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第17話 ◯◯◯との出会い

 クレアと決別したから数日後。

 予定通り人類の敵として扱われているだろう俺ことカイトは。


「……しまったぁ」


 ヴァルハラ王城から離れている山で頭を抱えていた。目の前には頭を抱えている原因の釣竿が。


 狩りを始めてから約5時間。


 成果は不細工な釣竿の隣でピチャピチャ跳ねる魚1匹。たったこれだけ。


(……やばい。アレから数日、全然採れてないや)


 そう。

 今の自分が抱えている問題とは──


「サバイバルなめてたぁ!」



 サバイバル生活がろくにできていないことだった。



 自分が立てた計画は、前世を思い出してすぐに考えた物なので穴がある。流石にクレアの件はやり遂げたが。


 問題はその後の生活だ。


 自分は過信していた。

 万能である光の力を持っていて、どの環境でも対応出来るハイスペックホムンクルスの体も持っている。それならサバイバルくらいできるだろうと。


 だがダメだった。


 サバイバル技術が貧弱、いや無知と言ってもいい。

 全然できない。なにせそういった教育は殆どされてこなかったから。


 この世界における勇者とは何か?


 それは対厄災と対魔王の専門兵器みたいなものだ。本来なら勝てない超常存在に唯一勝てる、変えの効かない存在。

 だから日本で超有名なRPGみたいに4人旅なんてさせないし、周りの世話は付き人とかがやってくれる。当然サバイバル教育もない。

 移動する時は豪華な装飾を施された馬車と一個騎士団が付いてくる。

 周りの世話も大体メイドとかがやってくれた。


 え、ならなんで王城で冷遇されてたんだって?

 まぁあれはロイが関わってたから。勇者に負荷をかける為に、色々裏で活躍してたってわけだ。

 その負荷で俺が死んだら面倒なので、致命的な嫌がらせとか起きない程度のヘイト管理はしていたが。


 え、なら村に過ごしてた時は?

 勇者じゃなくて村人で過ごしてたなら父の手伝いで、狩りとか色々やってただろうって?


 それは……


『カイト、料理作ってみたけど、どう?』

『今日彗星見れるんだって! 父ちゃんからオッケーもらったし夜は寒いだろうから焚き火するね! 別にカイトは何もしなくていいよ』

『釣りとか狩りは私で充分よ。アンタは色々あったんだから家でゆっくりしなさい……どうしても手伝いたいなら父ちゃんの力仕事とかすれば?』

『カイト、これはやっておくから……』

『大丈夫よカイト、ほら……』

『カイト! これ見てっ!……』

『カイト……』



「俺! クレアに! 頼りすぎだろ!」


 力仕事はともかく、生活関係はずっーとクレアに頼ってた! なんなら城に来ても身の回りはクレアがやってくれてた! 甘えてた!


 ドンドンドンと頭突きで木が揺れる。


 はい白状します。俺カイトは戦闘以外だとクレアに頼りっぱなしでした。強さ以外でクレアに勝てる要素ないな本当に。


 そもそも狩りができなかったから釣りをしたんだ。

 狩りといえば罠とか弓を使うのが主流だろうけど、罠の設置の仕方は知らないし、弓は使い方はともかく作り方がわからない。

 今までの厄災討伐は、全部勇者の剣で事足りてたし……


 それ以前の問題で獣が見つからない! どんな場所だと見つかりやすいのか思った以上に難易度高い! 前世で猟師やってた人はどうやって鹿とか見つけてたんだ尊敬します。


「俺! 光の力に! 頼り過ぎ!」


 ガンガンガンと頭突きで木が揺れる。

 あ、バキッて折れた……いや見なかった事にしよう。折れた木より考えるべき事がある。


(光の力でゴリ押しをするか……いやダメだ。アレはだ)


 俺は偽物の主だ。力を使うと体から漏れて、漏れたそれは本来の主クレアへ戻っていく。

『聖女』も助けないといけないから、魔王を倒すまでは光の魔力の多用は避けたい。


「でも飯は食わないと死んじゃうしなぁ……」


 自分はご飯がないと生きていけない。お前ホムンクルスやろと思うだろうが、よく考えて欲しい。

 俺は実際に子供から青年まで体は成長している。太古の技術を使って作られた体は、人間と変わらないのだ。


(悩むなぁ。光の力を使うか、他の方法を模索するか)


 静かに流れる川を前に、手を顎に添えて座る俺はどちらを選ぶか考えるが。




──助けて




 その時間は唐突に終わりを告げた。


「……今の声は子供か?」


 目の前から川が流れている音とは別に一つ。ポチャポチャという可愛げな音が聞こえる。だが俺には分かった。可愛い音なんかじゃない、人が溺れている音だ。


(魔力で感知は……ダメだ。ならを使うか)


 前世で言う短距離走スタートの姿勢になって意識を集中させる。

 そのまま顔を下げて目を閉じれば、音の世界が聴こえてくる見えてくる。静かに横に流れる川の流れ……その莫大な世界の中で── 激しく足掻く音が聞こえた。


「──見つけた」


 飛び込む。

 川の表はあんなに穏やかだったのに、水中は暴れ牛のように流れが凶暴だった。でも光の力があればこの程度問題ない。

 問題なのは、さっきまで暴れていた子供が全く動いていない事だった。手をバンザイしたままピクリとも動いていない。


(チッ……間に合え!)


 そうして大急ぎで救助して、川から少し離れた所まで持っていく。仰向けにして状態を確認するが、心拍数が感じ取れな──


(あぁめんどい光の力!)


 子供の心臓部に手を当てて力を流す。奇跡の力を。

 弱肉強食という世界のことわりを覆す光の力なら、一人の命くらい……!


「っは! はぁ……はぁ……………………」


 水を吐き出した。

 生命機関が正常に戻った証拠だ。つまりこの子はもう大丈夫。


「ハァ……なんとか、三途の川から引き摺り出せた」


 ……光の力は使わないといった先から使ってしまったが、まぁしょうがないだろう。見て見ぬ振りして去ったら後味悪いし……そう言い訳をしておこう。


 それよりもっと気になることがある。


(なんで一人でこんな所にいたんだ?)


 気絶した男の子をどうするか。

 周りを見渡すと川と森だけで魔物だらけの巣窟だ。男の子1人にさせるのは危なすぎる。


 この歳なら1人で狩りはしないだろうし、かといって周りを探っても親らしき人物は見えなければ気配すら感じ取れない。

 多分この子は、たった1人でこの森まで来ている。


(謎が多いな。それに俺の悪行も世界に知らされているだろうから、起きたら面倒なことになる……)


 狩りといい色んな問題が迫ってくる。

 どうして前世を思い出した時といい、大きい問題を抱えているタイミングで、さらなるアクシデントが積み重なるのだろうか。


「──父、さん」

「! ……なんだ。寝言か」


 凄く悲しい声が聞こえた。

 大切なモノを失った、2度と自分の手に帰ってこないモノを想う悲鳴だ。静かなその声は、聞いている人の心臓を痛いほど締め付ける。


 少し驚きつつ少年の方を向くと、彼は起きていない。目は閉じたまま寝息を立てている。ただ少年の目には涙が。


「────」


 声も、子供が涙を流しているのも懐かしい。

 10年ぐらい前に見た事がある。親の死体の前で見せた時のクレアだ。アイツと似ているんだ。


『や、めて……カイ、ト』


「………………………………まぁいいか。とりあえず山を降りて、目が覚めるのを待つとするか」


 とりあえず少年が起きないよう慎重に背中に乗せて、焚き火しやすい場所へ探すことにした。




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