視点:カイト
場所:グランドラゴンの封印されし地
「クレア!?」
グランドラゴンを倒した俺は、吹き飛ばされたクレアの元へ走っていった。
(クソッ! 何やってんだ俺は!!)
俺達は近くの街に被害が及ばないよう平地で戦っていた。一騎討ちで互いのことを熟知している俺達は、その連携でグランドラゴンに隙を与えず着実に追い詰めていた。
だがトドメを刺す直前に、クレアはムチの様に振るってきた奴の尻尾に直撃してしまった。
最後の
『ガァァァァーーーー!!!』
『デカいだけのクソトカゲが……速く消えろよ』
だが必死なのはこっちも同じ。
クレアの元へ駆けつけたい衝動を抑えながら、輝く勇者の剣でグランドラゴンの首を刈り取った。
でもそれだけで終わらせない。こいつは厄災でしかもクレアを吹き飛ばしたクソトカゲだ。
『……さっきは俺の油断のせいだ。だから徹底的に、殺す』
バカの一つ覚えみたいに突撃してくる翼付きの四足歩行ドラゴン。前世で言うならデカいだけの西洋ドラゴンなんだか……それを元の姿がわからないくらいに斬る。
腕も尻尾も足も翼も、例え生き延びても何も出来ないように斬って斬って斬りまくった。
そうして5秒も掛けずに肉の塊となったクソトカゲを見届けて、俺は全力でクレアの元まで走った。
(見つけた!)
そして今。
傷だらけのクレアの近くに俺はいる。
「クレアっ、今助けるからなっ!」
悪夢の最後で起きた爆発に巻き込まれる彼女を思い出して、大急ぎで光の魔力で彼女を回復させようとするが、
「──大丈夫よ。私は無事」
「! なんだ、無事だったのかよ……ハァ〜なら参加して欲しかったな」
「それは本当にごめんなさい。ただ起きた頃にはもう決着ついてたもの、参加しようがなかったわ」
「……確かに、吹き飛ばされてから数秒で完封してたな」
「流石は勇者ね……ありがとう」
「いや俺が……そうだな、こっちこそありがとう。クレアのおかげで楽に倒せたわ」
目を閉じながら口角を上げるクレアを見て、僕は胸に溜めていた息を深く吐いた。
それがきっかけで肩に乗っかっていたプレッシャーから解放されて、自分もクレアの横で仰向けになる。
「でもさぁ、あの尻尾の一撃はやばそうに見えたぞ。本当に大丈夫なのかクレア?」
「……何言ってるのカイト? アレぐらいの攻撃なんて一騎討ちでいくらでも喰らってたわよ? あんたのせいで」
未だに目を閉じているクレアが回復魔術で傷を癒しながらそう話しかけてくる。緑のオーラみたいなのに包まれるのは神秘的……だが見慣れたものなのでスルー。
というよりそんなにキツかったか?
「見えてなくても聞こえなくてもよ〜く分かるわよ。ハテナを浮かべているアホ面が……あんたはたまに自分基準で判断する癖あるから治しときなさい」
なんだろうクレアが凄く呆れている……というより少し鬱憤が溜まっているような。
「最近の一騎討ちでの攻撃、真剣じゃないのにメチャクチャ痛いのよ。まぁいい訓練になるから言わなかったけど」
「……なんか悪いな。最近は油断ならないからさ。何というか殻を破りそうな感じがあってよ」
「………………………そう?」
一騎討ちの事を振り返る。戦場だと腕切られて蹲ってたらすぐ殺される世界だからな。
訓練とはいえ死なない程度の威力で戦ってる……うん、見た目が派手じゃないのと、クレアが平気そうだったから勘違いしてたけどヤバい事してた。
「悪いクレア。確かにやりすぎてたかも」
「別にいいわよー。さっきも言ったけどアレぐらいの方が私としてもいいから遠慮しないで。ただ私とロイ大臣以外の周りとは合わせなさい? 大きなミスに繋がるかもよ」
「そうだな。クレアの言う通りだ」
「わかればよろしい……回復魔術も完了っと、念の為にアンタの方も見とくわよ」
そしてこっちを見てきたクレアの目が点になった。
「って、あんたの方が重症じゃない!!」
「ああこれ?」
「何平然としてるの、
さも問題ないように会話しているが、俺の視界は真ん中から左半分真っ暗になっている。グランドラゴンの鉤爪によってギリギリ脳までは届かなかったが、目がやられてしまったからだ。
「私よりあんたの方が早く治療を──」
「問題ない。光の力で治るし、それこそこのくらいの傷なんていくらでもしてきたじゃないか」
