「芹様! やっぱり年始のお餅つき大会をしましょう! 私、拓海さんにお願いしてチラシ作って貰います!」
「それは構わないが、果たしてそう上手くいくか?」
「いきます! いえ、いかせます! そうと決まれば杵と臼どうにかしなくちゃ! カビが生えてるってビャッコ先輩言ってたし……」
「それならどこかから借りてくれば良い。田舎なんだ。どこかに一つぐらいあるだろう」
「そっか! それじゃあお夕飯の買い物の時に皆に聞いて回ってみます! 芹様、ありがとうございます!」
ヘコみそうになっていた心が一気に回復していくのを感じて私は思わず芹の手を取り笑顔を向けると、芹は少しだけ目を細めた。
「巫女は笑っている方が良い。出来る限り笑っていろ」
「はい!」
「良し! そうと決まればビャッコ! 僕達も着替えるぞ!」
「ええ! 巫女! 買い物に行きますよ!」
私よりもはしゃいだ様子の狐達に私は笑顔で頷いて芹と別れると、買い物の準備をする為に冷蔵庫のチェックをしていた。するとそこへ今までどこに居たのか伽椰子がやってくる。
「あら、どこか行くの?」
「あ、はい。夕飯の買い物です」
「そうなの。それじゃあ今から言う物も買ってきてちょうだい。お米と味噌、それから醤油と一升瓶のお酒もお願いね。どれも一番高級な物よ」
「お、重い物ばっかりですね。あと米とか味噌とか醤油はここにあるのじゃ駄目なんですか?」
持てるだろうか……そう思いつつ思った事を言うと、伽椰子はそんな私にシレっとした顔をして言う。
「当然でしょう? 芹様にお供えする物にどこのブランドかも分からない物は供えられないわ。お野菜も形が歪な物ばかり……こんな物をお供え出来る訳が無いでしょう?」
「はあ」
米は咲子の叔父の所の物だし、味噌だって醤油だってこの土地で作られた物だ。別に芹に言われた訳でもないが、私は出来るだけそういう物を芹に食べて欲しいと思っているのだが、どうやら伽椰子はそうは思わないようだ。
「早くしてね。その間に私は芹様への神饌の用意をしないと。冷蔵庫の物使うわよ」
「あ、はい。どうぞ」
気に入らないと言いつつ使うのか。
そう思いつつ私はいつもよりもずっと大きな買い物バッグを持って外に出た。
「巫女! どれだけ買い物する気だ!?」
「大散財でもするのですか!?」
大きなエコバッグを見て狐たちは目を丸くするが、私が伽椰子に頼まれた物を告げると二人は途端に眉を釣り上げる。
「そんなもん自分で買いに行けよ! で、金はちゃんと貰ったのか!?」
「はっ! 忘れてました! ……芹様のくれた生活費から出します……」
「そんな事して大丈夫なんですか? 今月はまだ半月程残っているというのに」
「た、足りなかったら自腹切るしか……」
思わず呟いた私の頭の中に突然ここには居ない筈の芹の声が聞こえてくる。
『その必要は無い。テンコ、後でいくらか渡してやれ』
「芹様!?」
突然の芹の声に私達三人の声が重なるが、当の芹は抑揚の無い声で言う。
『静かに。この姿の事は伽椰子には黙っておけ』
ふと足元を見るとそこにいつもの白い花が落ちている。私はそれを拾い上げて耳元に挿した。
「ついてこられるんですか?」
『ああ。先程伽椰子に言われた物はお前だけでは持てまい』
「それはそうですけど……ありがとうございます」
何だかよく分からないけれど、芹は買い物についてきてくれるらしい。
私は手すりを掴みながら参道を滑らないように気をつけながら真っ白な雪の道を歩いていたのだが――。
「いや~しかし派手に転んだな! 巫女」
「全くです! あんなへっぴり腰で歩くから余計に滑るのですよ!」
「だ、だってこんな雪道ここに来るまで歩いた事無かったんですよ! 危うく芹様を潰しちゃうとこでした」
『私は生まれて初めて転ぶという体験をしたな』
珍しくくつくつと笑う芹に私が思わず頬を膨らませていると、畑の真ん中から誰かがこちらに向かって手を振っている。
「巫女さ~~~ん!」
「ん? あ! 健太君! 何してるの~?」
何やら楽しそうな笑い声が聞こえてくるので近寄ると、健太は友達と一緒に大きな雪だるまを作って遊んでいた。
「すごいおっきいね! 皆で作ったの?」
私の問いかけにその場に居た全員が嬉しそうに口々に答えてくれる。皆の心の声は「楽しい!」一色だ。
そんな心の声にほっこりしながら、ふと餅つきの事を思い出した私は、何気なく子どもたちに問いかけた。
「そうだ! あのね、どこかのお家に餅つきする時の杵と臼って無いかな?」
「杵と臼? 僕は越してきたばっかだから分かんないけど、よっちゃん家は?」
「うちも無い。でも婆ちゃん家にあった気がする。なんで?」
「来年のね、お正月に芹山神社で餅つき大会しようかなって思ってて、その為の杵と臼を探してるの」
それを聞いて子どもたちの目が大きく見開かれて、次の瞬間にはその場で足踏みしだした。