参加企業のため、空破闘機場に設けられた32の特別室。
ここはそのうちの一つ、紫雲電機の部屋である。
「……」
蓮也は、この大会を機会にある人物と一対一の話をしたいと思った。
予め、大会中は野室達が部屋に来ないように頼んでいる。
その方が話しやすいと思ったからだ。
連絡は過去に使われていたメールアドレスに送った。
返事は来なかったが、来ると信じて待ち続けていた。
「やはり来ないか」
と諦めかけるが、
キィ……、
音がした、扉を開ける音である。
「一人?」
「ああ」
飛鳥馬小夜子が入った。
アスマエレクトニックの技術主任、かつての上司である。
「座っていいかしら」
「どうぞ」
部屋にはモニター、長テーブルがそれぞれ一つ。
椅子は向かい合わせに2組並べられ、計10脚。
蓮也はテーブルの端に座っている。
小夜子は蓮也に対面するように座り、開口一番にこう述べた。
「勝つのは私達ですから」
蓮也はニッと笑った。
「いきなりそれかよ。相も変わらず、気が強いお嬢様だ」
「その台詞、私が入社した時と同じね。挨拶と同時に私に投げかけた」
「業績不振で解任されるまでは俺の親父、紫雲辰之助が技術主任だったからな。次は誰だと思えば、あんただった。大学卒業したばかりの新入社員、更に飛鳥馬一族の令嬢となれば、嫌味の一つも言いたくもなる」
「私は天才でしたもの」
「可愛くないぞ」
小夜子は呆れた口調で言った。
「女性の扱いが下手ね」
「そういうのが苦手なもんでな」
小夜子は目を潤ませた。
「あなたと話していると不思議ね……。こうやって軽口を言い合える」
小夜子は都内の国立大学へ入学し飛び級で卒業。
また、学生時代より遊び感覚でロボットビジネスを起業。
子供や老人向けの小型ロボットを開発し、事業を成功させるほどの才女。
それ故に人から妬み嫉みを買い、また上辺だけの関係を作ろうと近寄るものも多かった。
過ぎたる出自、才能は人を孤立させる。そんな時に出会ったのが本音をぶつけてくる蓮也だった。
本人は認めないが、小夜子は蓮也を異性としての魅力を感じていたのだ。
「そういえば、あなたのお父様は何を?」
「今は医療福祉を目的にする、小さなロボット開発メーカーで働いてるよ」
それを聞いた小夜子は視線を落とした。
「憎いでしょう。飛鳥馬があなたの父親を辞めさせ、次はあなたを会社から追い出した」
「会社は自分から辞めたんだ」
暫しの静寂が流れた。
重い空気感が漂う中、小夜子は口を開いた。
「お願い、戻って来て」
蓮也は即座に答えた。
「それは出来ない。俺はBU-ROADを人殺しの道具にしたくないんだ」
「蓮也さん、これは日本の産業を復活させるためなの! 私、あなたがいないと……」
小夜子の懇願するような声。
すると、
「もうすぐ決勝戦だ。一緒に見ないか」
突然、蓮也はモニターをつけた。
画面には誰もいない試合場だけが映る。
「決勝戦はあの黒澤大吾――試合に集中させるため、颯のセコンドにはつかない」
そして、蓮也は強い口調で言った。
「うちが負けたら会社を畳むよ」
小夜子は安堵の表情を浮かべた。
「必ず戻ってもらうから……」
「勝てたらな」
☆★☆
「烈風出陣ってところかな」
シュハリ――ハヤテは格納庫にいました。
その周りには野室さん、粟橋さん、加納さんがいます。
「社長や山村さんはどこっスかね」
加納さんが辺りを見渡します。
ですが、そこに社長と山村さんの姿はありません。
「
粟橋さんの言葉に野室さんが答えます。
「山村はわからんが、社長は私用だな」
「私用? いさみといい勝手だな」
私は一瞬ドキリとしますが、野室さんがおもむろに立てた小指に注目しました。
粟橋さんはそれが何か察したようです。
「わ、わかった」
一方のハヤテは
「君にはたくさんの人の想いが詰まっている――絶対に勝とうぜ」
優しく語りかけました。
決勝戦は――もうまもなく開始です。