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第2話:その名は烈風猛竜、スタートアップは順調に?(後編)

「すぐに終わらせてやる!」

「いちいち噛ませ犬っぽいセリフを吐くね」

「ほざけ! モビルエンジン起動ッ!」


 灰野選手の声に合わせ、エンジン音とモーター音が響き渡りました。

 インプレスターの脚部に取り付けられたタイヤが高速回転します。

 どうやら最初に攻撃を仕掛けるのはインプレスターのようです。


――ブロロン!


 インプレスターは高速で直進していきます。

 まるでF-1のようなロケットスタートでした。


「つァッ!」


 灰野選手は気合と共に技を繰り出しました――正拳突きです。

 その動きに合わせてインプレスターも同様の動きをしました。

 このBU-ROADは操縦者の脳波や動きを読み取り、生身の動きを再現することが出来る機体なのです。


『ヒット! まともに顔面に入ったッ!』


 インプレスターの一撃がまともに入りました。

 烈風猛竜ルドラプターがギシギシと音を立てながら後退します。

 シュハリのモニターに映る社長は心配した様子で話しかけました。


「お、おい! 大丈夫か!?」

「スマン、ミスったわ」


 そう答えるシュハリ、声のトーンから言って楽しんでいる様子です。

 社長は思ったでしょう。

 「こいつワザと当てさせたな」と――。


「仕留めそこなったか!」


 インプレスターは間合いをとります。

 おそらく機動性を駆使して闘うつもりのようです。

 一方の烈風猛竜ルドラプターは再び変則的な構えを見せます。


「いい一撃だったけど、単発じゃ倒せないよ」

「だからどうした!」


 灰野選手は再び叫びます。


「モビルエンジン起動ッ!」


 前屈立ちの姿勢のまま突進してきます。

 対する烈風猛竜ルドラプターは地面に手を付けました。


「冷却装置――氷満象アイスマンモー!」


 シュハリの言葉に音声認識システムが反応します。

 するとどうでしょうか、烈風猛竜ルドラプターの手からモクモクとした煙が出ました。

 それは排気ガスとは違う、白く冷たいもの――ドライアイスに水をかけたときに発生する煙。

 水蒸気が冷却されたことにより発生する煙でした。


「ありゃなんだ!?」

「お、おい見ろよ!」


 観客達が試合場の床を指差します。


『な、なんと!? 地面が凍り始めたーっ!』


 地面が雪国のアスファルト道路みたいに凍結していたのです。


「ぐッ!?」


 灰野選手から焦りの色が見えました。

 それもそのはず、インプレスターはスリップして体制を崩したのです。

 シュハリはそんなインプレスターに笛を吹くマネをしながら挑発します。


「スピード違反と路面凍結に注意!」

「ちィ!」


 出鼻をくじかれたインプレスターは体制を戻します。

 凍結する地面に苦労しながらも何とか構えます。


「今度からはタイヤチェーンを装備するんだね」


 シュハリはそう述べ、烈風猛竜ルドラプターを起動。ゆっくりと間合いを詰めていきました。

 凍結した不安定な足場なのに何故動けるのでしょうか?


『おっと!? よく見ると進む方向に烈風猛竜ルドラプターの足型がついているぞ!』


 その秘密は烈風猛竜ルドラプターの脚部にあります。

 機体の足部から高熱の遠赤外線が放射され氷を溶解していました。

 社長曰く、この機能は電気ヒーターの技術を応用したものだそうです。


「その足場じゃ攻撃できないだろ?」


 烈風猛竜ルドラプターは既に至近距離の間合いに入っていました。今のところ、機動性では圧倒的に烈風猛竜ルドラプターに分があります。

 インプレスターの方は凍結した地面で攻撃しても手打ちで、大したダメージを与えることは出来ないでしょう。

 ですが、これしきのことで勝利を諦める灰野選手ではありません。


「モビルエンジン起動ッ!」


 モビルエンジンを再び起動します。

 エンジン音と共にタイヤが高速回転していきます。

 破れかぶれになったのでしょうか?


「シャッ!」


 いえ、逆にワザと転倒スリップしたのです。

 それも斜め45度前方に上手く転倒、これは偶然ではない計算された位置取りです。

 機体は上下反転、左手の位置は地面、右足は烈風猛竜ルドラプターの頭部へと向けられます。

 これは灰野選手が得意とする必殺技フェイバリット


紅蓮華輪ぐれんかりんッ! 炸裂だァ!』


 紅蓮華輪。

 灰野選手が得意とする変則蹴りの名称。

 それはカポエラに似た逆立ち姿勢からの奇襲技ですが――。


 パシッ!


「なっ!?」

『軸手を払ったーっ!』


 左手を烈風猛竜ルドラプターの下段蹴りで払われました。

 そのままの勢いで、インプレスターは地面に叩きつけられます。

 機体は放電していますが機能停止までは至らず。まだまだ闘えます。


「完璧なタイミングだったはずだ」


 ショックを隠せない様子の灰野選手、技が外れたから当然とも言えるでしょう。

 一流ならここで切り替えるところでしょうがまだ放心状態。

 灰野選手のメンタルはまだ未熟といってもいいのかもしれません。


「立ちな」


 烈風猛竜ルドラプターは、アクション映画俳優のように指で手招きします。


「場所を変えよう、今のあんたを倒しても面白くない」

「ぐっ……くうッ!」


 烈風猛竜ルドラプターは凍結していない試合場エリアまで移動。

 試合開始の時に見せた変則的な構えをしながら対峙します。

 灰野選手は焦りと屈辱感を現す表情――どこか悲壮感が漂います。


「負けられるかよ……負けたら俺は……」


 灰野選手はバーサーカーのように咆哮をあげました。


「ウオオオオオオオオッ!」


 そのまま突進していきます。

 それは追い詰められたものの心理でしょうか?

 それとも――。


 ガギィッ!


 鈍い金属音が響きました。

 烈風猛竜ルドラプターの中段突きがインプレスターの胸部に炸裂、拳型に陥没しています。

 残心を取りながらシュハリは静かに言いました。


「攻撃が荒っぽいよ」

「ク、クソ……」

「結構楽しめたよ」


 インプレスターは動力源となるエンジンは故障、機能停止です。


『WINNER! 烈風猛竜ルドラプターッ!』


○ BU-ROADバトル


契約ファイター:シュハリ スタイル:???

BU-ROADネーム:烈風猛竜ルドラプター スポンサー企業:紫雲電機


VS


契約ファイター:灰野秀児 スタイル:実践空手

BU-ROADネーム:インプレスター スポンサー企業:MUTURA


勝者:『シュハリ』※デビュー戦勝利

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