ジュワワワ。
揚げ油の泡立つ音。
黄金色に揚がった立派なそれを、沸き立つ地獄の釜から救い出す。そして、千切りキャベツをこれでもかと敷き詰めたプレートの上へと移していく。
「できたよー」
声をかけるが返事はない。どうせゲームでもしてるんだろう。
揚げ物は鮮度が命。呼んでも来ないようなやつなんて待ってやらない。
「やっぱフライにはソースよね……って、あれ?」
おかしいな。昨日までそこにあったはずのウスターソースの姿が無い。
「ああ、あのソース? 賞味期限切れてたから捨てたよ」
な、な、な、なんですってーーー!?
やっと降りて来た不届き者。その口からは聞き捨てのならないセリフが。
「何してんのよ、このバカ! 調味料なんて変な味さえしなければいいのよ!」
「バカとはなんだ、バカとは!? 腹でも壊したらどうすんだよ!?」
「ソースで腹壊すやつなんかいないわよ! だいたい捨てたんなら新しいの買ってきなさい!」
なんということだ……。せっかくのエビフライにソースが無いとは……。
この神経質野郎め……。ソースの賞味期限なんか気にするぐらいなら、まずはあの汚い部屋をなんとかしてくれ。
「はあ……。他に何かあったかなぁ……?」
一縷の望みを抱き、祈るような面持ちで冷蔵庫をのぞき込む。
すると奥も最奥、今の今まで存在を忘れていた救世主の姿が。さっそくマヨネーズと共にお出ましいただく。
その正体とは……刻みピクルスの瓶詰め。いつだったか、気まぐれでハンバーガーを手作りしたときに買ってそれっきり。二度と日の目を見ることもなく、冷蔵庫の奥深くで眠りについていた一品だ。
これをマヨネーズにたっぷりと混ぜ合わせてやれば……簡易タルタルソースの出来上がり? 本当はゆで玉子も入れたいところなんだけど……私の胃とエビフライが「そんなの待ってられない」と急かしてくるから、泣く泣く断念……。
余らせてもしょうがないので、あるだけたっぷりとかける。
うん、完璧。
さっき「フライにはソース」とは言ったが、エビフライにはタルタルもよく似合う。
「うわ……。そのピクルスいつのだよ……。気持ちわり……」
目の前の自称神経質野郎が何かぬかしている。アンタはいいからソースを買ってきなさい。
「そもそもが保存食なんだから平気よ。それに、心配しなくたってアンタの分は無いわよ。醤油でもかけときなさい」
私はささやかな優越感にひたりながら、口いっぱいにそのサクサクを頬張った。