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第2話 時間を戻そう







──ロイ大臣殺害から2日前







ヴァルハラ王城の中庭。

そこで2人の剣士が向かい合っていた。


「なぁ……本当にやるのか一騎討ち?」

「あったりまえでしょ。今度こそあんたに勝って見せるんだから」

「やめとけってクレア。お前がこの俺に勝ったことなんて一度もないだろ」

「分かってるわ、1523戦0勝だからね!!」

「それ大声で言うことかよ……」


雪のように白いロングヘアをなびかせて戦歴を言うクレアは、声の大きさに負けず元気そうだ。

兜をかぶっていないから彼女の絵に描いたような綺麗な顔がよく見える。しかし黒く汚れた鎧の荒々しさは多くの死線をくぐり抜けた証であり、貫禄を隠しきれていない。


中庭へ差し込む光がクレアの髪に当たり輝く。

それは神の使いにも見えるようで神々しかった。

だが神々しさならもう一方も負けていない。


「あんたこそ戦う前に一騎打ちの確認するなんて……本当は私に負けるのが心配なんじゃないの〜? さん」

「……いいぜ、その減らず口叩き割ってやんよ」


青筋を張って不機嫌を隠さない男の名は

青い宝石の瞳を持つ彼は人類最強と呼ばれる勇者だ。


黒髪で白銀の鎧を着るカイトはクレアとは真逆。

だが勇者だけが着れる鎧も、クレアの髪と同じく光に当てられて神々しい。


「クレア、お前だって負けた後に泣くんじゃないぞー。なんなら優しい俺が今の内に言い訳聞いとこうか?」

「よし決めた。アンタは血祭りにあげてやる」


幼い頃から変わらない口喧嘩を始めた2人はいつものように切れて、その場で魔力を纏い始めた。その魔力量は山の如く。

人類最強とその相棒と評される彼らは、評価に違わず絶大な力を持っていた。

人智を越える魔力量に地面は揺れ、空気が重くなる。既に中庭は弱者が入れぬ戦場と化していた。

対峙している2人に並ぶ実力者でなければこの戦場では立てないだろう。


「……その性根をズタズタにしてやる」

「なに言ってるのカイト? さっき血祭りにあげてやるって聞こえなかった?」


そしてという戦いの火蓋は切られようとして──



「待ちなさい2人とも!!」



──切られなかった。


強者の戦場に割り込む男がもう1人。

割り込んできたのは緑の貴族服を着ている男。他の貴族がよく使う赤といった目立ちやすい色ではなく、地味な緑の服を着ている事が彼の控えめな性格を表している。

だが同時に。

服をよく見ればあらゆる所が綺麗に整えてられており、しっかり者な性格も服で表していた。


彼は一騎討ちをする2人の親代わりでもある。

緑の貴族服を着た男の名は──


「なんですかロイ大臣様」

「止めないでくれよ。もう少しでこいつ締め上げれたのに」


ヴァルハラ王国を支える偉大な男、ロイ大臣。

ドンパチやる寸前で止められた2人が、不満そうに彼へ顔を向けた。

彼は急いでいたのか汗をかいて「間に合ってよかった……」とぼそっと言っている。


「いいかい君たち。この前一騎打ちしたせいで、周りが更地になったのを忘れたのかね」

「あ! ……そういえばそうだったわ」

「いっけね。またやらかすとこだった」


二人ともヤベェと少し顔が青くなっている。前にも一騎討ちした跡が酷すぎてこっぴどく叱られた事があるからだ。

それを見たロイはやっと気づいたのかと呆れたようにため息をついた。


「やれやれ。一騎打ちをすると急に周りが見えなくなるのは何故かね?」

「「こいつをぶっ潰すからだ(よ)」」

「「………………」」

「「あぁ!?」」

「分かった分かった……聞いた私が馬鹿だった」


仲がいいのか悪いのか、喋ったタイミングが被った彼らはお互いに顔をぶつけ合う。

息の合った行動とお互いの態度が真逆なのを見てロイは頭を抱えるが、城を破壊させまいと人差し指をピンと立てて提案した。


「とにかく一騎討ちのルールを変えてみよう。まず魔力は禁止だ。使ったら城崩壊は免れないからな。その代わりに純粋な剣技で競い合うのはどうだ。それなら君たちも──」

「「やる!!」」

「ホント仲良いね……」


かくして。ロイ大臣の提案を認めた2人は戦いの位置につく。2人は訓練用に使われる木剣を構えると、先程の喧嘩が嘘のように静かになった。


