スキル:【サーチキャスト】【ファストアタック(CT60)】【ノックバック(CT60)】【カウンター(CT30)】


 ユニークスキル:【ワールドブレイク(25%)】【時を統べる者】


「すごい…ワールドブレイク…世界の理を…破壊できそう」


「まあ、そのかわり棍棒しか使えないけどね」


「でも、【時を統べる者】は、私ならなんとかできるかも」


「おっと、言うね〜。先代勇者どのは広範囲魔法なんて使えなさそうだけど?」


「魔法はいらない、剣で…」


 もしかして美月の特別な能力なのか、勇者に選ばれたんだからありえない話じゃない。


「じゃあちょっとそれ、今試せるか?」


「…やってみる」


 美月が立ち上がったので、俺も立ち上がり棍棒を身構えた。


 すると美月は、焚き火をゆっくりと反時計回りで歩きながら紺色ガウンのフードを被った。

 彼女が俺の視界ギリギリまで移動したあたりで、突然気配が消える。


 隠密のスニーク効果か?いや違う、存在そのものを意識できない。


 そして気がつくと俺の喉元に美月の剣が突きつけられていた。


 まさか俺が…避けられなかっただと?

 時を統べる者 が発動しなかった?

 いやちがう、攻撃を意識出来ないのだから、意識を集中することも出来なかったんだ。


 ユニークスキル:【ひかりを喰らふ者】


「とんでもねえな、これは」


 美月は剣を納めフードを外すと、俺の顔をじっと見つめ能力の説明をはじめた。


 この能力は美月の家族に代々伝わる「公儀隠密」が使っていた特殊な技術だということだった。

 原理については門外不出ということで教えてもらえなかったが、存在を認識できない、意識できないのってのは、FPSゲームのスナイパーに無意識から突然撃たれる感覚に近い。


「これが、兄、そして私が、勇者に選ばれた理由」


 なるほどね、俺の 【時を統べる者】 と同様に 完全固有の能力。

 つまり代償の要らない、本物のユニークスキルってわけだ。

 選ばれる勇者ってそれぞれ何かしらの固有能力を持っているのかもしれないな。


 そうこうしているうちに服も完全に乾いたので、俺たちは目の前の扉に向かった。


 この奥にいる奴は、一筋縄ではいかない、というか俺たちのレベルでは本来攻略不可能な相手なんだけども、美月と俺の能力を合わせれば突破できる可能性は十分ある。


「よし、開けるぞ、覚悟はいいよな」


「うん、やろう」


 青白い扉が錆びた音を立てて開くと、一回り小さな空間が広がっている。


 その中央には石のタイルで出来た武道場のような舞台があり奥にもう一つの扉が見えるのだが、その扉の前に鎧を着た武者のような出立ちの何者かが正座している。


 俺たちが石畳に足を踏み入れると、鎧の人物がゆっくりと立ち上がり左の腰に下げた大刀に手をかけ、構えた。


「何人も、この先には通さぬ、命惜しければ、いますぐ立ち去れ」


 そう言うと、鎧全体から青白いオーラが立ち上り、明らかな臨戦体制になった。


 これが、最初の難関 ”紺碧の武者 悉那虎ツナトラ” だ、ちなみにゲームでは、負けはしてないが、一度も勝てたことがない。


 しかし今回の目的のためには、なんとしても倒さなければならない。


「今日こそ決着をつけるぜ! 悉那虎ツナトラツナトラ」


 俺は棍棒を抜き、猛烈な速度でダッシュした。

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