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第46話:烈風出陣

 参加企業のため、空破闘機場に設けられた32の特別室。

 ここはそのうちの一つ、紫雲電機の部屋である。


「……」


 蓮也は、この大会を機会にある人物と一対一の話をしたいと思った。

 予め、大会中は野室達が部屋に来ないように頼んでいる。

 その方が話しやすいと思ったからだ。

 連絡は過去に使われていたメールアドレスに送った。

 返事は来なかったが、来ると信じて待ち続けていた。


「やはり来ないか」


 と諦めかけるが、


 キィ……、


 音がした、扉を開ける音である。


「一人?」

「ああ」


 飛鳥馬小夜子が入った。

 アスマエレクトニックの技術主任、かつての上司である。


「座っていいかしら」

「どうぞ」


 部屋にはモニター、長テーブルがそれぞれ一つ。

 椅子は向かい合わせに2組並べられ、計10脚。

 蓮也はテーブルの端に座っている。

 小夜子は蓮也に対面するように座り、開口一番にこう述べた。


「勝つのは私達ですから」


 蓮也はニッと笑った。


「いきなりそれかよ。相も変わらず、気が強いお嬢様だ」

「その台詞、私が入社した時と同じね。挨拶と同時に私に投げかけた」

「業績不振で解任されるまでは俺の親父、紫雲辰之助が技術主任だったからな。次は誰だと思えば、あんただった。大学卒業したばかりの新入社員、更に飛鳥馬一族の令嬢となれば、嫌味の一つも言いたくもなる」

「私は天才でしたもの」

「可愛くないぞ」


 小夜子は呆れた口調で言った。


「女性の扱いが下手ね」

「そういうのが苦手なもんでな」


 小夜子は目を潤ませた。


「あなたと話していると不思議ね……。こうやって軽口を言い合える」


 小夜子は都内の国立大学へ入学し飛び級で卒業。

 また、学生時代より遊び感覚でロボットビジネスを起業。

 子供や老人向けの小型ロボットを開発し、事業を成功させるほどの才女。


 それ故に人から妬み嫉みを買い、また上辺だけの関係を作ろうと近寄るものも多かった。

 過ぎたる出自、才能は人を孤立させる。そんな時に出会ったのが本音をぶつけてくる蓮也だった。

 本人は認めないが、小夜子は蓮也を異性としての魅力を感じていたのだ。


「そういえば、あなたのお父様は何を?」

「今は医療福祉を目的にする、小さなロボット開発メーカーで働いてるよ」


 それを聞いた小夜子は視線を落とした。


「憎いでしょう。飛鳥馬があなたの父親を辞めさせ、次はあなたを会社から追い出した」

「会社は自分から辞めたんだ」


 暫しの静寂が流れた。

 重い空気感が漂う中、小夜子は口を開いた。


「お願い、戻って来て」


 蓮也は即座に答えた。


「それは出来ない。俺はBU-ROADを人殺しの道具にしたくないんだ」

「蓮也さん、これは日本の産業を復活させるためなの! 私、あなたがいないと……」


 小夜子の懇願するような声。

 すると、


「もうすぐ決勝戦だ。一緒に見ないか」


 突然、蓮也はモニターをつけた。

 画面には誰もいない試合場だけが映る。


「決勝戦はあの黒澤大吾――試合に集中させるため、颯のセコンドにはつかない」


 そして、蓮也は強い口調で言った。


「うちが負けたら会社を畳むよ」


 小夜子は安堵の表情を浮かべた。


「必ず戻ってもらうから……」

「勝てたらな」


☆★☆


「烈風出陣ってところかな」


 シュハリ――ハヤテは格納庫にいました。

 その周りには野室さん、粟橋さん、加納さんがいます。


「社長や山村さんはどこっスかね」


 加納さんが辺りを見渡します。

 ですが、そこに社長と山村さんの姿はありません。


烈風猛竜ルドラプターの最終調整を俺達に任せっきりでよ。左腕の修理もこれからだってのに」


 粟橋さんの言葉に野室さんが答えます。


「山村はわからんが、社長は私用だな」

「私用? いさみといい勝手だな」


 私は一瞬ドキリとしますが、野室さんがおもむろに立てた小指に注目しました。

 粟橋さんはそれが何か察したようです。


「わ、わかった」


 一方のハヤテは烈風猛竜ルドラプターに手を当て、


「君にはたくさんの人の想いが詰まっている――絶対に勝とうぜ」


 優しく語りかけました。

 決勝戦は――もうまもなく開始です。

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