そんな皆に私は笑って言う。
「元々そういう家なんだよ。だから大丈夫。皆ありがとう。それよりも細田さん! その神社の話の続き教えて!」
「んー、話って言っても私も婆ちゃんにちっちゃい頃に聞いたぐらいだから、あんまアテにはなんないけど良い?」
「もちろん!」
「えっとね、うちの田舎の神社はそんな古くないんよ。でもそこにその神社が建った由来が面白くてさ」
そこまで言って細田は聞き耳を立てていた岩崎を押しのけてそこに座ると、突然声のトーンを落として話し始めた。さながらこれから怪談でも始まりそうな勢いに、皆がゴクリと息を呑む。
「元々ね、その山は時宮って言う家が所有してた山だったんだって。そこで時宮家の人間はシャーマンとして神様達と繋がっていたらしいの。その山はパワースポットとされていて力が通りやすかったみたい。ある日、時宮家の宮司がとある村の土地神に頼まれてその村に行ったらしい。そこで暴れる大蛇を抑えて欲しいって言われたらしいんだ。ところが――」
「ところが?」
「失敗したんだって。時宮から一緒について行ったとても優秀な巫女がその大蛇の魂をずっと慰めてたらしいんだけど、ある日大蛇が大暴れして村は半壊してしまった。その時に時宮から出向いた宮司と巫女は瀕死の重症を負ってしまって、命からがら岐阜に戻ったらしいの。で、力を蓄える為にそこに神社を建てたんだって。今度こそ大蛇の魂を封印して連れ帰る為に」
「……」
どういう事だ? 芹は時宮は元々村の地主の宮司と巫女だと言っていなかったか?
しかも細田の話ではまるで土地神が時宮に頼み込んだみたいになっているではないか。
「えー神様居ないのに祀ってんの?」
「そういう事。面白くない?」
「面白いけどさー、それ彩葉のとこの神社と関係あんのかな?」
「分かんないけど小鳥遊んとこも大蛇祀ってんでしょ? だったらそのうちその時宮の巫女が大蛇神封印しに来たりして!」
「えっ!?」
何気ない細田の言葉に私は思わず息を呑んだ。そんな私を見て細田はすぐに「冗談だよ!」と言って肩を叩いてくれる。
「でも真面目な話、そうしてもらった方が彩葉には良くない?」
「だよね。だってそんな無理矢理押し付けられた神社の面倒とかさ、いつまでも見られる訳じゃないじゃん」
「来年はうちら受験だしね。彩葉、悪いこと言わないからさっさと神社の世話辞める算段つけときなよ? 人生棒に振ってからじゃ遅いんだからね!」
「う、うん、ありがとう、皆。細田さんも話聞かせてくれてありがと」
「いいよいいよ! また何か分かったら教えるね。あ、連絡先交換しとこ」
「うん」
細田と私が連絡先を交換しているのを見て、普段は話すことも無かったクラスメイト達が次々に連絡先交換を申し出てくる。
もしかしたら私は皆の事を誤解していたのかもしれない。少しだけそう思った。
昼休み、私は二条に借りた本を握りしめて保健室に向かった。皆にも来るかと誘ったが、何故か皆には断られてしまった。
椋浦の話では、二条の前ではやたらと緊張してしまうらしい。
「失礼します」
「おう。ん? お前、飯は?」
「戻ったら食べます」
「そうか? じゃあこれやるよ」
そう言って手渡されたのはコンビニのおにぎりだ。
「あ、ありがとうございます。あと先生、さっき面白い話が聞けたんですよ!」
私はそう言っておにぎりを頬張る二条に細田から聞いた話をすると、二条は興味深げにその話を聞いていた。
「面白いな。大蛇を封印する為に建てられた神社、か」
「はい。でもそんな事あるんですか?」
「あんまり聞かねぇな。大体の神社は何かしらあってから神を祀るだろ」
「ですよね……それに実は芹山神社を建てたのも時宮なんですよ。時宮さんって、元々私の地元の地主で、宮司と巫女だったらしいんです。まぁもう居ないんですけど」
「へえ? それは初めて聞いたな。お前、地元どこだよ?」
「あ、それが――」
一度誰かに話してしまえばどうという事はない。というか、私の中では既に終わった話だ。
「マジかよ。それで調べてたのか『何だよ、めちゃくちゃ面白そうだな。しかしこいつ、こんな忙しい時期に不幸すぎんだろ』」
「そうなんです。自分が管理してる所だから余計に気になっちゃって」
「なるほど。そりゃそうだ。でも今の話をまとめると、あの社務所だけが焼け落ちた事件に違う可能性が出てくると思わないか?」
「可能性?」
「ああ。実はその時宮とやらはその土地で何かをして村から追い出された、とかな。だから離れた所に新しい神社を建てた。で、そこにその大蛇を住まわせたい訳だ。何せ最強の願い事神社だったんだからな」
「じゃ、じゃあやっぱり細田さんが言ったみたいに芹様を封印しに……?」
「なぁ、その芹様ってのは何だ?」
「あ、芹山神社の神様のお名前です。皆さんそう呼んでるので」
本当は本人に名乗られた訳だが、流石にそれは言えない。
「へぇ。まぁ封印しに来るってのは極端かもだが、元々が大蛇祀る為に神社建てたんだろ? だったらありえなくは無い。で、お前は何にそんなに怯えてんだよ?」
「いやー……それが……」
時宮から手紙が来たこと、そしてその巫女がもしかしたら芹山神社に来るかもしれない事を告げると、二条は目を細めて微笑む。