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第3話 感謝

場所:治療室



(しかしクレアの奴……また強くなってたな)


俺カイトはベットで仰向けになりながら、さっきの一騎討ちの事を振り返っていた。


(前より動きが良くなってるし、戦いの悪癖も一個治ってた。ウカウカしていると抜かれるな。俺ももっと特訓して強くならないと……)


10年以上も前。

拾われた村でクレアと初めての一騎討ちをやった時は、それはもうコテンパンにできた。

多分見てた人たちはドン引きしてたと思う。それぐらい圧倒的な差があった。


でも今はどうか?

めげずにずっと特訓してきたクレアは、今や勇者となった俺の隣で一緒に戦っている。


アイツ。本当に根性あるな。


「クレアが強くなって嬉しいようだな」


そんな事を思っていると治療しているロイ大臣が話しかけてきた。ただ宙に浮いた魔法陣を操作しながら、俺を見つめる顔はどこか呆れているような……


「流石は父さん、俺の事を良く分かってるじゃん」


まぁ驚く事ではない。

ロイ大臣は俺にとって父親みたいなもんだ。父さんと俺の関係は長い。

つまりこれは長年の絆というやつだ。

だから俺が言葉に出さなくても父さんは──


「違う。クレアと別れてからずっとニヤニヤしていたからだ。そんなお前を見ていれば嫌でも分かる」

「………………え、そんなにニヤニヤしてた?」

「あぁ、見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいにはな」


………………恥ずかしい。

いつものポーカーフェイスはどうなってたの? 勇者の品格疑われるじゃん。しかも別れてからニヤニヤしてたって……クレアに見られたら死ぬ程嫌なんだけど!?


「表情うるさい。少し落ち着いて魔力を安定させろ。今はだぞ」

「あ、ごめん父さん」

「分かったならよろしい……集中できるか?」

「あぁできるよ。俺はだぜ?」


俺の治療。

それは本来の意味である薬や手術、魔術処置とは違う。僕が生まれた時からある持病のだ。


父さんが言うには持病で起こる痛みを、一時的に起こさせないようにするらしい。

ヴァルハラ王国で使お父さんは申し訳無さそうにこれが限界だと言っていた。

でも治療後は嫌な痛みと気だるさが消えて、だいぶ楽になれるから本当に助かっている。


それにこの痛みがずっと続いていたら、俺は勇者にはなれなかっただろうし、クレアとこの城に来ることもなかっただろう。


「……お前はクレアの事になると分かりやすい。本当に幸せそうだ」

「……まぁ、そうだな」


俺は言葉を濁らせた。

濁らせたのは単純に恥ずかしかったからだが、父さんの言っている事は当たっている。


(そりゃそうだ。ドン底にいた俺を救ってくれたのはクレアだだからな)


昔の話だ。


俺が物心つく頃に両親は死んでいて、いつの間にか辺境の村で過ごしていた。

村に来る前のがどうでもいい。気になる点はあるけど過ぎた事だし、今の俺はやるべき事があるからだ。


とにかく昔の俺は見た目が酷かった。

ボロボロの服装で髪もボサボサ。臭いも酷くて肌も痩せこけていたと、悪い言い方をすれば化け物みたいな見た目だった。

しかも勇者の力で大怪我しても勝手に治るし、自分より数倍大きい魔物を簡単に殺せるもんだから、見た目も相まって怖がられてしまった。


それが噂になって村まで広がってしまい。


『お前気持ち悪いんだよ!』

『あっちに行ってろよ化け物』


外で他の子供達と遊ぼうとしてもいじめられる。

次第に人と遊ばないようになって、木の下で1人過ごす日々を送るようになった。


だがそんな時だった。



『友達になりましょ?』



クレアがそう言って俺に手を差し伸べてくれたのは。


『なんで僕と友達になろうとしてるの? 聞いてないの……僕は化け物だよ?』

『どーこーがー化け物よ。アンタはむしろその逆、いい奴じゃない。勇者みたいな!』

『……僕が勇者みたい?』

『えぇ!だってあなた、人から守る為に魔物と戦ったんでしょ?』

『………………そうだよあの化け物を僕は簡単に殺せたんだ。だから僕は──』

『それって凄くカッコいいじゃない!』

『────』


まるで太陽が現れたようだった。

真っ黒だった俺の視界を照らして、色鮮やかに世界を彩っていくような。確かにあの時、止まっていた自分の時間が動き始めたんだ。


『だから友達になりましょ? 化け物じゃなくて、あなたはカッコいい奴だもん』


今でも鮮明に思い出せる。

真っ暗な場所にいる俺へ手を差し伸べてくるクレアの姿を。

気がついたら俺はクレアの手を取っていて。

クレアは俺を遠慮なく光が当たる場所へ連れて行ってくれて。


『……え、えっとそういえば……名前、は?』


引っ張られながらも聞いた俺の質問に、彼女は振り返ってはっきり言った。太陽みたいに明るい笑顔で。


『私はクレア! いつか勇者になる女よ!』


その日、俺は人生で初めて親友を持ち、初めて人と触れ合う楽しさを知った。


『今日は何して遊ぶの?』

『あなた魔物を倒したんなら一騎討ちしましょ! 私はこう見えても村で一番強いの。友達と戦って一度も負けたことがないんだから!!』 



ついでにクレアの連敗記録も始まった。



と、現在に繋がる訳だが。


「……お前とクレアの出会いは知っている。だから凄く言いたい事があるんだが、あの煽りは辞めたらどうだ?」

「やだ、一騎討ちはずっと煽るって心から決めてんだ!」

「その謎のこだわりは一体……」


だってアイツ。家事に勉強、馬の世話から貴族の礼儀まで何でもできるハイスペック人間だぞ?

