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踏み台キャラである偽勇者の俺はひたすらに足掻く
ギル・A・ヤマト
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月16日
公開日
17,133文字
連載中
《毎日更新しています!》

 カイトは勇者である。
 復活する魔王を倒すべく日々特訓し、平和を守る為に村を襲う魔物達を退治していた。
 そうして彼は最終的に魔王を倒し、世界を救うだろう。

 そんな未来は絶対来ないが。

 カイトは前世を思い出し、知ってしまった。
 この世界は前世でやった事のあるダークファンタジーゲームが元になっていると。
 そして自分は偽物の勇者で、しかも敵によって作り出された捨て駒のホムンクルスだと。
 さらに重要な情報も思い出した。

 本物の勇者は、カイトの想い人であるクレアだ。

 小さい頃からカイトと一緒に過ごしてきた幼馴染クレア。小さい頃、勇者のように大切な人を守りたいと誓い合った仲であり、その日からカイトと共に戦っている戦友だ。

 もしゲーム通りに進むなら彼女は濡れ衣を着せられた上に追放されて、ヴァルハラ王国の追手から逃げる生活を強いられる。
 しかし逃げる過程でいろんな村や街を訪ねて仲間を増やす。そうやって出会いと別れを繰り返し、やがては本物の勇者として覚醒するのだ。
 
 そして最後に彼女は。

 魔王と相打ちになって死ぬ。

 カイトは激怒した。
 そんな事はさせない。
 ゲーム通りの結末にさせてなるものかと。
 だからこそ彼は決意した。
 クレアを死なせない為にゲームストーリーを変えてやろうと。

 これは贋作として作られた男が破滅に抗う物語である。

第1話 その日、男は勇者ではなくなった


「一体何があったの!?」


私クレアは大きな扉を勢い良く開いて、外の雷雨に負けない力強い声をこの王座の間に響かせた。

昼間は豪華な装飾で王の尊厳さを見せつけるこの場所も、日が落ちればただ静かで暗いだけの広場に様変わり。


本来ならば。


人類で最も栄えているこのヴァルハラ王国の城は当然ながら厳重に守られている。魔物はもちろん魔族達さえもこの守りを突破するのは容易くないだろう。それは夜でも関係ないことだ。


だが悲鳴が聞こえてしまった。

あろうことかあの2人が対談している王座の間からだ。


それはマズイ。


どちらも人類にとって必要不可欠な存在。

私は無事であることを祈りつつ、誰よりも早くその場所へたどり着けた。


「なっ……」


中にいる魔物を仕留めようと扉を開けて剣を構える。

そして目の前の敵を倒さんと前進しようとして……止まってしまった。


「ね、ねぇ……これ。あなたがやったの?」


先程までの威厳はどこへいったのか。

目の前の信じられない光景を見て、自分の意識がどこか遠くへ行くような感覚に落ちた。声も困惑へ変わり、剣を握る力も緩んでしまう。

でもそれは仕方の無い事だと、失態を犯しておきながら私は思った。



だって人類を守るはずの勇者が人を殺したのだから。



私の目の前には一人の人間との死体があった。


は王と国を長い間支えた善良なるロイ大臣。

常に周りのことを考え、この国のために率先して動いてくれた誰もが尊敬する人だ。

しかし大臣の首は跳ね飛ばされており、切断面から垂れている血が王の間を汚していた。


問題はその死体と対峙しているもう一人の男。


その男は真っ白な光を放つ剣を持っていた。

つまりその剣を持っている彼が勇者なのは分かるし、その剣にタップリ付いている血を見れば、誰がロイ大臣を殺したのかは明白だった。



だけど信じられない。



今日やったドラゴン退治祝いの宴。

あの時はいつものように、まるで本当の親子のように話し合っていたじゃないか。


なのになんであなたが──


「なんであなたが殺してるのよ!?」


経緯は分からない。だけど今の彼は危険だ。

力量差なんて関係ない。全力でカイトを、私の親友を止める!

泣くように叫んだ私の周辺から赤い粒子が光る。魔力を纏わせた証拠だ。

そして私の魔力が最大まで溜まった瞬間、全魔力を持って音速で目の前にいる敵へ突っ込む。


後先を考えない全力の捨て身。

少しの間だけでもカイトを止めようとして──


「……え?」


私の体から血が噴き出た。

噴水のように出る血がこの王座の間に舞い上がり、自分の体を真っ赤に染めていく。


私と、勇者であるカイトの実力には相当な差があったらしい。動きなんて見えなかった。下を向いていた彼の顔はいつの間にかこっちを向いてて、既に剣を振った後だった。


振り向いた親友──敵──の瞳はこの暗い空間でもよく見える。彼の背後で落ちた雷が、彼の邪悪さをより一層に表しているようだ。


黄金の目。


それは魔王だけが持つ瞳の色。

人類を崩壊させるのは勇者でもある彼だと、そう示していた。








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