鳴りました、音が鳴りました。
金属を叩きつける音です。
『二度目の正直!
轟くミリアの声、喉に痛みを覚えます。
クリーンヒット、これまでとない強烈な一撃が決まりました。
貫手もまたフェイント、この技を繰り出すための罠でした。
「やった」
『
地に伏せた
「
「俺は、
体を震わせています。
「立ちな」
シュハリが灰野選手に言った言葉です。
「
雷は、アクション映画俳優のように指で手招きします。
「うん」
シュハリはそう述べ、
ゆっくりと立ち上がらせ、
「フェイントが好きだね」
と語りかけます。
雷は両手は開手、足は猫足立ちと呼ばれる構えを取りました。
それは前足の踵を浮かせ、後ろ足に体重を乗せる伝統的な空手の立ち方です。
「引っかかるほうが悪い」
「それもそうだ」
「素直だな、俺と対戦した時は生意気な言動が目立ったが」
「俺はあんたと会うのは、この試合が初めてだよ」
「っ!」
「やっと気づいたか」
「声が少し似ていたからな」
「そう? そういや、不屈のおっさんからも言われたな」
「フクツ?」
「俺の先生さ!」
鉄拳が飛んできました。
「破亜!」
雷は空手の廻し受けで弾き、
立ち関節技、
「甘い」
ここまでの技の流れまで一瞬で鮮やかでした。
『逆襲の逆技だッ!』
ボクンッ、
不快な音が鳴り響きました。
雷は
『左腕を破壊ッ!』
社長は顔面蒼白となります。
「こ、今度は左腕かよ!」
一方のシュハリは冷静です。
残った右腕を雷に差し出し、
「
近距離から空気弾を発射、片手なので威力はありません。
「ちっ!」
が、空気の衝撃波を受けた雷は後退。
距離を取ることに成功しました。
「片腕何とかってところか」
右手は手刀を形作り、右の足首は外側を向けています。
「藤宮流――外天の構え」
「奇妙な構えだな」
「来いよ」
「誘うか」
雷は、
「
右足だけにプラズマを放出させます。
「右足だけ?」
「この
「
「これは雷だ」
「あんたは知らないだけさ」
「ふんッ!」
雷は高速で、
平拳、手刀、貫手、前蹴りを稲妻のような速さで打ち込みます。
『半身の姿勢で避ける! 弾く! いなす!』
「その右足を使わないのかい」
「
雷は両手を合わせると、
「いくぜ」
雷の右手と左手。
それぞれの手からプラズマを放出させ、
「光ッ!」
ぶつけました。
『せ、閃光弾か!?』
フラッシュバン。
目がくらむような光と音が広がりました。
白い光に包まれ何も見えません。目くらましです。
「今度こそ倒す!」
光の中から
――
雷鳴音と風切り音。
ほどよく混ざった音が聞こえますが、
「灰野さん、執念のこもった一撃だったよ」
避けられていました。
『足刀不発!』
雷が繰り出した技は足刀でした。
「藤宮流――地龍!」
ですが、モニターに
「どこに……ッ!?」
両足を雷の足に挟み込んでいました。柔道でいうところの蟹ばさみです。
「うァ!」
メシャッ、
と鈍い音が響きました。
雷の左足はあらぬ方向へと折れ曲げられ破壊されました。
『ひ、左足を破壊!』
雷は地に伏せ、
ルール上、マシンの損傷が激しいと試合続行の判断は、AI判定に委ねられます。
ブザーが鳴ると即座に試合は終了。
準々決勝三回戦でも、スピンドルの脚部を破壊されたギルマン選手は、AI判定によりTKO負けとなりました。
「まだだ!」
「まだ俺は
雷を起動させ、
『な、なんという執念!』
右足一本で立ち上がります。
ブー!
ですが、AIはブザー音を鳴らします。
『し、試合は終了! AI判定により勝利は――』
シュハリとなりますが、
「つァッ!」
雷は跳躍して正拳突きを放ちます。
「あなたのことを尊敬する」
「そして、雷へと変わった
繰り出したるは右拳。
ガギィッ!
「俺が弱くて、すまなかったと」
雷の機能は完全に停止しました。
○ 黄龍祭 準決勝一回戦
契約ファイター:シュハリ(本名・神谷颯) スタイル:???
BU-ROADネーム:
VS
契約ファイター:カタナシ(本名・灰野秀児) スタイル:雷神流
BU-ROADネーム:雷 スポンサー企業:御影製作所
勝者:『シュハリ』
☆★☆
モニターに映る敗北の文字。
カタナシ――灰野選手は言いました。
「またかよ」
セコンドを務める御影さんが語りかけます。
「終わったか?」
「あんたか、試合中ずっと黙っていたな」
「ちょい寝てた」
「それでも師匠かよ」
「お邪魔だと思ったでな」
灰野選手は頷きます。
「よくわかっている」
御影さんは満面の笑みを浮かべます。
「灰野、憑き物が落ちたような顔してるぞ」
「そうか?」
「満足そうな顔じゃ」
「ふっ……呪いが解かれたような気分だからな」
「呪いか、まるでカエルの王子様じゃな。キスの味はどうだった?」
「中段突き――痛いキスだった」