どうしてこんな事をしているかと言うと、もうすぐ最後の三者面談があるのだ。
今までの三者面談は私の事情を考慮した担任が二者面談にしてくれていたのだが、椋浦と細田がどうやら私には「お兄さん」という存在が居るということを担任に伝えたらしく、最後の面談だけはどうしても三者面談がしたいと言いくるめられて今に至る。
芹にそれを伝えると案外芹は乗り気で、今日は朝からずっとこの調子だ。
「これならどうだ?」
「あんまり変わりませんね……土地神もそうですが、やはり神ですから。隠しきれませんよ、その神々しさは」
ビャッコがうんざりした様子で言うと、その隣でテンコもまた頷いている。
が、私は今日ずっと現代風の芹にトキメキまくっていた。
「やはりいつもの私よりもこういう方が彩葉は好むのか?」
そんな私を見て芹が寂しそうに呟くが、そうではない。
「違いますよ、芹様。何ていうか、コスプレ? 非現実感? っていう奴です! いつもの芹様の方が好きだけど、たまには違う芹様も素敵だなって」
「そうか。なら良い。それで髪はどうする? もう少し短くするか?」
「いえ、それぐらいが素敵です!」
結局髪を短くして色を黒くしたが、それでも芹は十分すぎる程目立つ。存在感を限界まで消すとは言っていたが、これは明らかに消えないだろう。
「それでテンコ、スーツは間に合いそうか?」
「大丈夫です。明日には届くそうです」
「そうか。彩葉、当日は大船に乗ったつもりで待っていてくれ」
「は、はい。あの、電車とかで来るんですか?」
こんな状態の芹を1人でバスに乗せたり電車に乗せたりするのは絶対に嫌だ。そんな私の気持ちに気付いたのかどうかは分からないが、芹は緩やかに首を振る。
「まさか。いつものように行く。帰りはお前と帰るが」
それを聞いて浅ましくもホッとしてしまう心の狭さを反省しつつ、私は頷いた。
そして三者面談当日。
「……彩葉さ、その人と毎日生活してんだよね?」
廊下で順番を待っていると、隣から引きつる椋浦が私に耳打ちしてきた。
「え? うん。なんで?」
「いや……顔良すぎない? イケメン二条が霞むわ。うちの母が固まってんだけど。ていうか皆、硬直しちゃってんじゃん」
「そう言われても……」
「はは! まぁ彩葉のせいじゃないよね。お! 細田! どうだった!?」
「由紀ちゃん、お疲れ様。どうだった?」
私達が話していると、教室から細田と母親が出てきた。
「おー! ムックに彩……葉ぁぁ!?」
細田は私達を見つけるなりにこやかに近寄ってきたかと思うと、ふと私の隣に居る芹を見て絶叫する。
「ちょちょ、こっち来い! 『ヤバいヤバい! 格好良いんだろうなとは思ってたけど、予想以上のが来た!』」
「え? え?」
「いいから!」
「う、うん。芹さん、ちょっと行ってきます」
「ああ。では私はムックと話していようか」
「へぁっ!? 『無理だよ! 無理無理! ちょちょ、何で置いてくのよ!』」
突然名指しにされた椋浦は変な声を出して口をパクパクさせているが、そんな椋浦を無視して細田が私の手を引っ張る。
そして廊下の角までやってきて私の肩をガシっと掴む。
「でかしたぞ、彩葉! まさかの中世絵画のお出ましに私はびっくりだ!」
「ちゅ、中世絵画……」
あまりにもはっきりと言う細田に苦笑いを浮かべると、細田が途端に低い声で言う。
「でも大丈夫なんだよな? あれだけの男だと周りが放っとかないだろ?」
「大丈夫。それだけは誓って言える」
真っ直ぐに細田を見て言うと、しばらく私の顔を見つめていた細田がニッと目を細めて笑った。
「なら良し! 結婚式には絶対呼べよ!? あ! ケーキの事は任せとけ!」
「あはは! うん、分かった。優君のとこに頼むよ」
「おう! じゃ戻ろうぜ。ムックがイケメン毒に当てられて吐くかもしれん」
「イケメン毒って」
相変わらず言葉のチョイスがおかしい細田に笑いながら席に戻ると、椋浦は細田の言う通り真っ青な顔をしてまるで壊れた人形のようにコクコクと頷いている。
そう言えば私も最初に芹を見た時に思わず倒れたのを思い出して、あれはイケメン毒に当てられたのかと納得した。
「すみません、芹さん。ごめんね、ムック」
席に戻って芹と椋浦に謝ると、椋浦は私にしがみついてくる。
「おぉん! 『怖かったよぅ! 何かすっごく怖かったよぅ!』」
『ほう、ムックは勘が良いのだな。それに由紀もなかなか鋭そうだ』
口元に手を当てて感心する芹に苦笑いしながら順番を待っていると、ようやく私の順番が回ってきた。