目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
ぼんげさんの掌編集
ぼんげ
文芸・その他ショートショート
2024年11月16日
公開日
11,449文字
連載中
最近掌編小説作りに目覚めたぼんげさん。しかし、作っては投稿してを繰り返しているうちに、とあることに気づいてしまう。
「いちいちあらすじ書いたりタグ付けしたり面倒くせぇ……」
そんなわけでまとめました。誰得かは知りません。

(収録作品は朗読等ご自由にお使いしていただいて問題ありませんが、作者名の明示と、初回のみご連絡をお願いします Xアカウント@u7WnTRkfbI74882)

忘れられた救世主

 ジュワワワ。


 揚げ油の泡立つ音。


 黄金色に揚がった立派なそれを、沸き立つ地獄の釜から救い出す。そして、千切りキャベツをこれでもかと敷き詰めたプレートの上へと移していく。


「できたよー」


 声をかけるが返事はない。どうせゲームでもしてるんだろう。


 揚げ物は鮮度が命。呼んでも来ないようなやつなんて待ってやらない。


「やっぱフライにはソースよね……って、あれ?」


 おかしいな。昨日までそこにあったはずのウスターソースの姿が無い。


「ああ、あのソース? 賞味期限切れてたから捨てたよ」


 な、な、な、なんですってーーー!?


 やっと降りて来た不届き者。その口からは聞き捨てのならないセリフが。


「何してんのよ、このバカ! 調味料なんて変な味さえしなければいいのよ!」


「バカとはなんだ、バカとは!? 腹でも壊したらどうすんだよ!?」


「ソースで腹壊すやつなんかいないわよ! だいたい捨てたんなら新しいの買ってきなさい!」


 なんということだ……。せっかくのエビフライにソースが無いとは……。


 この神経質野郎め……。ソースの賞味期限なんか気にするぐらいなら、まずはあの汚い部屋をなんとかしてくれ。


「はあ……。他に何かあったかなぁ……?」


 一縷の望みを抱き、祈るような面持ちで冷蔵庫をのぞき込む。


 すると奥も最奥、今の今まで存在を忘れていた救世主の姿が。さっそくマヨネーズと共にお出ましいただく。


 その正体とは……刻みピクルスの瓶詰め。いつだったか、気まぐれでハンバーガーを手作りしたときに買ってそれっきり。二度と日の目を見ることもなく、冷蔵庫の奥深くで眠りについていた一品だ。


 これをマヨネーズにたっぷりと混ぜ合わせてやれば……簡易タルタルソースの出来上がり? 本当はゆで玉子も入れたいところなんだけど……私の胃とエビフライが「そんなの待ってられない」と急かしてくるから、泣く泣く断念……。


 余らせてもしょうがないので、あるだけたっぷりとかける。


 うん、完璧。


 さっき「フライにはソース」とは言ったが、エビフライにはタルタルもよく似合う。


「うわ……。そのピクルスいつのだよ……。気持ちわり……」


 目の前の自称神経質野郎が何かぬかしている。アンタはいいからソースを買ってきなさい。


「そもそもが保存食なんだから平気よ。それに、心配しなくたってアンタの分は無いわよ。醤油でもかけときなさい」


 私はささやかな優越感にひたりながら、口いっぱいにそのサクサクを頬張った。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?