目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第51話:伝承

「借り物か」


 シュハリはそう述べると、


「あははっ!」


 笑い、絶対王者に指摘します。


「あんたも、藤宮流を借りているじゃないか」


 黒澤選手は鼻で笑いました。


「ふっ……この藤宮流は己を高みへと押し上げるための手段に過ぎん。お前のように、他人の力を平然と盗用はしない」

「盗用?」

「その羽衣の體のことだ」


 闘神坊は右拳を突き出します。


「ルミが血の滲むような思いをして身につけたものを……お前は苦労もなく使っている」


 シュハリは暫く沈黙し、


「確かにあんたのいう通りだが――」


 と答え。


「俺が使っているものは、皆から受け継いだものだ」


 烈風猛竜ルドラプターは構えます。


「あんたを倒すためにね!」


 手の位置は左手を相手の頭部に向け、右手は鳩尾みぞおちをガード。

 花のように大きく――大きく構えます。

 デビュー戦から暫く見せていた『あの構え』でした。


「藤宮不屈流――水流れの構え」


☆★☆


 颯はダパーラのことを思い出す。


「なんだよ、急に呼び出して」


 再起を決意した颯達は、ここダパーラの首都サベッサへ一時的に滞在することになった。

 今はNGO本部の支援でホテルを借り住まいとしている。

 颯は不屈からラウンジに呼ばれ伝えられた。


「ルミが負けた」


 ライバルだった藤宮ルミが負けたという。

 颯は驚きの色を隠せなかった。


「あいつが?」


 ダパーラにいる時も、NGO職員のパソコンより日本のニュースを見ていた。

 自分を打ち倒し、正契約を勝ち取ったルミはデビュー戦から連戦連勝の無敵の彼女だ。

 とうとう負けたか、という思いもあるがあの彼女を倒した選手が気にはなる。


「誰に倒されたんだ」

「黒澤大吾、ワシを打ち倒し引退を決意させた男だ」


 颯は黒澤大吾の存在は知っていた。

 日本――いや世界最強の絶対王者だ。

 その王者に敗れたのも、さもありなんと感じていると――。


「颯、黒澤大吾を倒してくれ」


 不屈は黒澤を倒せという。

 唐突な言葉に颯は困惑する。


「お、俺が!?」

「お前しか倒せん」

「おいおい、俺はプロになれなかった負け犬だぜ」


 颯の言葉を聞き、不屈は首を横に振る。


「それは違うぞ」

「違う?」

「お前は教えられるわけでもないのに、他人の技や動きを忠実に再現する能力がある――ミラーニューロンが他人より優れているのだろう。その才能を眠らせるわけにはいかん」


 ミラーニューロン。

 脳内に存在する神経細胞の一種。

 他者の行動を観察し、脳内でその行動を模倣するような反応を示すと言われる。

 我々が他者の動作行動を見て、動きを模倣したり、感情が共感されるのはミラーニューロンの作用であるとされる。


「本当のところ、お前をここに連れてきた理由がそこにある」

「俺はここに働きに来たんじゃないのか」

「それもあるが、本当の理由は別にあるんだ」

「別に?」

「颯にはBU-ROADバトルの世界に立ってもらいたい。その伝手も既に作ってある」

「俺があそこに……」


 颯は震えた、一度は諦めた夢だったからだ。

 不屈は二ッと笑う。


「ケンカは卒業! これから藤宮不屈流の稽古だ!」


 そこからが変わっていた。

 不屈がどこで仕入れたか知らないが、小型ロボットを使用した遊戯的な練習だ。

 ヒト型の形で大きさはプラモデルほどで色は白、動きの原理はBU-ROADのシステムと変わらない。

 その次はやっと組手、今度は不屈が手取り足取り技を教えながら進めた。

 そんな、日々が続いたある日のこと――。


「死んだ?」

「……殺された」


 将より不屈の死を告げられた。


「誰に……」

「傭兵、それも日本人の男だ」


 話によれば、その傭兵は元BU-ROADファイターとのこと。

 武装組織に雇われていたようで、自身が使い盗み出したマシンを操作。

 各地を襲撃し、村を襲ったBU-ROADも、どうやらこの男のものだったらしい。

 密かに情報を手に入れた不屈は男の隠れ家をみつけ、怒りに燃えるまま単身突入。

 そこから戦闘になり、男が所持していた銃の凶弾に倒れてしまったとのことである。


「ウソだ!」


 颯の声がダパーラの空に響いた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?