準決勝にて、破壊された
その左腕が雷の腕へとなっていた。
「あの左腕……」
「山村さん、どういうことですか」
ルミと暦の不思議そうな視線が山村に送られる。
山村は飄々と述べた。
「
暦は声を強める。
「そういう問題ではありません。何故、御影製作所が紫雲電機に協力しているのですか」
山村は両手を上げ、肩をすくめる。
「私もさっぱりピーマンで」
困った素振りを見せるも、それがどうにも演技じみていた。
「あんた、どっちの味方なんだ」
ルミは目を細めた。
警戒、あるいは怒りの表出である。
「どっちと言われてもな」
山村は一瞬であったが暦を見た。
(ん?)
ルミは違和感を持った。
暦を牽制するかのような視線の使い方だった。
「そういえば山村さん。あなた、クオリティタイムがどうとか言ってましたね」
その視線に気づいたのか、暦は少し左足を前にしている。
問いを投げかけながらも油断はない。
「それが何か?」
「この大会は色々と不自然なことだらけです。隠し事をされたままでは釈然としません」
「それはちょっと……」
「不都合でも?」
「これ以上のネタバレは、会長の本意ではないと思いますので」
「会長――」
暦は押し黙った。
これまでの山村の口調や態度から、飛鳥馬不二男が暗躍していることは確実。
それ以上は何も言えなかった。
「雇われはつらいですね」
山村はそう述べながら、ゆるりとルミに元へ近寄る。
「それより暦さん。縄を解いてもいいのでは?」
暦は怪訝な顔をする。
「何ですか突然」
「いや、いつまでもお嬢さんを縛り付けるのはどうかと」
「事が終わるまで、じっとしてもらいますよ。暴れられては面倒ですので」
「終わればどうするんですか」
「黒澤大吾に相応しい女になるよう再教育を致します」
「
「ええ」
山村はルミの肩をポンと叩いた。
「古風だね」
ルミはフッと笑う。
「食えない男だ」
縛られた縄が緩まるのを感じたからだ。
☆★☆
試合開始より約50秒。
『どういう経緯かわかりませんが! 赤き龍の左腕は雷の力へと変貌ッ!』
バチバチと音を立てながら、熱エネルギーを闘神坊の腕に送り込みます。
「ほう、接触自体が攻撃か」
観客席で感心した様子で観戦するご老人がいます。
御影製作所の社長、御影太郎さんでした。
「あの
その隣には、何故か野室さんがいました。
「ストスト!」
奇妙な笑いを浮かべる御影さん。
野室さんは顔をほころばせます。
「その笑い、変わりませんね」
「何年ぶりかのう」
「私がゼミ生だった以来です」
「君も紫雲君も優秀な学生じゃった」
「ふふっ……しかし、先生が会社を
御影さんは苦虫を噛み潰したような顔になりました。
「……学内で軍事研究を推し進めようとする流れがあってな。突っぱねたらアカデミーから追い出され無職になったんじゃよ、仕方なく起業といったところでな」
野室さんは頭を下げました。
「ご協力感謝します。実はスペアパーツの調子が悪くて」
御影さんは呆れた顔になりました。
「お前さんのところの品質管理は大丈夫か?」
「それはうちの山村に言ってもらわないと」
「山村……今の忘れてくれ」
「え?」
「試合を見ようぞ」
試合に戻ります。
黒澤さんのモニターには、
――右腕・機体損傷率8%
という数値が表記。
『右腕にダメージだァ!』
――右腕・機体損傷率10%
上昇するダメージ量。
このままでは右腕が機能停止となります。
しかし、これで終わらないのが絶対王者。
「むん!」
ローキックが炸裂。
『手がダメでも足があるッ!』
「ッ!」
体勢が崩れた
『放さない! 放さないぞ
「ほう、見かけの割りに頑丈だな」
「この自慢の腕を破壊するまではね」
――右腕・機体損傷率15%
闘神坊の右腕のダメージ量は上昇。
黒澤選手は表情を変えません。
「ふん……」
闘神坊は持たれた手首をひょいと持ち上げました。
「くっ!?」
『う、浮足だったアアアッ!?』
まるで合気道の演武を見ているかのようでした。
「神養か」
シュハリがそう述べ、
「藤宮流の基本形。これそのものは技ではない」
と黒澤選手は答えます。
対するシュハリは、
「知ってるさ。その技は力の入れ方や相手の重心操作を学ぶための鍛練型だ」
と返し、
「あんたも使うのか藤宮流」
息を飲みます。
黒澤選手は、
「一通りは学んでいる」
と述べ、
「ここから投げ技に移行するのが本来の型であるが……」
闘神坊は左足を動かしました。
膝を折り、胸の位置まで抱え上げています。
「私は打撃を使わせてもらう」
その言葉と同時に。
ゴッ、
鈍い金属音が鳴りました。
『おお猛烈! 前蹴りヒット!』
闘神坊の前蹴りが炸裂。
『クリティカルヒットオオオッ!』
吹き飛ばされますが。
ふっ、
と一回転して着地。
ネコ科動物のようなしなやか、かつ軽やかな動きでした。
「会心の一撃だったはずだが」
黒澤選手は
打ち込んだボディには、亀裂などの損傷は全くありません。
「仕切り直しだ」
☆★☆
暦はモニターを凝視した。
神谷颯が藤宮流の極意を使ったからだ。
その名も――。
「羽衣の
「習得するのに時間がかかったよ。あんたから離れたといえば尚更ね」
「っ!」
暦が驚き振り返ると、
「血の滲むような鍛練、道場破りを繰り返してやっと身につけた」
縛っていたはずのルミが縄を解いていた。
「この日のため、
「ルミ……」
「母さん、