前世の感覚からすれば大問題だろう。それも人生が変わるほどの。でも今世は光の力があるから特に問題ない。
小さい頃から普通なら死に至る傷を跡形もなく何度も治してきた。光の力というのは即死攻撃以外なら元に治せるチート能力なのだ。
まぁ村にいた頃はそのせいでいじめられてしまったが、今は人助けできたりクレアの隣に立てるので感謝してる。
「……そうね。でも何かあったらすぐに言いなさいよ」
「分かってる。子供じゃないんだからさ」
「………………本当に、自分を大切にしなさいよ」
「……ん? 何か言ったか?」
「な、に、も!」
空を見上げていた僕の視界に入ってきた、雪のような髪は穏やかな風に靡かれていた。その風にグランドラゴン戦の台風みたいな激しさはない。
綺麗で穏やかな髪の動きを見ていると、ようやく俺は戦いが終わったんだと実感できる。
「…………ねぇこれ、大切に持ってくれてたんだ」
するといつもより優しい声が聞こえた気がする。
無意識に髪へ向けていた視線を戻すと、目を細めて悲しいような懐かしむようなクレアの顔が見えた。
「……このクローバーのネックレス。懐かしいわね」
「当たり前だ。クレアの親の形見だから何があっても離さないさ」
グランドラゴンが消えた影響か、あれだけ曇っていた空は晴れていた。その青1色の綺麗な空から降りてくる日光が、クローバーの宝石を輝かせる。
親の形見は貰った時から変わらず今も透き通っていた。
「このクローバーは大切な思い出だものね。あんたが泣いて喜んでた姿、まだ覚えてる」
「うっ……それはあんま言わないでくれ。恥ずかしいからさぁー」
俺の横に移ったクレアも仰向けになって話しかけてきた。昔話だからか一騎討ちみたいな明るくて元気のある声じゃなくて、優しくて暖かい声だった。
「私が冗談でアンタにその家宝渡したんだけど、あまりの喜びっぷりにお母さんとお父さんがそのままあげちゃったのよね」
「まあその後にお前はこっぴどく叱られてたけどな。あん時の大泣きしてたクレアは面白かったなー。今も目に焼き付いてるぜ」
「むっ、意地悪ねー」
「うるせー、さっきのお返しだーい」
「……ふふっ」
「……ははっ」
俺の人生で初めての誕生日プレゼント。
そりゃ感動はすごかった。自分の涙で家が水没してしまいそうなくらいに……いや流石に盛りすぎたな。
でもその感動っぷりのおかげで、クレアの両親から本当の誕生日プレゼントとして渡された訳だ。
……本当に懐かしい。
クレアの両親と一緒に過ごした時間は、俺にとっても宝石のように大切な思い出になっている。
「確か貰った後、お父さんに頭いっぱい撫でられてたわね」
「あのゴツい手なー。どれだけ撫でられてたことか……」
クレアの父さんは畑をやっていたから石のように硬い手をしていた。毎回撫でられるたびに少し痛かった気がする。
というかそうだ。
父さんの指には岩より硬い
(妙に神々しい結婚指輪の手で俺を撫でてきたんだよな。毎回反対でやってくれって思ってたけど)
あぁー……そういえばあれ
魔物に村を滅ぼされた時に消えたんだっけか、いやでもあんなに父さんが大事に持ってた指輪が……。
ん?
(あの指輪、城のどこかで見たような……?)
何故だろうか。クレアの父さんが持っていたあの指輪を思い出したら、強烈な違和感が襲いかかってきた。
まるで大切な事を見逃しているかのように。
『君も来たか。昨日言った通りクレアと一騎討ちするぞ。当然物や城は壊すなよ』
『分かっていますロイ大臣。しかし……?』
『……どうしたカイト?』
昨日の朝もそうだった。
俺達の事が気に入らない兵士を注意したロイと話た時も、俺は妙な違和感を感じていた。紙を持つロイに対して。
『あぁその紙──』
最初は珍しい紙があるからそう感じていたんだと思っていた。
でも違う。
よく考えれば紙を持っているだけで違和感なんか感じない。だってロイはよく実験しているから、紙を持った姿なんて見慣れていたじゃないか。
そう、あの時に違和感を感じたのは紙じゃない。
『──私の勇者の力……光の力を使用した回復薬ですね』
『その通りだ』
──昨日とは違い
色は変わっていたけど、クレアの父親と同じ形をした指輪に対してだ。