王都を出てしばらく周囲を観察してみたが、この世界、少なくとも王都テーベスの周辺は、召喚直前までプレイしてたクエルスク・ワールドと本当によく似た地理をしていてた。
実際、ゲームでも勇者が王都で使用レベル制限のついた特殊な剣(中身は違ったが)を付与されるイベントも存在している。この世界の魔族や、魔物の生息地、特性も同じ可能性が高い。ただ、魔王の名前や強さ、特性はゲームのそれとは違い途方もなく強い。
さらに自分を強く意識すると、ステータスが脳裏に浮かぶこともわかった。
職業:勇者 Lv.1
HP:110 MP:80
体力:25
攻撃:25
防御:25
俊敏:25
魔力:25
体術:Lv.1
剣術:Lv.1
魔術:Lv.1
神恵:Lv.1
装備:棍棒 (攻撃+1) 旅の服(防御+2)
スキル:【サーチキャスト】【ファストアタック(CT60)】
ユニークスキル:【ワールドブレイク(25%)】
初期ボーナスポイント(50)
荷物を格納できるインベントリもそうだが、ゲームのように能力が確認できるのはとても助かる。各ステータスの役割もあのゲームと同じなら戦略も立てやすい。
この初期ボーナスポイント50をどう振り分けるで、キャラクターの成長コンセプトがある程度きまるのだが、ここはあえて、俊敏に50ポイントすべてを振る。おそらく職業レベルが上がる度に各能力へボーナスポイントを振り分けることが出来るのだろう。
選んだ事はないが、たしか勇者の職業はレベル上昇時のボーナスポイントが多く、高レベルになると勇者特有の能力が付与されるはず。
【サーチキャスト】は相手のステータスを確認できるあれだ。
【ファストアタック】はクールタイム1分で二連撃を出せる技だな。
俺の武器は棍棒なので、装備していれば体術レベルが上がって出せる武器スキルが徐々に増えるはずだ。
ユニークスキル【ワールドブレイク(25%)】は神が無理やり付与した、25%の確率で防御貫通攻撃が出せるというにちがいないが、名前がちょっと大袈裟すぎやしないか?
要らないと思っていたけど相手がチート魔王が相手なら、この能力は積極的に活用させてもらおう。
「にしても一体誰が、なんの目的であのゲームを作ったんだろう」
二つの世界の不可思議な一致が少し気になるところだが、今考えても答えがでるわけないし、生き残るためにはとにかくレベリングだ。各能力も実戦で試してみないことには確信がもてない。
俺は鬱蒼とした森と岩場が混在する場所で立ち止まると一際大きな岩の上に立つ黒い陰を見つめた。
狼を二回り大きくした立派な体躯に、青黒い立髪、目は赤く輝き、口元からは大きく鋭い牙飛び出している。何よりも筋肉質な前足には大きな鉤爪があり、かなり殺傷力が高そうだ。
「やはりいた・・・」
【サーチキャスト】
ワーウルフエース Lv:33
HP:685 MP:100
体力:130
攻撃:155
防御:180
俊敏:73
魔力:95
スキル:【斬鉄爪】【黒い咆哮】
こいつはワーウルフの上位魔物で攻撃が強く硬いのが特徴だ。
【斬鉄爪】は攻撃力二倍になるスキル、【黒い咆哮】は後衛を萎縮させて支援を妨害する。
この咆哮が厄介で、奨励レベル15程度のパーティだと全滅する事が多々あるので、実際はレベル20のパーティでようやく安全に倒せる厄介な相手だが、前衛ソロでペラ装甲な俺にはどちらも関係ないスキルだ。
ちなみにこいつは好みの岩に留まる習性があってしつこく追ってはこないので無理な場合は逃げるという選択肢もある。
とはいえ、普通に考えてレベル1のソロで挑めば、ほぼ100%なすすべもなく虐殺されるだろう。
ただ俺は・・・・普通じゃないからなあ!