静寂の中、ロイ大臣の「ウゥホン」の声がよく響く。クレアとカイトの間にロイ大臣が立ち、そのまま手刀を真上にあげて。


「ルールは先程通り。魔力は使わず互いの剣技で競い合う事。後城を破壊するの禁止!」

「「………………」」


二人は無言のまま。

しかし交差する視線の鋭さは剣そのもの。

彼らの戦いは既に始まっていた。


「よろしい。それでは……始めっ!」


2人の無言の肯定にロイ大臣は頷き、手刀を勢いよく下げた。

そして瞬く間もなく、中庭での衝突音が響き──
























「また負けたぁーーー!!!」

「はははは! 俺に勝つなんざ一万年早いんだよー!」


クレアがボロ負けした。


カイトのパワー、スピード、スタミナ全てがクレアの3つも前に行っているのだ。技術もステータスも上、それならクレアが勝てないのは必然だった。

それがである。


「まぁ勇者の俺相手にしちゃ、よく戦えてた方だぜ。誇るがいい」

「勝ったアンタに言われるとムカつくんだけど!?」


勇者の言っていることは煽り(実際半分はそのつもり)にしか聞こえないが、正当な評価でもある。


そもそも勇者は人類最強。

勇者であるかないかの時点で天と地の差があるも同然。中には努力と持ち前の天性で勇者と同じ土台に立つ者はいるが、そんなのは一握りの中の一握り。

その点を考慮すれば、勇者カイトに喰いつけている時点でクレアも相当な化け物だ。



とは言え煽っている事には変わりないので怒る。



「ねぇーそのニヤニヤ顔やめてくんなーい!?」

「ははは、なら俺を負かしな」

「よぉし血祭りだ。ぜっーたい血祭りにあげてやる!!」


クレアは激怒した。必ず目の前でニヤニヤしている勇者をボコボコにしなければならぬと決意した。


だがそれ以上に激突している男が一人。


「──

「げっ!?」

「ひっ!?」


これ以上の喧騒は許さんぞと、ニッコリしながらもどこか圧を感じる笑顔のロイ大臣。

鬼、いや魔神の覇気に二人は一瞬悲鳴をあげてしまう。


「お前達は人類の希望を背負った人間だ。それ相応の行動をしなさい。わかったか?」

「「…………はい」」

「わ か っ た か ?」

「「はいっ!」」


親に叱られる子供のように、二人は驚くほど従順になった。整列して背筋をピーンとしている二人。本当に人類の希望を担う人達なのかと言いたくなる衝動を抑えて、ロイ大臣は話を続ける。


「勝負は終わった。既に日は落ちかけているから2人とも城に帰りなさい」

「……そうね。カイト、次戦う時は絶対負けないわよ」

「その言葉、腐るほど聞いたよ」


この中庭もだいぶ暗くなってきた。城中のランプもつき始めている。流石に時間だと3人雑談しながら城の中に入ろうとするが。


「……ッ。この痛み、またか」

「カイト……いつものやつ?」


カイトの顔が歪み足を止める。

その事に気づいたクレアが心配そうに声をかけた。


ただこれはよくある事だ。

カイトはクレアと出会う前から持病がある。

唐突に体の一部が痛み出す病気だ。

発症するタイミングはバラバラで、勇者である彼でも一瞬動きが鈍るほどの痛みを感じる。

今はまだいいが、魔物との戦闘中に致命的な隙になりかねない。


「あぁ、まただな……」


ではその病気はどうしているのか?

当然対処している。完治こそ出来ないが、この痛みを一時的に出せないように調整できる人がいるのだ。


肉弾戦は大苦手だが、魔術なら超一流の人。

このヴァルハラ王国が誇るロイ大臣は一騎打ちでの呆れた顔を引っ込め、真剣な顔付きでカイトに声を掛けた。


「なら自分の部屋に戻る前に、治療室に行くか」

「悪い父さん。いつも直してもらっててさ」

「問題ない。親が子の面倒を見るのは当たり前だからな。じゃあクレア、君は先に戻っておきなさい」

「わかりましたロイ大臣様。カイト、明日もやるって事忘れないでよね」

「あぁ、今度もまた負かしてやるぜ全敗さん」

「うっさいわね。さっさと治療されて元気になってこい!!」

「はいよ〜」


カイトは余裕な声を出しながら、ロイと一緒にクレアと真逆の方に城へ入っていった。








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