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第129話『厄介な声』

「えっと……彩葉、やっぱりそれどうにかしよう。あと子どもは流石に山とか蛇の姿ではないし、卵でもないよ。安心して」

「こ、心の声がうるさすぎる……」

「心の声というのが厄介なのです! 耳から聞こえるのであれば耳栓でどうにか出来るものを!」

「彩葉は……何と言うか案外お喋りだったのだな」


 真正面から見つめられてそんな事を言われた私は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「き、聞かないでください!」

「それは無理だ。聞こえるのだから」

「まぁ多分それは力が戻ったらまた聞こえなくなると思うけどね」


 苦笑いを浮かべてそんな事を言うシンに私は思わず首を傾げた。


「力が戻る? え? 戻るんですか?」

「戻るよ。別に彩葉は自分の為に力を使った訳じゃないからね。何よりもあれは時宮が仕組んだ事に過ぎない。彩葉は半ば無理やり力を使わされたってだけだ」


 それを聞いてさらに私は首を傾げる。


『そもそも私は一体何を飲まされて何をさせられそうになっていたんだろう?』

「お前が飲まされたのは神堕ちした神の肉だ。伽椰子と同じように力を失った所にそれを飲ませて身体を操ろうとしたんだ」

「……に、肉!? 『嘘でしょ!? 何か生臭いと思ったら! せめて調理してよ!』」


 それを聞いた途端に気分が悪くなって口元を抑えると、そんな私の身体を芹が抱きかかえる。


「調理はされてはいなかったかもしれないが、獣と違って神堕ちには特に寄生虫などもいないはずだから安心しろ」

「そ、そうですか『いや、そこじゃないんだけど……まぁいっか』」


 相変わらずズレた回答をしてくれる芹に抱えられたまま、私はあの時に起こった事の説明を受けた。


「君が攫われた後、二人がうちに駆け込んできてね。バスごと目の前から消えたって大騒ぎしたんだよ。それを聞いてすぐに芹に連絡して僕達は君を探した」

「びっくりしたんだぞ! 目の前で跡形も無くバスが消えて、本物のバスがその後すぐに来たんだからな!」

「彩葉の気配も何もかも消えてしまってどうしようかと思っていたら、二条が連絡をくれたのです」

「二条先生が?」

「そうだ。あの位置アプリというのを皆で入れただろう? あれの彩葉の場所がおかしな事になっていると知らせてくれたんだ」


 それを聞いて納得した。あの時百合子は私がスマホを拾おうとした時、思い切り手を踏みつけてきた。それはきっとスマホが外界と繋がっている事を知っていたからなのだろう。


「びっくりしたよ! 君は一瞬で岐阜に攫われていたんだから。すぐさまあっちの土地神と連絡を取って君の場所を探してもらって、その間に上の者に時宮を始末して良いかの確認を取って、満を持して君を迎えに行ったって訳だ」

「そう……だったんですね『私、本当に皆を巻き込んだんだな……』」


 どれほどの心配と迷惑をかけたのか。それを思うと胸が傷んだ。


 思わず俯いた私を芹がギュッと抱きしめて私の頭に顎を置いたまま言う。


「それは違う。私が彩葉を巻き込んだんだ。だが、彩葉には悪いが私はそれを後悔してはいない。感情の分からない私に感情を教え、人間との関わり方を思い出させてくれた。私は……お前に導かれて今ここに居る」

「そうだよ、彩葉。君は僕達では出来なかった事をやってのけたんだ。もっと胸を張って良い」

「神様でも出来なかった事、ですか?」

「うん。神に慈しみと愛を教える事だよ。僕達は何も生まれた時から万能な訳じゃない。人と関わり合って初めてその2つを知り、神になるんだ。でも芹の場合は特殊でね、そういう過程を全て飛ばして神になってしまった。小鳥遊はそれを芹に教えようとしたけれど、最後に結局自分の心を偽ってしまった。何よりも良い巫女でいる事が彼女の誇りだったんだろう。だけど君は違う。素直に芹に好意を寄せて芹を愛した。そしてそれを隠しもしなかった。それは君が巫女という立場をさほど重要だと思っていなかったからだ。ただ芹の側に居たい。それだけだったからなんだよ」


 シンの言葉は胸の奥にストンと落ちて来た。まるで土に染み込む雨粒のように。


『そうだ……私は芹様だけの巫女でいたかったんだ……そもそも巫女の仕事も分かってなかったんだもん。ただ芹様の側に居たかった。ここに居たかった……それだけだ』


 そんな私の心の声が聞こえたのか、芹が見たこともないぐらい優しく微笑んだ。


「私は自分だけの巫女が欲しかった。前にも言ったが心の声や力など、どうでも良い。ただ私だけを慕い、私だけを愛してくれる者を探していた。それが、お前だった」

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