すっかり木枯らしが吹く季節になった帰り道。
君と並んで歩くのも、あと何回ぐらいになるだろう。
「春は別れの季節」なんていうけれど、キミは冬には行ってしまう。
ホリゾンブルーの帽子が特徴のプロ球団から、念願の指名を受けたキミ。
長年連れ添った幼なじみの悲願が叶い、心の底から嬉しいはずなのに、胸を突くのは切なさばかり。
この切なさ。キミも感じてくれているのかな?
「なあ、詩織。現国の課題図書貸してくれね?」
そんなわけないよね。
「古本屋に100円で売ってるわよ。自分で買いなさいよ」
切なさをキミには見せないよう、あえていつも通りに振る舞ってやる。
そんなとき、ふと、あの本に挟んだお気に入りの栞の存在を思い出した。
「しょうがないからあげるわ。わたしもう読み終わったから返さなくていいわよ」
「え、マジ? サンキュー詩織」
これから先、キミには、地味なわたしのことなんかすぐに忘れちゃうくらい、華々しい出会いが待っているのだろう。
でももし、栞に閉じたページを読み返したくなった、その時は。
冬の足音に縮こまりながら、一冊の本をキミへ手渡す。
口には決して出せない想いを、勿忘草を押した栞に託して。
たとえその時が来なくとも。