クソッ! 忌々しい!
全校生徒の目の前で大恥をかかされたあの日から、あの女のことが寝ても覚めても頭から離れない。
すぐにでも逆襲をしてやりたいのに、あの日以降女は行方をくらまし、一度も俺様の前に姿を現すことはなかった。
「頼まれていた情報、調べ終わりましたよ。
「全校生徒のリストを精査しましたが、あの女とおぼしき生徒の存在は確認できませんでした。ですが、学校の伝承をまとめた卒業生の手記の中に、気になる記述が一つ。それが
「決闘の時の彼女は、何故か白いフードを被っていました。あと、その頃のあなたは豚だったので覚えていないと思いますが、勝負がついた後、彼女は迷いの森方面へと姿を消したという目撃報告も上がっています。こじつけといえばそれまでですが、一応は伝承の記述と一致しています」
ゲイリーの言う通り、これだけで断定するには情報が断片的すぎる。以前の俺様であれば、くだらないと一笑に伏してやるところなのだが……。
今はただただあの女を痛い目に遭わせてやりたい。もし万が一にでも、この眉唾物な伝承があの女のことを指している可能性があるというのなら……。
待っていろ、白頭巾め。明日をお前の命日にしてくれる。
***
すでに日も落ちようかという時刻。そうでなくとも薄暗い森の中は、さらなる闇へと包まれようとしていた。
散々探し回ってみたが人っ子一人、いや、野生動物の一匹すらもいる気配がない。噂にだけは聞いていたが、それ以上に不気味な森だ。
「伝承はしょせん伝承だったか……」
これ以上の長居は危険だ。独り言を呟き、撤退のため進路を変える。
すると、何やら右足に固く、それでいて脆い物の感触が。明かりを向けると、そこにあったのは何者かの頭骨だった。人間のものではないな……。しかし何の動物かまでは判別できない。そしてよく見ると、その頭骨はちょうど脳天のところに不自然な穴が空けられていた。
気味の悪い物を踏みつけてしまったからか、余計に不気味になってしまい、戻る足を速めた……その時だった。
「見ーつけた」
背後から、忘れもしない女の声。
慌てて振り向き、杖を取り出し、身構える。
目の前には白い外套に身を包んだ女が一人。
まさか本当に現れるとはな。正直、恨み言の一つも言ってやりたい気分だが、ここは先制攻撃が優先だ。
杖を構え、呪文を放とうとした、その時。鈍い破裂音がすると同時に、右手に激痛が走る。弾き飛ばされた杖は闇に紛れ、どこに落ちたかすらも分からない。
女の手元では、白銀のリボルバー銃が月明かりに照らされ煌めいていた。
「あら。せっかく、最期の言葉くらいは聴いてあげようと思っていたのに……。
闇の中でもはっきりと分かる、女の瞳の奥底。そこにあるものは、ちょっと痛い目に遭わせてやろうなんていう生半可な嗜虐心などではない。獲物を見つけた餓狼の如き、明確な殺意そのものだった。
嘘だろ? 次代の国家を担うべき存在であるこの俺様が、こんなところで果てていいはずがない。
今はとにかく、ここから逃げなければ。恥も外分もかなぐり捨て、敵に背中を向け走り出す。
「もう逃げ出しちゃうんですか? 神話の狼を名乗る王族の姿が、これでは情けないですね。
白銀のリボルバーから放たれた鉛玉が、左足首を無慈悲に貫く。激痛で走ることもできなくなり、ただただ地に這いつくばる。
そんな俺の左腕を女は容赦なく踏みつけ、隠し持っていた杖を構える。そしてその先から、水色の閃光が闇に妖しく煌めいた。
あの日と同じ感触。もう自分の姿を見ることもできないが、どんな姿にされているのかだけは分かる。
「さようなら、狼さん……いや、今は豚さんでしたね。せめて苦しまないで済むようにしてあげますから、いい子にしていてくださいね」
脳天に触れる冷たい感触。飛び散る血飛沫。
閉ざされゆく視界の中で最期に見たものは、