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第61話『田舎は耳が早い!』

「俺、ちょっと聞いてくるよ!」

「俺も!」

「僕も行く! 巫女さん、それ皆にも聞いていい!?」

「もちろん。お願い出来るかな? もし見つかったら私のスマホに連絡して」

「分かった! 行こうぜ!」

「皆、ありがとう! 気をつけてね!」

「うん!」


 子どもたちは元気に返事をして一瞬で走り去ってしまう。


『流石だな、巫女』

「え?」

「子どもに知らせれば後は勝手に大人が動きます。きっと夜にはあっという間に餅つき大会の詳細が決まった状態で巫女のスマホに届きますよ」

「ええ!?」


 田舎は耳が早いとはよく言うが、流石にそれは無いだろう! 


 そう思っていたのだが。


「巫女ちゃん! 聞いたぞ! 新年餅つき大会すんだって? それさ、ウチも何か新メニュー持って参加していいかな!?」


 商店街に入るなりにこやかに声をかけてきたのは健児だ。


「それは別に構いませんけど、何するんですか?」

「屋台みたいなの組み立ててさ、カップケーキみたいなの配ろうかなって」

「配る!? そんな勿体ない。赤ちゃん生まれるんだから無駄遣いは駄目ですよ! でも新年だからフォーチュンクッキーみたいのはどうです? 当たりが出たら何かおまけつけるとか」


 商売なのだから配るのは餅だけで良い。お金は大事だ。私はそれをこの歳で既に嫌と言うほど知っている。


「おいおい、巫女ちゃんは天才か!? それ良いじゃん! クーポンとか入れるか!『うぉぉ! 楽しみになってきた! 帰ったらすぐに沙織と相談だ』」

「良いですね! それはめちゃくちゃ嬉しいです!」

「詳細決まったらまた教えてな! あ、テントは役場の連中に出してもらうから!」

「良いんですか?」

「沙織の兄貴が役場勤めでさ、村興しみたいなのしたいってずっと言ってたんだよ。この話したら絶対喜ぶ!」

「助かります! お願いします!」


 頭を下げた私に健児は元気よく手を振って駆けて行った。


「巫女、どうすんだ。何かどんどん大事になってくぞ」

「そうですよ! 役場が絡んで来たら一大事業ですよ?」

『久しぶりに賑やかな正月になりそうだ。巫女、私の分のカップケーキとやらを買っておいてくれ』


 困り果てている狐たちとは違い、芹はとても嬉しそうだ。その声を聞いて狐たちも観念したように肩を落としている。


 さらに商店街を歩いていると、今度は咲子の母親が声をかけてきた。


「彩葉さん! 聞いたわよ! 年明け餅つき大会をするんですって?」

「あ、もう咲ママの所にまで話行ってるんですね!」


 あれから私はこの咲子の母親とも大分仲良くなった。私が咲ママと呼ぶと、大変喜んでくれる。


「きたわよ~! 咲の野菜も何か使えないかしら!?『あの子の野菜をもっと皆に知ってもらいたいもの!』」

「そう言えば私、この間修学旅行に咲ちゃんの野菜で作ったピクルス持ってったんですけど」

「修学旅行に!? どうして!?」

「いや~節約中だったもので、おやつ代わりに」


 恥ずかしさのあまり頭をかくと、咲ママはおかしそうに笑う。


「そんな事する子初めて聞いたわ『面白いわね、この子』」

「そしたら皆にメチャクチャ好評だったんですよ。だからピクルスの瓶詰めとかどうですか? 咲ちゃん調理師免許取ったんですよね?」

「そうなの! 農業の大学に行くのにあった方が良いだろうって。そうね……野菜を沢山持って行くのは無理だけど、ピクルスならそこそこ量も作れるし……皆と相談するわ!『咲も夢もあの人も喜ぶわね! ああ、楽しみだわ! どんな顔するのかしら』」


 そう言って嬉しそうに咲ママは足取り軽やかに商店街を抜けて行った。


『これで二軒目の出店が決まったな』

「おいおい、どうすんだよ?」

「これ、収拾つくのですか? メインの餅つきよりも盛り上がるんじゃ?」

「う~ん……かもしれません」


 苦笑いをしながらも買い物をしつつ歩いていると、今度は拓海と咲子に出会った。


「よ! さっきママから連絡来たよ! 当日はピクルス一杯作って持ってくね!」

「うん、ありがとう!」

「俺も手伝うよ。とは言ってもチラシ作るぐらいしか出来ないんだけど」

「全然です! むしろこちらからお願いしに行こうと思ってたぐらいで。拓海さんの都合の良い時に描いてくれたら嬉しいです!」

「分かった。それじゃあ出来上がったらデータ送るわ。あと母ちゃんが帰りに寄ってくれってさ」

「何だろ? ありがとうございます!」

「彩葉、あんま無理しないようにね。彩葉はいっつも頑張りすぎるんだから、気を付けてよ? 『この子はいっつも皆の為に走り回ってるもんなぁ。自分の進路とかも考えなきゃいけないのに』」

「そうだぞ。あんたが倒れたら元も子もないんだからな『ちょっと心配になるぐらい頑張り屋なんだよな。それに八百屋のおっちゃん達の話も気になるし』」

「うん、ありがとう! 気をつけるよ!」


 どうやら既に私と伽椰子がやりあった事は少なくとも拓海の耳には入っているようだ。という事は、米子が私を呼び出したのはそれ関係かもしれない。


『巫女は気がつけばいつの間にか皆に慕われてるな』

「本当ですね。やはりウチ達が厳しく育てたおかげですね!」


 何故か自慢げな二人の手には皆がくれたお菓子で一杯だ。あざと可愛い二人には誰も敵わないのか、この二人は年中ハロウィンのようになっている。

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