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第133話『プロポーズ』

 皆で狩りたての動物を食べるという貴重な誕生日会が終わり、お風呂を済ませて自室に戻ると、しばらくして芹が部屋を尋ねてきた。


「少しいいか?」

「もちろんです。どうぞ」


 いつもはそんな事を尋ねもせずに勝手に入ってくる芹だが、今日は律儀にそんな事を尋ねてくるので私が快く返事をすると、芹はホッとしたように部屋に入ってきた。


「まずは誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。何だか面と向かって改めて言われると照れますね」


 思わずはにかんで答えると、芹は何故かふいとそっぽを向いてしまう。


「えっとー……それで、どうかされましたか?」

「ああ、いや。誕生日には贈り物をするべきだと狐達に言われて、何が良いか分からなくて土地神に相談して決めたんだが」


 そう言って芹は小さな箱をテーブルの上に置いた。


「これは?」

「誕生日……プレゼントだ。あと、証でも……ある」


 いつもの威厳は一体どこへ行ってしまったのか、芹の目が泳いだ。


 そんな芹を不審に思いつつ箱を開けると中からそれは可愛らしいネックレスが出てくる。


「可愛い……芹様みたい!」


 白い小さな花があしらわれたそれは、まるで芹がネックレスになった時のようだ。


 喜んだ私を見て芹がホッとしたように微笑んだ。


「そうか? 気に入ったか?」

「はい! これで寂しくないかも『毎日芹様と一緒みたいで』」

「実際に常に一緒にいるのと同義だ。ネックレスを贈るというのは『飛躍』や『幸せ』を意味するらしい。あと、その……『束縛』と『独占』という意味も」

「……ちなみに芹様はどちらの意味で贈ってくれたんですか?」


 まさか芹がそんな事を考えながらネックレスを選んだとは思ってもいなくて問いかけると、芹はそっぽを向いて珍しく耳を赤くして言う。


「どちらもだ。私は蛇だからな」

「でもそれは人が勝手に蛇に持ったイメージだと思うんですけど、芹様もそうなんですか?」


 何だかおかしくなって思わずからかうように言うと、芹はキッと私を睨んでくる。


「私だって自分がよく分からないのだ。恋愛映画をいくら見てもこの気持ちだけは誰も上手く言い表さない。だが、お前が他の者と親しそうに話をしていたりすると、胸の奥がザワつく。この間も拓海と話しているのを見るだけで私は自ら札を貼って部屋にこもったぐらいだ」

「……『そうだったんだ! 芹様……可愛い……私が伽椰子さんに思ったのと同じこと考えてたんだ』」

「伽椰子の時に私が言っていた意味が分かったか?」

「嫉妬されるのは気分が良いという話ですか?」

「そうだ。あの時の私は正にそういう気分だった。なぁ彩葉、これはどうすれば解消されるのだ?」


 そう言って芹がズイっとこちらに近寄ってくる。あまりにも真剣な顔で尋ねられて私は思わずゴクリと息を呑んだ。


「わ、私にも分かりません『だって私も初めてなんだもん!』」

「あともう一つ聞きたい。お前は私との子どもが欲しいと、本当にそう思うのか?」

「そ、そりゃいつかは。だって好きな人との子どもは欲しいでしょう? 『芹様の子なんて絶対に可愛いに決まってる。何よりも愛した人の子は育てたいよ、一緒に』」

「そうか。それを聞いて安心した。よくよく考えてみれば私は一度もお前に伴侶になってくれるかと聞いた事が無かったなと思っていたんだ」

「い、今更!?」

「ああ。お前が鬼籍に入ったら永遠に面倒を見ると言った時点でお前に想いを伝えたと思っていたのだが、それでは伝わらないとこの間ビャッコに言われてしまってな。だから改めて問おう。彩葉、お前は私の伴侶になるつもりはあるか?」 

「! 『こ、これは俗に言うプロポーズという奴……では!?』」


 思わず漏れた私の心の声に芹が真顔で頷いた。そんな芹を見て私はおもむろに芹の手を取る。


「当たり前です。恋愛はいつか終わりが来るかも知れないと怯える事もあるって聞きます。でも不思議と芹様にはそんな風に思わないんです。自分でも不思議なんですけど、芹様はそれこそ永遠に私だけを愛してくれそうだなって。私はまだ18になった所で、世の中の事なんて何も分かってません。それでも、これからの人生をずっと一緒に過ごすのは芹様が良いって思います。だから芹様、私からもお願いします。どうかこの先もずっとずっと、あなたの側にいさせてください」


 心臓が爆発しそうだ。まさかこの歳でこんな事を誰かに言う日が来るだなんて思ってもいなかったが、年齢なんて関係ない。


 この神と共に過ごしたい。そう、強く思うのだ。

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