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第130話『告白』

 芹はもう一度私を強く抱きしめ、誰にも聞こえないような小さな声でぽつりと言う。


「愛している、彩葉。お前が望むならデートも結婚式も何でもしてやる。その代わり、永遠に私だけの彩葉でいてくれ」

「っ!」


 思わず声を詰まらせると、芹はおかしそうに微笑んだ。


「こういう時は心の声は封印出来るのだな?」

「ち、ちが! 驚きすぎて……『芹様……ちゃんと告白、伝わってたんだ……』」

「当たり前だ。私がどれほど恋愛映画を見たと思っているんだ。それに言っておくがお前よりも私の方が先にお前に好意を寄せている事に気付いていたと思うぞ」

「う、嘘ですよ! 『私、ここまで鈍くないもん!』」

「何が嘘だ。言っただろう? キスなどすると彩葉が危ないと。あれはキスしてしまうと箍が外れそうだったからだ。深夜に襲いかからないように札の数まで増やしていたんだぞ」

「だ、だったら私なんて伽椰子さんにヤキモチ焼いた時からですよ! 芹様の方が鈍いです! 『私が芹様好きってなったのもっと前だもん! 何なら初見で綺麗な人だなって思ってたもん!』」

「それなら私だって次の巫女は随分可愛らしいと思っていたが? お前の方が鈍い。間違いない」

「違います! 絶対に芹様です!」

「いいや、彩葉だ」


 さっきまでの甘いムードはどこへ行ったのか、気がつけば私達は手を繋いだまま睨み合っていた。心の声がダダ漏れだからだろうか。もう遠慮はいらないような気がしている。


 そんな私達を見て狐達があんなにも苦手だと言っていたシンの着物を握りしめて叫んだ。


「土地神! 地獄です! ウチはホラーが好きなのに、こんなラブコメが毎日続いたら干からびてしまいます!」

「と、土地神、何とかしてください! 今すぐに彩葉の心の声を封印してください!」

「いや~清々しいほど鬱陶しいね! まぁ言ってる間に聞こえなくなるよ。たださ、それはそれで彩葉はきちんと素直に伝えそうだけどね、芹に」


 苦笑いを浮かべてそんな事を言うシンを見て狐達は愕然としているが、目の前の芹はどこか楽しげだ。


 その顔を見て私はようやく安心する事が出来た。これでやっと芹の長かった戦いが終わったのだ。


 私は芹に抱きついて芹を見上げると微笑む。


「芹様、好き。大好きです」

「ああ。私もだ」


 短い返事だったが、それで十分だった。だって芹の顔はとても満足そうだったから。


 身体が本調子に戻るまでは学校を休めと言われて私は5日間もの間学校を休んでしまったが、元気に登校した私を見て心配していた友人達はそれはもう喜んでくれた。


 二条にはお礼を言って詳しい事情を話したが、芹と上手くいったことを伝えると『マジかよ。あんなド天然とよく付き合おうと思うな』などと真顔で言っていたのは芹には内緒だ。


 村の人達には「色々あったけど、彩葉と親戚との縁は完全に切れたからもう安心だ」などとそこら中で吹聴して回ってくれた狐達のおかげで、私は無事に芹山神社に戻ることが出来た。


 それから3日後、私はとうとう18の誕生日を迎えた。


「彩葉、今日は早く戻れ。いいな」


 本殿を出る前、芹が私の制服の胸元のリボンを直しながら言うので、私は満面の笑みで頷いて問いかける。


「はい! お誕生日会開いてくれるんですよね?」

「ああ。気を付けて。走るなよ、転ぶから」

「こ、転びませんよ!」


 それだけ言って私は芹に手を振って参道を駆け下りた。季節はすっかり初夏だ。ここへやってきてもうそろそろ一年が経とうとしている。


 あの日から私達の関係が何か変わったかと言われると、特に何も変わってはいない。


 ただ毎日の力の供給が頬へのキスから唇に変わった事ぐらいだ(毎回凄く緊張する!)。


「何だかあっという間だったな」


 バスに乗り込んだ私はどんどん離れていく芹山を見つめながら微笑んだ。


 初めてここへやってきた時は不安で一杯だったのに、今はもうここが故郷だと言える程度にはすっかり馴染んでしまっている。


 私は鞄の中から2つの大学のパンフレットを取り出してため息を落とした。


 まだ芹達にははっきりと相談出来ていないが、私はやはり神道を目指そうと思っている。以前は伽椰子が在籍していたので三重の大学一択だったが、伽椰子があんな事になったので候補は2つに増えた。


 けれど私は村からの通いではなくて寮か一人暮らしをしようと思っている。


「——と、言うわけなんだ」


 昼休みにお菓子を食べながら椋浦に言うと、椋浦は意味深な笑みを浮かべる。


「難しいね。彩葉が居ない間はお兄さんが神社見てくれるの? あ、もう彼氏だっけ?」

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