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第48話:羽衣の體

 準決勝にて、破壊された烈風猛竜ルドラプターの左腕。

 その左腕が雷の腕へとなっていた。


「あの左腕……」

「山村さん、どういうことですか」


 ルミと暦の不思議そうな視線が山村に送られる。

 山村は飄々と述べた。


烈風猛竜ルドラプター迅雷剛竜ボルドラゴンの後継機ですからね。開発者は同じ紫雲蓮也、パーツの互換性があって当然といったところでしょうか」


 暦は声を強める。


「そういう問題ではありません。何故、御影製作所が紫雲電機に協力しているのですか」


 山村は両手を上げ、肩をすくめる。


「私もさっぱりピーマンで」


 困った素振りを見せるも、それがどうにも演技じみていた。


「あんた、どっちの味方なんだ」


 ルミは目を細めた。

 警戒、あるいは怒りの表出である。


「どっちと言われてもな」


 山村は一瞬であったが暦を見た。


(ん?)


 ルミは違和感を持った。

 暦を牽制するかのような視線の使い方だった。


「そういえば山村さん。あなた、クオリティタイムがどうとか言ってましたね」


 その視線に気づいたのか、暦は少し左足を前にしている。

 問いを投げかけながらも油断はない。


「それが何か?」

「この大会は色々と不自然なことだらけです。隠し事をされたままでは釈然としません」

「それはちょっと……」

「不都合でも?」

「これ以上のネタバレは、会長の本意ではないと思いますので」

「会長――」


 暦は押し黙った。

 これまでの山村の口調や態度から、飛鳥馬不二男が暗躍していることは確実。

 それ以上は何も言えなかった。


「雇われはつらいですね」


 山村はそう述べながら、ゆるりとルミに元へ近寄る。


「それより暦さん。縄を解いてもいいのでは?」


 暦は怪訝な顔をする。


「何ですか突然」

「いや、いつまでもお嬢さんを縛り付けるのはどうかと」

「事が終わるまで、じっとしてもらいますよ。暴れられては面倒ですので」

「終わればどうするんですか」

「黒澤大吾に相応しい女になるよう再教育を致します」

洗脳教育花嫁修行ってヤツですか」

「ええ」


 山村はルミの肩をポンと叩いた。


「古風だね」


 ルミはフッと笑う。


「食えない男だ」


 縛られた縄が緩まるのを感じたからだ。


☆★☆


 試合開始より約50秒。

 烈風猛竜ルドラプターは体を横に捌きながら突きを捌き、左腕に取り付けられた雷拳ボルトフィストが、闘神坊の手首を掴んでいました。


『どういう経緯かわかりませんが! 赤き龍の左腕は雷の力へと変貌ッ!』


 烈風猛竜ルドラプターのプラズマをまとう左腕。

 バチバチと音を立てながら、熱エネルギーを闘神坊の腕に送り込みます。


「ほう、接触自体が攻撃か」


 観客席で感心した様子で観戦するご老人がいます。

 御影製作所の社長、御影太郎さんでした。


「あの機能ギミック、本当はああやって使うんですよ」


 その隣には、何故か野室さんがいました。


「ストスト!」


 奇妙な笑いを浮かべる御影さん。

 野室さんは顔をほころばせます。


「その笑い、変わりませんね」

「何年ぶりかのう」

「私がゼミ生だった以来です」

「君も紫雲君も優秀な学生じゃった」

「ふふっ……しかし、先生が会社をおこされていたとは」


 御影さんは苦虫を噛み潰したような顔になりました。


「……学内で軍事研究を推し進めようとする流れがあってな。突っぱねたらアカデミーから追い出され無職になったんじゃよ、仕方なく起業といったところでな」


 野室さんは頭を下げました。


「ご協力感謝します。実はスペアパーツの調子が悪くて」


 御影さんは呆れた顔になりました。


「お前さんのところの品質管理は大丈夫か?」

「それはうちの山村に言ってもらわないと」

「山村……今の忘れてくれ」

「え?」

「試合を見ようぞ」


 試合に戻ります。

 黒澤さんのモニターには、


――右腕・機体損傷率8%


 という数値が表記。


『右腕にダメージだァ!』


――右腕・機体損傷率10%


 上昇するダメージ量。

 このままでは右腕が機能停止となります。

 しかし、これで終わらないのが絶対王者。


「むん!」


 ローキックが炸裂。


『手がダメでも足があるッ!』


 はやく、鋭く、重い一撃。


「ッ!」


 体勢が崩れた烈風猛竜ルドラプター、それでも掴んだ手首を放しません。


『放さない! 放さないぞ烈風猛竜ルドラプター!!』

「ほう、見かけの割りに頑丈だな」

「この自慢の腕を破壊するまではね」


――右腕・機体損傷率15%


 闘神坊の右腕のダメージ量は上昇。

 黒澤選手は表情を変えません。


「ふん……」


 闘神坊は持たれた手首をひょいと持ち上げました。


「くっ!?」

『う、浮足だったアアアッ!?』


 烈風猛竜ルドラプターの踵が浮き立ち、爪先立ちの状態に。

 まるで合気道の演武を見ているかのようでした。


「神養か」


 シュハリがそう述べ、


「藤宮流の基本形。これそのものは技ではない」


 と黒澤選手は答えます。

 対するシュハリは、


「知ってるさ。その技は力の入れ方や相手の重心操作を学ぶための鍛練型だ」


 と返し、


「あんたも使うのか藤宮流」


 息を飲みます。

 黒澤選手は、


「一通りは学んでいる」


 と述べ、


「ここから投げ技に移行するのが本来の型であるが……」


 闘神坊は左足を動かしました。

 膝を折り、胸の位置まで抱え上げています。


「私は打撃を使わせてもらう」


 その言葉と同時に。


 ゴッ、


 鈍い金属音が鳴りました。


『おお猛烈! 前蹴りヒット!』


 闘神坊の前蹴りが炸裂。

 烈風猛竜ルドラプターのボディに打ち込まれました。


『クリティカルヒットオオオッ!』


 吹き飛ばされますが。


 ふっ、


 と一回転して着地。

 ネコ科動物のようなしなやか、かつ軽やかな動きでした。


「会心の一撃だったはずだが」


 黒澤選手は烈風猛竜ルドラプターを見据えます。

 打ち込んだボディには、亀裂などの損傷は全くありません。


「仕切り直しだ」


 烈風猛竜ルドラプターは再び構えます。


☆★☆


 暦はモニターを凝視した。

 神谷颯が藤宮流の極意を使ったからだ。

 その名も――。


「羽衣のたい!」

「習得するのに時間がかかったよ。あんたから離れたといえば尚更ね」

「っ!」


 暦が驚き振り返ると、


「血の滲むような鍛練、道場破りを繰り返してやっと身につけた」


 縛っていたはずのルミが縄を解いていた。


「この日のため、烈風猛竜ルドラプターにトレースさせたんだ」

「ルミ……」

「母さん、はそのために蘇ったんだよ」

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