俺を見つけたワーウルフエースが大きく咆哮する。
鳥肌が立つほどの低音が体を突き抜けるが、やはり前衛ソロの俺に萎縮効果はない。
何やら後方で小さな悲鳴のような声が聞こえた気がするが、棍棒を握る手に力込め、全力の一撃を見舞う。が、おもったとおりノーダメージ、棍棒の攻撃はまったく通じない。
あまりに貧弱な攻撃にワーウルフエースは俺を馬鹿にしたニヤケ顔をしている。あきらかに舐めてるな、好都合だ、おれは弱武器で油断した相手をボコボコにするのが大好きなんだよ。
力の差を見せつけつつ一気に殺そうとしたのか、【斬鉄爪】のスキルを発動し前足が青白く輝いたかと思ったつかの間、猛烈な速度で大爪の斬撃が襲ってくる。
とてつもない緊張感と共に俺の集中力が高まったその刹那———周囲の時の動きが一気に遅くなり、斬撃の軌跡がスローモーションのようにゆっくりと俺の眼前にせまってくる。俺はその動きを目でしっかりと追いながら、ギリギリのタイミングで回避する。
事故や転ぶ瞬間に世界がスローモーションになるって話を聞いた事があると思うが、俺はゲームに集中すればするほど世界がスローモーションのように見える特異な体質を持っている。
ゲーム仲間は命の危機を感じた脳の処理能力が一時的に上がっているのだとか、アドレナリンが影響してるのだとか解説していたが、その能力のおかげで俺は、大抵のゲームの初見クリアやノーダメージクリアが可能なのだ。
もちろんゲーム中にしか発揮できない異能ではあるのだが、この世界ならゲームと同じようにこの能力が発揮されると確信してこいつに挑んだが、やはり思ったとおりだった。
俺の俊敏性は75、相手は73、つまり集中が続く限り物理攻撃でこいつに倒されることはない。通常なら俺の攻撃も通らないのだが、こちらには防御貫通攻撃がある。
3度目の攻撃で【ファストアタック】の二連撃を発動すると、二撃目で26のダメージが入った、なるほど、これはなかなか俺の能力と相性がいい。
数分後、残りのHPもわずかになったワーウルフエースは焦りの表情を浮かべていた、おそらく攻撃を確実に回避する俺の動きが信じられないのだろう。
「相手が悪かったな!」
最後の【ファストアタック】が決まると、ワーウルフエースは地面に倒れた。
さすが上位魔物だけある、現実の戦闘はゲームとは違い想像以上の疲労感があった。しかし、命がかかっているこの状況は俺の集中力をいつも以上に高めてくれた。
「これだよ、俺が求めていたのは・・・・あーーー最高だ」
Lv33の上位魔物だけあって一気にレベルが10まで上昇、獲得したボーナスポイント(100)を攻撃と俊敏にそれぞれ+50で振り分けた。
これで戦える相手が増えるし戦闘時間も短縮できる。
職業:勇者 LV.10
HP:210 MP:180
体力:25
攻撃:75
防御:25
俊敏:125
魔力:25
体術:Lv.10
剣術:Lv.1
魔術:Lv.1
神恵:Lv.1
装備:棍棒 (攻撃+1) 旅の服(防御+2)
スキル:【サーチキャスト】【ファストアタッ(CT60)】【ノックバック(TC60)】
(CTとは次回発動までのクールタイム)
ユニークスキル:【ワールドブレイク(25%)】【時を統べる者】
ステータスに新たなスキルが追加されている。
【ノックバック】は攻撃した相手を一定距離後方に下がらせるスキル、追加ダメージがあるわけじゃないが結構使えるかもな。
この実戦でわかったのは【ワールドブレイク】
(25%)】の発動率はランダムではなく4回に1回、つまり4撃目には必ず発動するルーティンになっていた。
【時を統べる者】
これはもしかして、俺の異能がユニークスキルとして記載されたってことかな。
【ワールドブレイク】とか【時を統べる者】とか、大袈裟なスキル名が並ぶのはちょっと気になるが、まあ使えればどうでもいい。
とにかく手札のスキルを活し、俊敏でギリギリ勝てそうな強敵を倒し最短でレベルアップしていくのが良さそうだ。
同じ頃、拓海の初戦を後方の陰で見守っていたアルティナは驚愕していた。
「なんなのあの勇者、ワーウルフエースなんてソロだとレベル30以上のA級冒険者でようやく相手にできる魔物なのにソロのレベル1初戦でいきなり倒してしまうなんてありえない・・・世界の常識を無視してる」
最初の咆哮で萎縮していたのではっきりと見たわけではないが、ワーウルフエースのスキル付きの全力攻撃をこの勇者は予知していたかのような完璧なタイミングで避けた。一度や二度の回避ならともかく、その後も全ての攻撃を同様の動きで避けていた。
しかも武器は棍棒、レベル50超えの戦士ならともかく、最弱武器である棍棒の攻撃が上位魔物に通じるわけがないのだ、しかも相手は防御力が高い部類のワーウルフエース。
アルティナのサーチで確認しても、勇者の能力は、俊敏性以外、どこを見てもワーウルフに勝てる要素は見当たらなかった。俊敏がわずか上回った程度では、すべての攻撃を回避するなど不可能だし、そもそもレベル37の魔導士であるアルティナでさえ、ワーウルフエースをソロで倒せる確信はない。
「これは、王に報告すべきなのでしょうけど、まだ情報が少なすぎる」
軽快に森を去ってゆく拓海の後ろ姿を見つめながら
「私はあの勇者を・・・・もっと知りたい。」
顔をすこしを赤らめるアルティナだが、これからさらに驚く光景を目にすることを、まだ知る由もなかった。