「はあ?」
「……君を、異世界へ召喚すると言ったのだ」
俺がその意味を理解する間もなく、瞬く間に体が光に包まれ、誰かが意識の中に話しかけてきた。
「君にはこれから我が世界を救う『勇者』として転生してもらう」
「これってあの…異世界転生?……ふざけるなよ」
「…いや、ふざけてはおらんのだが」
その人物は、白いローブをまとい、威厳ありげな態度で俺に話しかけた。どうやら異世界の神らしい雰囲気というか、たぶん神だろう。
「俺の成願達成を邪魔しといて……異世界とか転生とか知るか!」
いつもと調子が違うのか、神らしき人物は俺の態度にやや困惑しながら話を続ける。
「ここは転生の準備をする場所だ。君は特別な才能を持っているため、我々の世界に必要な存在とされたのだ。」
「特別な才能?もしやゲームのこと?」
「その通りだ、拓海。君のゲームセンスは異次元レベルだ。それを見込んで勇者として選んだ。」
「ゲームのセンスが、異世界とどう関係があるんだよ」
クリア直前で連れてこられた俺はかなり不機嫌で、態度もキツめだが、神らしき人物は気にしていない様子だ。
「君が行く異世界は、さきほどまでプレイしていたゲームと共通点が多い…というより、とても似ているのだよ」
「ああ、なるほど、それなら話は別か…」
ゲームとなると俺の飲み込みは人一倍早い。なんとなく自分が召喚された理由がわかったような気がしてきた。
「さて、召喚される勇者には、ここで特別な能力を授けることになっておる」
神が話を続けようとしたその瞬間、俺が遮る。
「いや、いらないっす!」
神は一瞬、言葉を失った。
「え?え!?何故だ?」
「だって、チート能力なんかあったら超ぬるゲーになるじゃん。俺は難しいゲームが好きなんだよ。だから、できるだけ難しくしてほしい。」
神は額に手を当てて深いため息をついた。
「まさか…異世界でも『縛りプレイ』を要求するつもりか。」
神は呆れた顔をしながらも、気を取り直し、
「分かった。では、こういうのはどうだ?毎日一定数のモンスターを倒さないと呪いにかかる縛り。」
「ぬるいな。もっとこう、絶望的な感じがいい。」
神は少し考えた後、再び提案した。
「では、回復アイテムの使用を禁止する縛りは?」
「まだ甘い。もっと激しい縛りをくれ!」
俺が興奮し始めたので、神はやや困惑しながら、
「じゃあ、例えばどんな縛りがいいんだ?」
俺は目を輝かせて、答えた。
「そうだな、最弱の武器しか装備できない縛りなんかどう?」
神は驚いた表情で、
「最弱の武器となると…攻撃力+1の棍棒だぞ。君は正気か?」
「それだ!最高だ!そういうのが良いんだよ、やりがいがある!」
俺が大満足の表情で頷くと、神は再び深いため息をつきながら
「分かった…では、君が望むように最弱の武器、棍棒(攻撃力+1)しか装備できない縛りを与えよう。」
「おお!」
「ただし!負の能力のみを付加することは、この世界の法則上できないのだ。だから釣り合う条件として、レベル上限の撤去と、25%の確率で敵の防御力を貫通するユニークスキルを与えよう。」
「まあレベル上限はどうでもいいが、ユニークスキルとか要らないんだわ!」
「だめだ!わずかでも魔王を倒せる可能性を残しておかないと私の立場が危うい、聞き分けろ!」
一瞬考えたが、温和そうな神がちょっとお怒りモードだったので、渋々ながらもその条件を受け入れることにした。
「25パーセントか、まあそれくらいなら許容範囲か。」
神は再び威厳ある姿勢に戻り、俺に向かって何やら呪文のようなものを唱える。
「では、勇者拓海、これより君を異世界へ転生させる。その…縛りで、魔王討伐に成功することを祈っている。」
次の瞬間、再び光に包まれた。目を開けると、俺は、見知らぬ神殿の魔法陣の上に立っていた。
周囲には複数の術者らしき格好の人間がいてザワザワとしている。その中に一人だけ漫画みたいな美女がいる。とてつもなく良いスタイル、それを際立たせる妖艶でタイトな衣装、まさにファンタジー。現実世界にこんなのが居たらまあ100人が100人、二度見するだろうね。
「ああ……これは、間違いなく異世界だわ」
こうして俺は、棍棒だけで魔王を倒すという究極の異世界縛りプレイ(超無理ゲー)に挑戦することになった。