「借り物か」
シュハリはそう述べると、
「あははっ!」
笑い、絶対王者に指摘します。
「あんたも、藤宮流を借りているじゃないか」
黒澤選手は鼻で笑いました。
「ふっ……この藤宮流は己を高みへと押し上げるための手段に過ぎん。お前のように、他人の力を平然と盗用はしない」
「盗用?」
「その羽衣の體のことだ」
闘神坊は右拳を突き出します。
「ルミが血の滲むような思いをして身につけたものを……お前は苦労もなく使っている」
シュハリは暫く沈黙し、
「確かにあんたのいう通りだが――」
と答え。
「俺が使っているものは、皆から受け継いだものだ」
「あんたを倒すためにね!」
手の位置は左手を相手の頭部に向け、右手は
花のように大きく――大きく構えます。
デビュー戦から暫く見せていた『あの構え』でした。
「藤宮不屈流――水流れの構え」
☆★☆
颯はダパーラのことを思い出す。
「なんだよ、急に呼び出して」
再起を決意した颯達は、ここダパーラの首都サベッサへ一時的に滞在することになった。
今はNGO本部の支援でホテルを借り住まいとしている。
颯は不屈からラウンジに呼ばれ伝えられた。
「ルミが負けた」
ライバルだった藤宮ルミが負けたという。
颯は驚きの色を隠せなかった。
「あいつが?」
ダパーラにいる時も、NGO職員のパソコンより日本のニュースを見ていた。
自分を打ち倒し、正契約を勝ち取ったルミはデビュー戦から連戦連勝の無敵の彼女だ。
とうとう負けたか、という思いもあるがあの彼女を倒した選手が気にはなる。
「誰に倒されたんだ」
「黒澤大吾、ワシを打ち倒し引退を決意させた男だ」
颯は黒澤大吾の存在は知っていた。
日本――いや世界最強の絶対王者だ。
その王者に敗れたのも、さもありなんと感じていると――。
「颯、黒澤大吾を倒してくれ」
不屈は黒澤を倒せという。
唐突な言葉に颯は困惑する。
「お、俺が!?」
「お前しか倒せん」
「おいおい、俺はプロになれなかった負け犬だぜ」
颯の言葉を聞き、不屈は首を横に振る。
「それは違うぞ」
「違う?」
「お前は教えられるわけでもないのに、他人の技や動きを忠実に再現する能力がある――ミラーニューロンが他人より優れているのだろう。その才能を眠らせるわけにはいかん」
ミラーニューロン。
脳内に存在する神経細胞の一種。
他者の行動を観察し、脳内でその行動を模倣するような反応を示すと言われる。
我々が他者の動作行動を見て、動きを模倣したり、感情が共感されるのはミラーニューロンの作用であるとされる。
「本当のところ、お前をここに連れてきた理由がそこにある」
「俺はここに働きに来たんじゃないのか」
「それもあるが、本当の理由は別にあるんだ」
「別に?」
「颯にはBU-ROADバトルの世界に立ってもらいたい。その伝手も既に作ってある」
「俺があそこに……」
颯は震えた、一度は諦めた夢だったからだ。
不屈は二ッと笑う。
「ケンカは卒業! これから藤宮不屈流の稽古だ!」
そこからが変わっていた。
不屈がどこで仕入れたか知らないが、小型ロボットを使用した遊戯的な練習だ。
ヒト型の形で大きさはプラモデルほどで色は白、動きの原理はBU-ROADのシステムと変わらない。
その次はやっと組手、今度は不屈が手取り足取り技を教えながら進めた。
そんな、日々が続いたある日のこと――。
「死んだ?」
「……殺された」
将より不屈の死を告げられた。
「誰に……」
「傭兵、それも日本人の男だ」
話によれば、その傭兵は元BU-ROADファイターとのこと。
武装組織に雇われていたようで、自身が使い盗み出したマシンを操作。
各地を襲撃し、村を襲ったBU-ROADも、どうやらこの男のものだったらしい。
密かに情報を手に入れた不屈は男の隠れ家をみつけ、怒りに燃えるまま単身突入。
そこから戦闘になり、男が所持していた銃の凶弾に倒れてしまったとのことである。
「ウソだ!」
颯の声がダパーラの空に響いた。