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第15話 クレアの目覚め

「クレア様!」

「……う、メイドさん?」


この前のカイトもこんな感じだったのだろうかと、治療室のベットの上で起きた私は呑気な事を考えていた。

看病してくれたのは王城でよく話していたメイドさん。私の数少ない仲良しだ。


(そういえば私、よくわかんない夢を見て──)


刹那、あの夜の出来事がフラッシュバックする。

──こんなことしてる場合じゃない!


「ねぇ! カイトはどうなったの!? あれから一体どれだけ時間が──くっ!」


メイドに質問しようとベットから強引に起きようとしたら、体に激痛が走る。

意識は朦朧とし、腕や足の動きがよく分からない。それどころか胸あたりが痛すぎて悲鳴をあげそうだ。だと言うのに眠たさに襲われる矛盾。

激痛と気怠さで意識を維持するのが精一杯だ。


生きている。

今の状態を表すのにはこの言葉があっているだろう。


何度も成し遂げてきた厄災討伐でも、これ程の苦痛を感じた事はない。


「クレア様、今は安静してください! まだ1日もたっておりません、夜が明けただけですから傷が──」


メイドさんに言われて体を見れば、確かにひどい有り様だ。所々包帯で巻かれていて、そのほとんどが血で染まっている。

ただポーションみたいな回復道具や魔法は使ってくれたらしい。胸やそれ以外の箇所にあった大きな傷は無くなっている。


(よく生きていられたわね私)


怪我の深刻さから自分のしぶとさに驚きつつも、私の気になっている事は、カイト本人から彼への対応に変わっていった。


「……王様達は今、何をしているの?」

「それは──」

「大臣を殺したカイトがあの後どうしたのか分からないけど、とりあえず対処は必要でしょ。例えば討伐隊とか」

「そうなのですが……」


私は回復魔術を自分に掛けつつわざわざ説明するが、そんな事はメイドさんだって分かっているだろう。自分の言葉にメイドさんは驚きではなく、何か言いづらそうな顔で反応を示したから。


「カイトの討伐隊に私入れてないんでしょ」 

「……はい」


そう指示したのは王様だろうか?  

カイトと私が同じ村出身なのはロイ大臣から聞いているだろう。同時に仲良しだった事も。


親友を殺すのを防ぐ為に外した、か……。


「メイドさん私行ってくるわ」

「クレア様、一体!?」

「討伐隊の編成は済んでるんでしょ? なら文句言ってくる。私だって、カイトにこれ以上人殺しなんてさせたくない……ッ」


そう言ってまだベットから立ち上がろうとするが、激痛が走った。体を少し動かすだけで胸が裂けるように痛くなる。

気合いでどうにかしようとしたが、これほど痛いとちょっと歩けそうにもない。


(でも行かないと……! ここで入らなきゃ私は絶対後悔する!!)


どうしても行きたい。心がそう強く思っても体がついていかない。

だけどそこで、手を差し伸べてくれた人がいた。


「………仕方ありません。その体では満足に動けないはずです。私もその頑固さに負けて、手を貸します」

「え?」


立ち上がろうとする事で精一杯な私に、肩を貸してくれたのはメイドさんだった。

メイドさんは傷を負っている自分に出来るだけ負担をかけないよう、工夫して肩を貸してくれる。正直とてもありがたい。


「……王様の命を無視する事になるわよ?」


私を入れない指示を出したのは恐らく王様。

そうなるとこの行動は、王様に対する反逆行為に入ってしまう。

それだと決して軽くない罰を受けてしまうが、メイドさんの目には怯えの言葉は無かった。


「私もカイト様に救われたんです」

「……」


不意に思い出したあの夢。

カイトが言った僕も助けられたから人助けをしていきたいという言葉。


「私は勇者様に植木を落としてしまいました。本当なら極刑は免れなかったのですが」


落としたというのはおとといのことだ。私と一騎討ちをした後の夜で起きた、不幸な出来事。

勇者とは人類の救世主。だからその人に大怪我を負わせたという事は、故意のあるなし関係なく重罪となる。


「勇者様がそれはやめてくれと王様やロイ大臣様にお願いしていただけたのです。怪我をしたのは勇者様なのに、色々助けていただいたのは私の方で……」


いつの間に、とは言わない。

カイトはどんな時でも、人助けをするお人好しなのは知っているから。


「結局恩返しは無理でしたが、カイト様はクレア様を良く大切に思われていました。ならせめて、この恩をクレア様にお返ししようと……」


メイドさんは恥ずかしそうにそう話した。


(…………そっか)


やっぱりカイトは人類の敵ではなく、人を救う勇者だ。

メイドさんの話を聞いて、昨日の出来事はますますカイトの仕業じゃないと確信できるようになった。


「ありがとうメイドさん。それで私を、王様がいるところに連れてってもらえる?」

「ええ、もちろん」


私のお願いに、メイドさんは笑顔で返す。

こうしてカイトに助けられた私達二人は、治療室から出て行った。




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