私は常子のスマホに入っていた無料通話アプリを押して、大輔に電話をした。すると、すぐにテレビに大輔の嬉しそうな顔が画面一杯に映し出される。
「大ちゃん!『ああ、こんな大きい画面で大ちゃん見られるなんて……』」
「大輔!『くそ、泣きそうだな』」
「じいちゃん、ばあちゃん! サッカーボールありがとう! 毎日友達と遊んでるよ!」
「そうか!『買ってやって良かったな。しかし笑った顔はあいつそっくりだ』」
「大ちゃん、来週ね、大ちゃんの大好きなおはぎが届くから皆で食べてね」
「本当!? ありがとう! 待ってるよ!」
「ええ『大ちゃん……あの子の小さい頃にそっくり……頑張ってるのね。ちゃんとやってるのね』」
嬉しそうな心の声に思わずジンとしていると、今度は画面に大輔そっくりの女の人が映し出された。
「お父さん、お母さん! 急に大輔と電話したいとか言い出すからビックリしたわよ! ところで、何か用事だったの?」
「あら岬! それがね、実は――」
常子はそう言って芹山神社と私の事を岬に話し出した。それを聞いて岬はギョッとしたような顔をしている。
「ちょっと! そんな人様に迷惑かけて!」
何だか岬さんのお説教が始まりそうだったので慌てて私はカメラに映り込んで挨拶すると、岬さんはさらに驚いたような顔をして頭を下げてくる。
そんな岬に経緯と事情を話すと、気がつけば私達は大輔と常子、貞治を押しのけてすっかり仲良くなってしまっていた。
主達を無視して長電話してしまった私を見て、常子も貞治も笑顔で言う。
「いいのよ! あの子も喜んでたし年末の楽しみも出来たし!『ありがとう、彩葉ちゃん。あなたが来てくれて本当に良かった』」
「そうだぞ。岬はああ見えて人の好き嫌いが激しいんだ。それをあんなすぐに仲良くなっちまうなんて、やっぱり巫女さんは只者じゃねぇな!『ありがとな、彩葉さん。あんたは本当に縁を繋いでくれるんだな。米の言ってた通りだ。この村に芹神様が遣わしてくれたんだな、きっと』」
『力が……巫女、私からも礼を言う。ありがとう』
芹が耳元で囁く。それを聞いて私は満面の笑みで頷いてその後、晩ごはんまでご馳走になってしまった。
帰り道、人の姿に戻った芹がやっぱり手を繋ぎながらポツリと言う。
「……昼食も夕食も食べ損ねてしまった……」
その声にハッとしたのは私だけではない。狐たちも青ざめて芹を見上げるが、芹は相変わらず無表情だ。
「えっと、帰ったら何か作りますね。そうだ! 焼きそばとかどうですか?」
「良いんじゃないか! すぐ出来るし美味いし!」
「そうです! 焼きそばなら野菜もお肉も入ってます! ご馳走です!」
狐たちの意見に芹の手にピクリと力が入った。
「……私は食べた事の無い料理だな。お前たちは食べたのか」
「え、は、はい。前に」
「まだ私が食事をしていない時か」
「そ、そうです。も、申し訳ありません……」
芹の理不尽な圧に縮こまる二人に苦笑いしながら私達は家路を急いだ。
神社に戻っていつものように郵便受けを開けると、そこには一通の封筒が入っている。裏返して差出人の名前を見て、私の心臓がドクンと脈打った。
「巫女? どうかしたか?」
「あ、いえ。その、これ」
宛名は芹だ。芹は人ではない。それなのに芹に手紙を出してくる人なんて、芹の存在を知っている人しか居ない。
差出人は時宮伽椰子という女性からだった。
「私に手紙? しかもまた時宮か」
言いながら芹は封筒の封を切り、手紙を取り出して読み始めた。