明け方の五時に家に着いた
もう、俺の体も心も限界が来ていた
このままでは上司に、いや会社に殺されてしまう
何が笑顔溢れる会社だ。溢れているのは罵詈雑言だけである
もう学生の時に楽しく読んでいた異世界転生系のネット小説も読む時間がない
「俺も異世界に行ければな」
そんな事を考えても意味がないことぐらい俺も大人だから重々承知だ
だが、もはや車に轢かれそうになった子供を助ける気合もなければ令嬢にもなれない
実際、みんな自分の人生が糞だから異世界転生系が好きになるんだよ
最初からチート能力持ってたら異世界なんて行かなくたって無双できるし、人生にレベル制度とか得意スキルが可視化できりゃあ、自分の伸びやすい能力だけ極めて人生ウエーイすればいいだけだからな
「それが分かれば苦労しないよな」
無駄な事を考えていないで早くシャワーを浴びないと、あと三時間後にはまた出勤しないといけない
スーツをハンガーにかけ、下着を籠に放り込むと俺はもう三か月一切掃除していない風呂場にやってきた。カビも生え全体的に薄ら汚れているがもうそんなものは当の昔に神経がやられているから気にもならない
「異世界転生できなくてもいいから、手塚治虫の火の鳥みたいなことが起こらないもんかね」
あのあれだ。頭打った後に自分以外の人が岩に見えたりしたり、すげぇでかい穴に落ちてから近親婚くりかえして何代目かに穴の上に上るとかしたい
シャワーから出るお湯を全身にかけ、股間にお湯が触れた瞬間に違和感を感じた
「うっ!!!!」
これまでの人生の中で感じたことのない痛み
「やべつ……なんだこれ」
俺はその場に座り込む。あまりの痛さに加え、吐き気と頭痛も襲ってきた
「あ……」
目の前が暗くなってゆく
そのまま意識が飛んだ
□
目が覚めると異世界にいた
そう、俺は奇跡的に異世界の住人になったのだ
小説だけの世界だと思っていたものが現実になる
なんて素晴らしいんだ
俺の能力はファントム
相手の能力を全て投影し、その一段上の威力で使える最強スキルだ
この世界には魔王がいるらしい
俺はひょんなことからその魔王を倒せと国王に命じられた
その冒険の中で出会ったシェリーは俺に反抗的な態度をとってくるが俺に恋をしているかわいいロリエルフだ。隠しているらしいが実はエルフの国のお姫様なんだぜ?
幼馴染(設定)のトーコも男勝りだが昔から俺のことを男として見ている
今までの社畜だった俺の人生は終わった。俺は異世界ハーレムで最強の勇者になったんだ!!!
はははははははははははははははっ!!!!!
□
「はーい、やまもとさーん。今日のお薬持ってきましたよー」
「やぁ、シェリー今日もエルフの秘薬を持ってきたのか? この前みたいに爆発なんてよしてくれよ?」
「そうですねーどうぞー」
「ふむ、なんだトーコ? 私の作ったスープも飲めって? お前の作るものはブラックマターだからなぁ。悪かったよ泣くなって」
「お水もどうぞー」
「ファントム!!!」
「では、次は10時の検診の時にきますねー」
「はははははははははっ!!!」