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第43話『願い事は手助け程度』

 そこへ常子と狐たちがお盆を持ってやってくる。


「本当に!?『そんな事が出来るなんて初めて聞いたわ!』」

「はい。今はどんどん便利になってますから。ご飯食べたらちょっと調べてテレビとスマホ繋ぐケーブル見に行ってきますね!」

「ありがとう!『そんな事までしてくれるなんて! やっぱり若い子が居ると違うわねぇ』」

「いや、流石にそこまでは頼めねぇよ!『ただでさえ迷惑かけてんのに』」

「全然ですよ。お昼ごはんのお礼です。美味しそう! いただきます」


 常子の優しい味のうどんをすすりながら言うと、貞治が苦笑いを浮かべた。


「いや、元々電球の付け替えにあんたを呼んだのはこっちだからな『この子はやっぱり巫女なんだなぁ』」

「そう言えばそうでした! でもケーブル見に行くぐらい、晩ごはんの買い物する時にすぐですから」

「そうか? それじゃあ頼むか」

「はい!」


 それからすっかりお昼をご馳走になってどんなケーブルが必要なのかを調べ、狐たちを置いて常子達の家を出た私はケーブルを探しに電気屋に向かった。


『巫女、あの二人の本当の願いに気がついているか?』

「え?」


 あの二人の本当の願い? 思わず首を傾げた私に芹は、ふむ、と呟く。


『あの二人の本当の願いは娘夫婦との同居だ』

「そうなんですか!?」

『ああ。どうする?』


 芹からの問いかけに私は少しだけ考えて首を振る。


「どうもしません。それを今提案したら、きっとあの一家は壊れちゃうと思うから」

『何故?』

「常子さんも貞治さんも娘さんの選んだ道を曲げたいだなんてきっと思ってませんから」

『娘の選んだ道を曲げる?』

「はい。あの二人の願いが同居でも、娘さん一家はどう思ってるか分からない。常子さんの心の声は娘さん達が頑張ってる事も知ってるって言ってました。きっと米さんと一緒で娘さんの生活を応援してるんだと思います。だからその願いを押し通す事をあの二人はきっと良しとしないんじゃないかなって。だから私は少しだけ手を貸すだけです。大きな画面でお孫さんや娘さん達にいつでも会えるように」


 誰かの願いを叶えるというのは簡単な事じゃない。出来る事と出来ない事がある。それは色んな願いを叶えてきて分かったことだ。


 きっと芹になら簡単なのだろうが、私には逆立ちをしても無理だ。


 私の言葉に芹は少しだけ言葉を詰まらせた。


『……そうか。巫女の言う通りかもしれないな。その者の願いだけを叶えても、周りが、誰かが不幸になるのでは意味がないという事か』

「はい。それに同居問題は私が何をどうしたって解決出来ませんから。そこは自分たちで頑張ってもらわないと!」

『そうだな。人の心を変えるのはそれこそ神にも出来ない。魔を差す事は出来ても』


 何か言いたげに呟いた芹に私は深く頷いた。


「多分、願い事って手助け程度で良いんだと思います。全部やってあげるのは違うかなって。まぁ、全部助けて欲しい時もありますけど」


 例えば突然前触れ無く両親が居なくなるとか、聞いた事もない土地の固定資産税だけ残していくとかは止めて欲しかった。今はもう笑い話だが、あの時は本気で神様を恨んだのは芹には内緒だ。


『願い事は手助け程度……か』


 芹はポツリと言ってそのまま沈黙してしまった。


 無事にケーブルを見つけ、晩ごはんの買い物をして常子達の元へ戻るとテンコは庭の草引きを、ビャッコはお風呂掃除をしている。


「お二人共お手伝いですか?」

「おう! これやったら饅頭くれるって言うからさ!」

「ウチはもう終わりました。じゃんけんは偉大ですね」


 そう言ってポシェットの中から紅白の饅頭を取り出したビャッコを見て、テンコが恨みがましそうに睨んでいる。どうやらテンコはじゃんけんに負けたようだ。


 そんな二人を横目に常子の家に再度お邪魔すると、煮物の良い匂いがしている。


「お帰りなさい! どうだった?『けーぶるというのは見つかったのかしら』」

「ただいまです! ありましたよ、ケーブル。早速繋いでみましょう!」

「おお、あったのか!『あんなちっさい店なのによく置いてたな』」


 二人の喜びの声を聞いて私はスマホで調べつつテレビとスマホを繋いだ。そして何か適当な動画をテレビに移すと、それだけで二人は大喜びだ。


「これはいいな! おいお前、あの何とかさんの動画、これで見れば良いじゃないか!『いつも眉間に皺寄せてスマホ睨んでんだ。あんな事してたら目が悪くなっちまう』」

「本当ね! お父さんもここに映しながら家具作れば良いんじゃない?『そうしたら何回もかがんで腰痛める事もないかもしれないわ!』」


 何やらテレビ電話とは違う所で喜んでいるが、二人がこんなに喜んでくれるのならケーブルもさぞ喜んでいる事だろう。


「さて、ではいよいよテレビ電話です。常子さん、娘さんには話しましたか?」

「ええ! 大輔はもう待ってくれているって」

「そうですか。では、いざ!」

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