とある街の外れにある、小さな図書館。
駅前のカフェが満員で入れず、座る場所を求めていた僕は、たまたま見つけたその図書館へ足を踏み入れてみることにした。
中に入ってすぐ。受付では一人の女性が座って本を読んでいた。
女性は来訪者に気づくと読んでいた本に栞をはさみ、優しげな笑みを浮かべた。
「ごきげんよう。こんなところに珍しいですね? どうか、ごゆるりとお過ごしくださいね」
浮かべた笑みの印象に違わぬ、優しげな声色。落ち着いた口調からは、その知的さもまた感じ取れた。
館内を見渡してみる。とても綺麗に整頓されているが、窮屈さの類は感じない。彼女の日々の管理の賜物だろうか?
こんなに素敵な図書館なら、もっと人気が有ってもよさそうなものだが……。立地や規模の問題だろうか?
そんなことを思いながら、蔵書のうち一冊の物語を手に取り、席に座ってそのページを開いた。
***
一つの物語を読み終えページを閉じると、気づけば窓の外の景色は薄暗くなっていた。
思わぬ隠れ家スポットが見つかったことに満足し、僕は席を立つ。
「またどうか、いらしてくださいね」
優しく微笑む彼女。そんな彼女に会釈をし、外に出ようとした、その時だった。
受付の奥からだろうか? ほのかに漂う獣の臭い。
臭いの主が気になり、奥を覗き込む。すると、そこにいたのは一羽の白いフクロウ。まるで作り物かのようにおとなしく、止まり木の上で佇んでいる。
「気になりますか? この子のこと。図書館で飼うのは良くないと分かってはいるのですが……。でも、おとなしくてとてもいい子なので安心してくださいね」
彼に向けた僕の目線に気づいた彼女が、優しく語りかけてくる。
確かにこれだけおとなしければ特に支障も無さそうだし、事実、館内を汚したような形跡は一つも無い。
僕は却って彼に感心し、また来ることを誓って、帰路についた。
***
「まったく……。ダメじゃないですか……。誰が勝手に出てきていいなんて言いました?」
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最近、この街にはとある都市伝説がまことしやかに囁かれている。夜も深まり子の刻となると、神隠しに遭うものがあらわれる。そして時を同じくして、街の外れから豚の鳴くような奇妙な声が聞こえてくると。
別にそんな都市伝説など信じているわけではないが、それはそれとして不気味であることに変わりはない。
僕は家へと向かう帰り道を足早に歩いていくのだった。
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その日の夜も、街の外れからは豚の鳴くような声が響いたという。