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クラブ プリシオーネ

「あちらのお客様からシャンパンをいただきましたー! ありがとうございまーす!」


 煌びやかにして、妖しげな雰囲気漂う店内。ここは選ばれたもの金づるだけが入店を許される、大人の社交場。


 陽気な三枚目ホストが、場を盛り上げるべく懸命にシャンパンコールを歌っている。店内の各所からも合いの手や合唱が起こり、店内の盛り上がりは最高潮だ。


 目の前にそびえ立つのは、風でも吹けばすぐにでも倒れてしまいそうな、危ないシャンパングラスの塔。私はその揺れる水面と店内の盛況を冷めた目で眺めながら、手元のグラスを傾ける。


 頑張ってくれている彼には申し訳ないけれど、正直早く終わって欲しい。一応付け加えておくけれど、別に彼が嫌いな訳ではない。


 ただ、1秒でも早く推しの優しい声が聴きたい。それだけが私の生き甲斐なのだから。


 コールもフィナーレに差し掛かり、うって変わって静寂の訪れる店内。待ちに待ったその刻はようやく訪れる。


「姫。いつも僕の為に頑張ってくれてありがとう。そんな姫のこと、愛してるよ」


 優しくて中性的、それでいて有無を言わさぬ王子様のような強かさも秘めたその声。この言葉を聴くためがだけに、私は地獄のような日々を生き抜き続けているのだと実感する。


 わざとらしい、くっさいセリフだって? そんなことは百も承知だ。こちとら醜い豚共に体を売ってまで彼に貢いでいるのだ。生半可な覚悟ではやってられない。


 彼の男性にしては小さめのその手が、私の頭を優しく撫でる。ああ、なんて心地のよい至福の時間。


 このまま時が止まってしまえばいいのに。もしこの夢から醒めてしまったのならば、また、対価を得るため豚共に犯され続ける地獄へと戻らねばならない。今見ているこの夢は最高に幸せだというのに、夢の終わりはすぐそこに迫っているような気がして。それが悲しくてたまらない。


 そんな私の願いが届いたのか否か。ふわっと意識が遠のいていく。お酒、飲み過ぎたかな? でも、もしこのまま目を覚まさずに済むのなら……。こんなに幸せなことはないだろう。


 私は遠のく意識に抗おうともせず、彼に優しく見守られる中、静かに静かに眠りについた。


 ***


「先輩、コイツどうしますか?」


「地下にでも堕としてあげなよ。仲間豚共が沢山待ってるからね」


「はいよ。しっかし、先輩は相変わらずやることがえげつないですねー」


「人聞きが悪いなあ。僕はただ、地獄から彼女を救い出してあげただけだよ。その証拠に、ほら……幸せそうな顔で眠ってるじゃないか」

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