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第145話『花嫁行列』

 私の決意を聞いてシンが苦笑いを浮かべる。


「そうして。やっぱ時宮と天野の血は凄いわ。それをほぼ毎日供給してんでしょ?」

「キスですか? そうですね。でも別に力を注いでる意識は無いんですけど……」

「いやいや、そっちじゃなくてさ。ま、いいや。芹は何だか幸せそうだし彩葉は綺麗だし、今日は天も祭りだな」


 何だか煮えきらないシンに曖昧に頷くと、ビャッコがこそっと私に耳打ちしてくる。


「鈍い女ですね! ほぼ毎晩芹様と寝ているでしょう? と言ってるんですよ!」

「ねっ、ね!?」


 なんて事を言い出すのだ! ていうか何でそんな事をシンが知っているのだ! 思わずビャッコの口を塞いでシンを睨みつけると、シンはおかしそうに笑う。


「ごめんね。神様だからさ、そういうの分かっちゃうんだよね。力の供給の仕方は伽椰子は教えてくれなかった?」


 意地悪に笑うシンに舌を出して言う。


「せっかく上がってた土地神様の好感度がだだ下がりです!」

「えー! これから大分長いお付き合いになるのにー」

「知りません!」


 そっぽを向いた私を見てシンも狐達も楽しそうに笑い声を上げた。それに釣られてついつい私も笑ってしまう。


「彩葉さん、そろそろ準備は出来たかしら?」


 そこへ優子がにこやかな顔をして部屋に入ってきた。


「はい! 大丈夫です」

「綺麗ねぇ! 今のカジュアルな神前式も良いけど、私はやっぱり昔ながらのが好きだわ」

「お母さん、呼びに来たのに見惚れてどうするの! 彩葉ちゃん、ついてきて!」

「栞さん! 栞さんが案内してくれるんですか?」

「そーなの。ちなみに今日の御膳は私監修よ」


 そう言って振り返ってウィンクをしてくる栞はとてもチャーミングだ。そんな栞の車椅子を押すのは、一昨年結婚した栞の旦那である。元々フォロワーだったらしいが、ずっと栞の相談に乗ってくれていたらしい。こういう話を聞くと、SNSもやるもんだと思う。


「そんなの今から楽しみすぎる!」

「そうでしょ? だから頑張って歩いてね!」

「はい!」


 私は栞に案内されて芹原神社の境内に出た。その瞬間、ワッと歓声が上がる。


 そこには参進の儀に参加してくれる人たちが既に待機していた。


 一歩ずつそちらに向かって歩き出すと、前方から芹がこちらに向かってやってきて、私にそっと手を差し出した。


「こんな事して良いんですか?」

「構うもんか。神の結婚式だぞ? これから向かうのも自分の社だしな」


 そう言って微笑んだ芹は私の手を引いて列に並んだ。


 先導してくれるのはテンコとビャッコ。後ろから傘を差し掛けてくれるのは芹原神社の宮司だ。


「さあ、花嫁行列の始まりだ」


 澄んだ声で芹が言うと、雅楽の音が鳴り響く。それに合わせて私達はゆっくりと芹原神社の境内を出た。


 私と芹に親戚は居ない。本来の花嫁行列は親戚がついてきてくれるが、今回は——。


『これさー、ほぼ村の人全員が花嫁行列に参加してない?』


 しずしずと歩いていると、突然頭の中にシンの声が響いた。せっかくのムードがぶち壊しだと思いつつ俯いた振りをして後ろを見ると、確かに物凄い行列が出来ている。


「せ、芹様! ほ、本当に皆一緒に歩いてくれてます!」


 感動して思わず声を上げると、後ろから傘を持つ宮司さんのコホンという咳払いが聞こえてきた。


 それに気付いて思わず肩を竦めると、隣から芹の含み笑いが聞こえてくる。


『心の中で話せ。お前はもうこの力を自由自在に使えるだろう?』

『そうでした』


 人型を持った芹は、私の遠縁で芹山神社を正式に継いだ小鳥遊の末裔だという事になっている。一時私に権利を預けていたのだと。


 最初はそれを皆が胡散臭そうに聞いていたが、私がしょっちゅう芹と出歩くようになり、手を繋いだりしているのを見て勝手に「そういう事か!」と納得してくれたらしい。


 何より元々ド天然の芹はその素直さ故にあっという間に村の人達に馴染んだ。というか、芹からすればここに居る人達の事は赤ん坊の頃から知っているのだ。馴染めない訳がない。


 それにしても自分の社の宮司を自分でするというのも不思議な話だが、芹は私以外の人間を社で雇うつもりはないというし、仕方ない。


『私の最初の計画では芹山神社を再建して、優秀な巫女さんと宮司を雇ってもらうつもりだったのに、いつの間にこんな事になっちゃったんでしょう?』


 笑いを堪えながら芹を見上げると、芹は目を細めて私を見下ろしてくる。


『何を言う。優秀な巫女はもういるし、優秀な宮司も居るだろう? ここに』


 そう言って自分を指差す芹を見てとうとう私は吹き出してしまう。


『冗談はさておき、そんな計画など端から無理だったんだ。私がお前を一目で気に入ってしまった時からな』

『……そうなんですか? でも飛び立っても良いってずっと言ってくれてましたよね?』


 首を傾げる私の頭の中に芹の声が響いてきた。

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