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第43話:鉄の灰野

 鳴りました、音が鳴りました。

 金属を叩きつける音です。

 烈風猛竜ルドラプターの頭部に、雷の変則蹴りが当たったのです。


『二度目の正直! 紅蓮華輪ぐれんかりんが顔面に決まったアアア!』


 轟くミリアの声、喉に痛みを覚えます。

 クリーンヒット、これまでとない強烈な一撃が決まりました。

 貫手もまたフェイント、この技を繰り出すための罠でした。


「やった」


 灰野カタナシ選手は、


烈風猛竜ルドラプターダウン!』


 地に伏せた烈風猛竜ルドラプターを見ます。


烈風猛竜お前に、俺は地面にはいいつくばされたが――」


 灰野カタナシ選手は、


「俺は、烈風猛竜お前を地面にはいいつくばせた――」


 体を震わせています。


「立ちな」


 シュハリが灰野選手に言った言葉です。


れるだろ?」


 雷は、アクション映画俳優のように指で手招きします。


「うん」


 シュハリはそう述べ、烈風猛竜ルドラプターを起動。

 ゆっくりと立ち上がらせ、


「フェイントが好きだね」


 と語りかけます。

 雷は両手は開手、足は猫足立ちと呼ばれる構えを取りました。

 それは前足の踵を浮かせ、後ろ足に体重を乗せる伝統的な空手の立ち方です。


「引っかかるほうが悪い」

「それもそうだ」

「素直だな、俺と対戦した時は生意気な言動が目立ったが」

「俺はあんたと会うのは、この試合が初めてだよ」

「っ!」

「やっと気づいたか」

「声が少し似ていたからな」

「そう? そういや、不屈のおっさんからも言われたな」

「フクツ?」

「俺の先生さ!」


 鉄拳が飛んできました。

 烈風猛竜ルドラプターの速い順突きジャブです。


「破亜!」


 雷は空手の廻し受けで弾き、烈風猛竜ルドラプターの腕を極めます。

 立ち関節技、腕挫腋固うでひしぎわきがためと呼ばれる技。


「甘い」


 ここまでの技の流れまで一瞬で鮮やかでした。


『逆襲の逆技だッ!』


 ボクンッ、


 不快な音が鳴り響きました。

 雷は烈風猛竜ルドラプターの左腕をもぎとったのです。


『左腕を破壊ッ!』


 社長は顔面蒼白となります。


「こ、今度は左腕かよ!」


 一方のシュハリは冷静です。

 残った右腕を雷に差し出し、


風圧掌エアロブレイク


 機能ギミックを発動。

 近距離から空気弾を発射、片手なので威力はありません。


「ちっ!」


 が、空気の衝撃波を受けた雷は後退。

 距離を取ることに成功しました。


「片腕何とかってところか」


 烈風猛竜ルドラプターは極端までの半身。

 右手は手刀を形作り、右の足首は外側を向けています。


「藤宮流――外天の構え」

「奇妙な構えだな」

「来いよ」

「誘うか」


 雷は、


雷脚ボルトブート起動ッ!」


 右足だけにプラズマを放出させます。


「右足だけ?」

「この機能ギミックは燃費と機器の損傷が激しくてな、あまり多用出来ないんだ」

迅雷剛竜ボルドラゴン型落ちおじいちゃんだもんね」

「これは雷だ」

「あんたは知らないだけさ」

「ふんッ!」


 雷は高速で、烈風猛竜ルドラプターに向かって突進。

 平拳、手刀、貫手、前蹴りを稲妻のような速さで打ち込みます。


『半身の姿勢で避ける! 弾く! いなす!』


 烈風猛竜ルドラプターは手を、足を、体を使い、直線的な攻撃を全て防ぎました。


「その右足を使わないのかい」

切り札ジョーカーは最後さ」


 雷は両手を合わせると、


「いくぜ」


 雷の右手と左手。

 それぞれの手からプラズマを放出させ、


「光ッ!」


 ぶつけました。


『せ、閃光弾か!?』


 フラッシュバン。

 目がくらむような光と音が広がりました。

 白い光に包まれ何も見えません。目くらましです。


「今度こそ倒す!」


 光の中から灰野カタナシ選手の声が聞こえます。


――雷抜刀サンダースパロー


 雷鳴音と風切り音。

 ほどよく混ざった音が聞こえますが、


「灰野さん、執念のこもった一撃だったよ」


 避けられていました。


『足刀不発!』


 雷が繰り出した技は足刀でした。


「藤宮流――地龍!」


 灰野カタナシ選手の耳には、シュハリの声が聞こえます。

 ですが、モニターに烈風猛竜ルドラプターの姿は見えません。


「どこに……ッ!?」


 烈風猛竜ルドラプターは右手を地面につけ、低空を舞っていました。

 両足を雷の足に挟み込んでいました。柔道でいうところの蟹ばさみです。


「うァ!」


 メシャッ、


 と鈍い音が響きました。

 雷の左足はあらぬ方向へと折れ曲げられ破壊されました。


『ひ、左足を破壊!』


 雷は地に伏せ、烈風猛竜ルドラプターは距離を置き残心を取ります。

 ルール上、マシンの損傷が激しいと試合続行の判断は、AI判定に委ねられます。

 ブザーが鳴ると即座に試合は終了。

 準々決勝三回戦でも、スピンドルの脚部を破壊されたギルマン選手は、AI判定によりTKO負けとなりました。


「まだだ!」


 灰野カタナシ選手は、


「まだ俺はれる!」


 雷を起動させ、


『な、なんという執念!』


 右足一本で立ち上がります。


 ブー!


 ですが、AIはブザー音を鳴らします。


『し、試合は終了! AI判定により勝利は――』


 シュハリとなりますが、


「つァッ!」


 雷は跳躍して正拳突きを放ちます。


「あなたのことを尊敬する」


 烈風猛竜ルドラプターは大きく前へ出て、


「そして、雷へと変わった迅雷剛竜ボルドラゴンに伝えたい」


 繰り出したるは右拳。


 ガギィッ!


 烈風猛竜ルドラプターの中段突きが雷の胸部に炸裂、拳型に陥没しています。


「俺が弱くて、すまなかったと」


 雷の機能は完全に停止しました。


○ 黄龍祭 準決勝一回戦


契約ファイター:シュハリ(本名・神谷颯) スタイル:???

BU-ROADネーム:烈風猛竜ルドラプター スポンサー企業:紫雲電機


VS


契約ファイター:カタナシ(本名・灰野秀児) スタイル:雷神流

BU-ROADネーム:雷 スポンサー企業:御影製作所


勝者:『シュハリ』


☆★☆


 モニターに映る敗北の文字。

 カタナシ――灰野選手は言いました。


「またかよ」


 セコンドを務める御影さんが語りかけます。


「終わったか?」

「あんたか、試合中ずっと黙っていたな」

「ちょい寝てた」

「それでも師匠かよ」

「お邪魔だと思ったでな」


 灰野選手は頷きます。


「よくわかっている」


 御影さんは満面の笑みを浮かべます。


「灰野、憑き物が落ちたような顔してるぞ」

「そうか?」

「満足そうな顔じゃ」

「ふっ……呪いが解かれたような気分だからな」

「呪いか、まるでカエルの王子様じゃな。キスの味はどうだった?」

「中段突き――痛いキスだった」

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