時間的な猶予もあまりないということで、俺たちは翌朝、馬車をチャーターし出発した。
王都から火龍王が居るオスボリン山までは馬車で一週間の距離だ。といってもいきなり火龍王にではなく、中間地点にあるスルバスという都市にまず向かうことにした。
アルティナには、道すがら俺の強さの秘密、二つのユニークスキルの特性についていて説明した、パーティを組む以上は、互いの能力を把握していたほうが都合が良いからだ。
ちなみに、相手のユニークスキルは【サーチキャスト】で見ることは出来ない。ただし自分に対してユニークスキルが使われた場合には、その名前や性能を把握することが出来る。使用するまで相手に知られない、把握されないということで、ここぞという時の必殺技として使われる。仮に見られたとしても、相手を倒してしまえば知られてないのと同じだ。
「あなたのユニークスキル、ワールドブレイク(25%)と 時を統べるもの は初めて聞くスキル名だし、私の知る限り過去に所有してた人物もいないわ」
アルティナには、俺の方が年下だし遠慮しないでほしいと頼んだので、今ではすっかりタメ口になっている。遠慮なく年上扱いしたのが気に入らなかったようだが、エルフだし俺より下ってことは絶対ないだろう、めんどうなので、あえて年齢は聞かなかった。
「でも、そのユニークスキルには欠点も多いわよ、その性能を知ってる今なら、私、アナタを確実に倒せると思う。」
「ほう、例えばどうやって倒す?」
「時を統べる者 は確かに強力なスキルだと思う、でも相対的な速度が上がるわけじゃないのよね、私ならアナタが避けられない広範囲魔法で仕留めるわ、もちろんHPを完全に削り切るオーバーキルでね」
「おーこわ、確かに広域魔法はきつい」
俺がニヤニヤしながら答えると、アルティナは何か考えるような顔をして、また俺の方へ向き直おる
「それと、自分のスピードがバレると対策されちゃうわよ?俊敏ってバフで強化したり、逆にデバフさせたりするのは高レベルな相手なら造作もないから!」
「うんうん、さすがは王直属魔導士、鋭いね」
驚きもしない俺を見てアルティナは「まったく」と呆れた表情をしている
「とくにね、そのワールドブレイクが問題なのよ、そのスキルは大袈裟な名前のとおり、世界の常識を破壊出来る特殊性能だと思う…でもねアナタの棍棒しか装備出来ないっていう、
「いやー…結構相性が良いと思うんだけど」
「いいえ!ユニークスキルっていうのは初見必殺こそが強さなの!
アナタの場合、戦闘に時間がかかりすぎる!しかも4回に1回てパターンも単調過ぎて知能の高い敵ならすぐに対策できる!むしろ相性最悪よ」
「ふふん、まったく対策しないわけじゃないさ」
と俺はインベントリから腕輪を取り出す。緑色の石の装飾が僅かに光っている。
「これは、俊敏性が5分の1に低下する代償として、HPの自然回復速度を5倍にするゼンの腕輪だ、まあ通常は怪我の療養中や疲れて寝る時に装着する魔法アイテムだが、今日からこいつを常時装備するつもりだ」
そう言いながら腕輪を装着すると、なんか全身がほんわか癒される気がした
「それで初見は偽装できるかもしれないけど、急に襲われた時に大変じゃないの?」
腕組みしながらしげしげと腕輪を見ているアルティナに俺は自信満々の笑みを見せた
「MPは消費するけど、こいつには一瞬でインベントリから脱着できる機能がある、それに俺は時を操れるんだから突然でもなんとでもなる」
そう言って俺は実際に腕輪の瞬間脱着を何度か披露した
「だとしても、魔法対策と、戦闘の長期化をなんとかしないと、結果は同じよ。それに火龍王には広範囲ブレス攻撃があるし、強力な範囲魔法やユニークスキルまで持ってるらしいわよ。」
と不満と不安が入り混じった顔をするアルティナ
「まあそこは、次の目的地である程度対策できるはずだ、ご心配なく」
俺が自信満々なので、アルティナもはいはいと諦め気味の返事をした。
その後も他愛もない会話をしつつ、彼女のステータスを見せてもらった。
アルティナ:魔導士Lv37
HP:595 MP:760
体力:90
攻撃:85
防御:95
俊敏:145
魔力:215
体術:Lv.15
剣術:Lv.1
魔術:Lv.37
神恵:Lv.28
装備:エルダーウィスプ(魔力+125)、ムーンライトヴェール(防御+89 魔法耐性50、火炎耐性80)
スキル:【攻撃魔法 第6界】【防御魔法 6界】【神聖魔法 第5界】【魔力覚醒】【二重詠唱】【自動防壁】【祝福】【大詠唱】【上級魔法耐性】【スタッフバッシュ】【サーチキャスト】
なるほど、さすが王直属だけあってアルティナはかなり優秀な魔導士だ。攻・防・神の3魔法すべてを5界まで使えるプレイヤーは滅多にいないというか、ゲームなら英雄クラスといっても過言じゃない。
「なによ、顔に何かついてる?」
俺がまじまじと見つめているのでアルティナは恥ずかしそうに目を背ける
才能がある上に、絶世の美女で、性格もわるくないだと?こういう完璧キャラは逆に人気ないんだよな、何か笑える欠点とか無いのかな。
「アルティナってさ、友達少なそうだよな」
「はあ?い、いるわよ、友達くらい、修練ばかりしてて、あまり会ってないけど、連絡が無いだけで、い、います!」
顔を真っ赤にして怒りだしたので、これ以上は触れないでおこう。
かわいそうに、たぶんボッチなんだろうな、まあともかく戦力としては相当頼もしい奴であることは間違いない。
それから大したトラブルもなく街道を進み、目的の都市まであと1日といったところで、前方から複数の影が全力で走ってくるのが見えた。
兵士らしき騎馬の二名、どちらも負傷しているようだ。
彼らは馬車の前にくると馬を止め、俺たちに向かって大声で叫んだ。
「ここから先は危険だ!魔族の兵士団が待ち伏せしている!引き返せ」
それを聞いたアルティナは馬車から降り、兵士達に叫ぶ
「私は王直属魔導士アルティナ!何があったのですか?他に怪我人は?」
「おお、アルティナ様でしたか!私たちの分隊は、スルバスに向かう重要人物の警護を務めていましたが、魔族兵団の待ち伏せに遭いました!重要人物は囚われてしまい、私たち以外の兵士は壊滅したので急いで王都へ救援を要請しにいくところです!」
やれやれと俺も馬車から飛び落りた
「敵の構成は!どんな奴らだった?」
「レベル20前後の総勢30ほど、ただ魔族士官が2名いて魔術師と剣士でそれぞれレベル40、私たちではどうにもなりませんでした!」
この騎兵のレベルは20弱だ、とても勝てる相手じゃない。
「君たちは、王都に戻って報告してくれ、そいつらは俺たちが何とかする」
そういって俺は棍棒を掲げる。
「その、あなたは、え?勇者?……しかし、行けば確実に死にますよ?」
とても頼りない助太刀に、不安と、困惑が混ざった顔をする兵士達だったが、
アルティナにも促され王都へと駆けて行った。
「ねえ棍棒勇者さん、当然…勝算があっての言動よね」
いつになく真剣な面持ちのアルティナ
「当たり前だ、さあ勇者パーティの初陣といこうか!」
俺たちは街道の前方に待ち構えてるであろう敵団へと馬車を急がせた。