正直一騎討ち以外で競争したら負ける未来しか見えないんだよ。

なので唯一上と言える一騎討ちだけは煽るのを止めるつもりはない(ただドヤりたいだけである)。


「相手にいいところ見せたいガキか……よし終わった」


何かのチェックが終わったのか治療用の魔法陣を消すロイは、いつものように呆れながら言った。


「父さんにも感謝してるよ」

「なんだ今度は私の話か?」

「まぁな、でも感謝してるのは本当だ。時、父さんに拾われてなかったら俺達はここにいないしさ」


そう。俺が住んでいた村は既にない。

暴走した魔物達によって全て葬られたからだ。


原因は不明。

父さんの話によると、魔王復活の影響で暴走した魔物達が村を襲ったのではないかと言ってたな。まぁあくまで可能性の話だけど。


ズレた。話を戻そう。


とにかくこの襲撃のせいで俺とクレアは大切なモノを失った。


俺を育ててくれたとか。


あの時のクレアは酷かったな。そりゃあ大切な両親が死んでしまえば誰でも心は荒れるだろう。

俺もそうだ。クレアほどじゃないが、彼女の両親は俺にとってだった。正直心は凄く沈んでいたと思う。


そんな心も体もボロボロだった俺達の前に現れたのが、ロイ大臣だった。


ロイ大臣は見事な手際で生き残った村人の住む場所を与え、親がいない自分とクレアを城へ招待してくれた命の恩人だ。


同時に俺が勇者だという事も見抜き、勇者として鍛え導いてくれたのもロイ大臣だ。

学問や魔術、貴族や王様間での礼節とか色んな事ができるのものおかげと、頭が上がらない。

クレアの煽りはやめないけど。


「感謝しているのなら煽るのをやめてくれないか? クレアと私以外に聞かれたら勇者としての品格が疑われるだろう?」

「そうならないよう一騎討ちの時は防音結界を張っててくれただろ? ヴァルハラ王国1番の魔術使い様?」

「優秀なのが尚更厄介だなっ!」


こめかみを抑える父さんだがそれ以上は何も言ってこない。まぁこのやり取りだって何度もやっているからな。正直今更感は歪めない。


(……勇者ではなく普通のカイトとして過ごせる時間をわざわざ奪う必要はないか。それはそれとしてカバーしているこちらの心情も汲んで欲しいモノだが)


そして数秒経った後、お父さんの表情が変わった。

お父さんとしてのロイ大臣ではなく、ヴァルハラ王国を支えてきた賢者ロイ大臣の顔へ。


「今度の厄災討伐。クレアと喧嘩するなよ」 


厄災。

それは国一つを滅ぼせる魔物の名称であり、恐怖の象徴でもある。世界各地で出現するを俺とクレアが討伐している訳だが。


「今度の敵って確か……ドラゴンタイプだったよな? 少し前に倒したばっかりなのにまた出てきやがったとか」


魔王復活の予言から数年。

魔物達は活発化。穏便だった魔物でさえ人を襲うようになっているし、ヒシヒシと脅威が迫っている事を感じる。


「あぁ。まだ国の討伐隊でどうにかなっているが、村を容易く滅ぼせる魔物もよく出現するようになってな。酷い時は4、5日ペースで出てくる」

「うわぁ……被害ヤバいじゃん。なぁ父さん俺の手伝いは必要か? まだ余裕はあるけど──うわ」


と話を続けようとしたら、父さんが俺の頭に手を乗せてきた。しかも子供のように髪をワシャワシャと……いやそう言う事じゃない。俺はまだ任務に出れるって。


お前が余裕なんて言うな。安心しろ、冒険者組合の方に声はかけてある。Aランク以上の冒険者達にも手伝ってもらう予定だ」

「あー……父さんがそこまで言うなら」

「私としては厄災討伐の時に、お前とクレアが喧嘩する方を心配しているのだが」


いや流石にしないぞ!?

というより少し恥ずかしいから手を離して欲しい。いやいつまで……ってええい、強制終了!

お父さんの手を俺の頭からどかす!


「魔物の前で喧嘩はしないよ。人の命が掛かってるし。それに……」


、四つ葉クローバーの宝石付きネックレスを首にかける。まるで命の輝きを体現しているような、神秘的な光を見て俺は目を細めた。

でも目が眩んで細めた訳じゃない。両親の死体の前で泣いていたクレアを思い出したからだ。


厄災を放置すればきっと俺の村以上に酷い事が起きるんだろうな。

例えば国ごと火の海になるとか。


「クレアの両親に起きた悲劇は起こさせねぇよ、絶対にな」



そうだ。

あんなクソったれみたいな悲劇を防ぐ為に、俺は勇者になったんだ。

だから今度こそ守る。



とりあえず明日の厄災について再確認しよう。きっとクレアも厄災討伐の準備をしているだろうから、帰る途中に寄って、それで……


「カイト」

「ん?」


扉の前に立ったら、後ろから呼ばれた。

声の主はロイ大臣。何か言い忘れた事があったのだろうか? そうして振り返ると。


「生きて帰ってこいよ。お前の気持ちは分かるが、親だって子供が消えたら悲しむ」


さっきまでの真剣な目線を潜め、俺を心配そうに見てくれるロイ大臣が見えた。


「あぁ分かってるよ父さん。父さんも過労死とかするなよー?」

「そうだな。早く激務から解放されたいよ」


そうして俺は治療室を後にした。









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