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第6話:BU-ROADシアター

「お、おい……お前やり過ぎ」

「先に喧嘩をしかけたのはコイツらだぞ?」

「それでも暴力はいかん」

「こうでもせんと、やられたのはアスパラだぜ」


 紫雲電機とシラヌヒ・ストアとの間に起った商品の価格販売をきっかけに起った対立。

 力づくで納得させようとしたシラヌヒ・ストアに、こちらも力で応えるという最悪な形になってしまいました。

 それは早速、会社組織同士の争いの範疇を越えてしまい――。


「しゃ、社長! 物音がしましたが……」

「ああっ!? 信州さんに源龍さん!」

「この野郎! 生きて帰すな!」


 抗争へと発展……。

 部屋にはシラヌヒ・ストアの社員さん達が集まって来ました。

 全員が屈強なプロレスラーです。


「ど、どうしよう……」


 とんでもないことに巻き込まれてしまいました。

 私は恐怖で身を縮めるしかありません。


「ヌヒィィィヒヒヒッ! ヌフゥヒヒヒッ! ヌフゥヒッヒッヒッ!」


 その時です。清巳さんが独特の笑い声をあげます。

 私達もシラヌヒ・ストアの社員達も呆然としました。


「……何がおかしいんだい?」


 シュハリの問いに、清巳さんは私達の後ろを指差しました。


「ウチには、超強力な用心棒がいるんだよねェん」

「えっ!?」


 反射的に私達は後ろを向きますが――。


「誰もいない?」

「おいデカポン野郎! 誰も――」


 パシッ!と皮膚を打つ音が聞こえると、


「きゃっ!」


 私の腕が誰かに掴まれました。


「捕まえたら離さないよォォォオオオん!」


 フェイク――私は清巳さんに捕まってしまいました。


「は、離して下さい!」

「無理無理無理のカタツムリ!」


 強い腕力にここまでの一連の動作、この巨体から考えられない俊敏さと反射神経です。


「こんなのに引っ掛かるのは子供だけだよ~~ん! ヌヒヒッ!」

「あ、あんた!」


 社長は動揺し、シュハリは少し重心を落としました。


「その手を離しな。フザけたことをしたら……ただじゃすまないよ?」


 周囲の社員レスラー達に警戒しつつも、すぐに飛びかかれるようにしています。

 すると、


「いいよ」


 あっさりと解放、私達は呆気にとられました。

 清巳さんはどこか相手をからかったような態度です。


「ヌヒヒヒッ!」


 部屋に来た社員を、手で追い払う仕草をします。

 それを見た社員達は倒れた二人を抱え上げ、無言で部屋から出て行きました。

 部下達がいなくなるのを確認すると、清巳さんは再び椅子に腰かけます。


「ボク達は堅気のビジネスマン、こんなことをしたらダメだよね?」


 とぼけたような口調でそう言い放ちます。

 対するシュハリの重心は落としたままでまだ警戒を崩しません。


「先に喧嘩を売ったのはお前さんだろ」

「喧嘩じゃないよ台本、これは試合を盛り上げるための台本だよん」

「台本だと?」


 すると、清巳さんはデスクの引き出しからスポーツ紙の切り抜き記事を見せます。

 それはデビュー戦の勝利を伝える、烈風猛竜ルドラプターのベタ記事です。


「紫雲さん、遅ればせながらデビュー戦おめでとう」


 おどけた口調から一変して低い声でした。これまで演技だったのでしょうか?


「相手はMUTURAだったらしいね? 大手メーカーのマシンを倒したのに扱いが小さい」

「ま、まァ……」

「この世はオレンジのように酸っぱい。どれだけ頑張ろうと世間が認めてくれないこともある」

「えっ……そ、そうですね」

「私もそうだ。地域密着型プロレスリングとしてオレンジプロレスを運営しているが、世間の自称格闘技マニアどもからはやれ八百長だの、見世物だのと散々だ。興行でも大手団体の営業力や集客力には敵わず」


 淡々と語る清巳さん――椅子から立ち上がり言葉を続けます。


「プロレスだけでは喰っていけないから、こうして通信販売会社をやっている。今ではこっちの方が有名で困るくらいさ」


 呆気に取られる私達、清巳さんは一体何を?


「あんたの自分語りはどうでもいいんだよ。うちの希望価格で売るのか、売らないのか結局どっちなんだい?」


 シュハリの言葉に清巳さんは口元が緩みます。


「それはBU-ROADバトルで決めようじゃないか」


 その言葉に社長が反応しました。


「ま、まさか、シラヌヒ・ストアも!?」

「そう――実はあんた達よりも数日早くデビューした」


 シュハリは清巳さんを睨みつけながら言います。


「シラヌヒ・ストア側は誰が出るんだい?」

「私、清巳凡至――いや『マスク・ド・シラヌヒ』がお相手しよう」


――ヌヒヒヒヒヒッ!


☆★☆


『始まってしまったッ! 希望小売価格を巡っての争いがァーッ!』


 まもなくサムライドームで試合が始まります。対戦は紫雲電機VSシラヌヒ・ストア。

 試合を取り決めたのはBBJ――BU-ROAD・バトル・ジャパンがランダムに決定したもの。

 紫雲電機の面々は、デビュー戦翌日に決まっていたことに気付いていませんでした。


「もう次の試合かよ」

「だ、大丈夫っスかね?」


 粟橋さんと加納さんが心配した顔で見守ります。

 あのデビュー戦から試合間隔はそんなに空いていません。すぐにカードが組まれました。

 普通ならマシンの調整を兼ねて日程を開けるのが暗黙のルール……。

 誰の差し金であるか、野室さんと山村さんはおおよその見当がついている様子です。


「飛鳥馬主任だな……」

「完全に潰す気満々♪」


 すると加納さんが何か気付き、


「ちょ、ちょっと! なんっスかアレは!?」


 ドームのビジョンを指差します。


『うちの希望価格で売るのか、売らないのか結局どっちなんだい?』

『それはBU-ROADバトルで決めようじゃないか』


 私達とシラヌヒ・ストアでのやり取りです。密かに隠し撮りでもしていたのでしょう。

 場面は切り取られ、声を吹き込んだところもあり、上手く編集された煽りVTRが流されていました。


「この試合で販売価格を決めるってか!?」

「面白れェ!」

「いいぞーっ! やれやれ!」


 単純明快な対立構造は観客達見るものを喜ばせます。

 台本――あの時の言葉の意味がようやく理解出来ました。

 シラヌヒ・ストアは、私達にわざとあのようなことをしたのです。


「ヌヒヒッ! お客さんも盛り上がってるねェ!」

「気にいらないね。プロレスじゃあるまいし」

「こうでも筋書きアングルしないと、売名が出来ないからねェェェエエエん!」


 機械格闘劇BU-ROADシアターが間もなく開演します。


『BU-ROADバトル! 開始ファイッ!』


○ BU-ROADバトル


契約ファイター:シュハリ スタイル:???

BU-ROADネーム:烈風猛竜ルドラプター スポンサー企業:紫雲電機


VS


契約ファイター:マスク・ド・シラヌヒ(本名・清巳凡至) スタイル:プロレスリング

BU-ROADネーム:ポン・カーン スポンサー企業:シラヌヒ・ストア

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