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第37話『不思議』

 聞き耳を立てていると何だか不穏な雰囲気だ。やがてそのまま車は走り去り、私は急いで狐たちの元へ向かう。


「お二人とも!」

「巫女!」


 二人は私を見つけるなり狐の姿に戻り飛びついてきた。


「連絡しろよ! バス停まで迎えに行くって言ってただろ!」

「そうです! あまりにも遅いので芹様が迎えに出ようとしたのですよ!」

「芹様が? それはすみません……それで、さっきの人は?」


 私の言葉に二人は突然黙り込んだかと思うと、暗い顔をして言う。


「説明する。とりあえず本殿に入れよ。寒いだろ」

「ありがとうございます」


 何だか訳ありな感じのテンコの言葉に頷くと、ビャッコが肩に飛び乗ってきてギュっと私の首に巻き付いてくる。何か不安なのだろうか。こんな事は初めてだ。


 本殿に入るとビャッコは私の肩から飛び降りてそのままお風呂の方に向かって走り去っていく。


 そんなビャッコの後ろ姿を見つめながらダイニングに向かうと、そこには芹がお茶を飲みながら優雅にテンコが大好きなあの有名なチョコレートのお菓子を食べていた。


「ただいま戻りました」

「巫女か。随分遅かったな。外はもう真っ暗だろう?」

「はい! やっぱり冬は日が落ちるのが早いですね」

「こんなに遅くなるのなら、学校までどちらかを迎えに行かせるか?」

「え!? いえ、とんでもないです! あっちに居た時はもっと真っ暗な中帰ってたんで!」


 遅いと言ってもまだ18時前だ。バイトをしていた時なんて家に帰るのは20時とかがザラだったのでまだ随分早い方なのだが、私の言葉を聞いて芹は眉を少しだけ上げた。


「娘がこんな夜道を1人歩くのは感心しないな」

「えっと、ごめんなさい。明日から気をつけます」


 とりあえず謝ってはみたものの、授業の都合でこれ以上早く帰ってくる事は出来ないのだが。それよりも気になるのは先程の車だ。


「ところで芹様、さっき参道で白い車を見かけたんですけどお客様ですか?」

「ああ。いや、客という程でもない。この間話していた時宮の子孫だと名乗る者が挨拶に来たんだ」

「ええ!?」


 思いも寄らない答えに私が愕然としていると、芹はなんて事のないような顔をしてお茶をすすっている。


「だが私は直接会っていない。あの二人が相手をしていたんだが、途中で怒り始めてな。私が何か言う前に追い返してしまったんだ」

「そう、だったんですね……」


 狐たちとは違って全く動じない芹に感心しながらも、何だか胸の奥が騒ぐ。


 そこへ狐たちがやってきた。


「風呂沸いたから先入って来いよ」

「良いんですか?」

「夕食はウチが温めておきます。しっかり暖まってきなさい」

「それじゃあ……遠慮なく」


 今日の二人は異常なほど優しいが一体何なのだ。そう思いながらも着替えを取りに部屋に戻り、ふと冷蔵庫に残っていた作り置きの惣菜を思い出した私はダイニングに戻ったのだが――。


「――そうか、間違いなく時宮の血筋か」

「はい。しかもあっちは別の土地で今も神職に携わっているそうです」

「巫女の素質は十分にあるという事か?」

「そう……ですね。一応連絡先は貰いましたが、どうしますか? 芹様」

「別にどうもしない。用事があればまた来るだろう」

「それはそうかもしれませんが……」

「あんな事をされたのに芹様は時宮を許してしまわれたのですか!?」

「許す許さないの問題ではないだろう? 子孫には何の罪もないのだから」


 一体どういう事だ? 時宮家は芹に何かしたという事なのだろうか? 


 しばらく立ち聞きをしていた私だったが、聞けば聞くほど混乱するばかりだ。私は少し迷ったけれどその場をそっと離れてお風呂に向かった。


 お風呂から出ると机の上にはきちんと料理が並べられていて、皆が私を待ってくれている。


「遅くなってしまってすみません!」


 まさか待っていてくれているとは思わなくて思わず頭を下げると、芹が片手でそんな私を制した。


「構わない。むしろビャッコが温めるとどれも熱すぎる」

「そ、そんな事はありません! 丁度良い塩梅です!」

「そうか? 僕も熱いと思うぞ。お前、舌麻痺してんじゃねぇの?」

「な、なんてことを言うのですか! ウチの舌を馬鹿にするなんて!」

「お二人とも、喧嘩しないでください。駅前に焼き芋屋さんが来ていたので、ご飯が終わったら食べましょう」


 私の言葉に狐たちは目を輝かせて頷くと、すぐさま手を合わせて夕食を食べだした。そんな二人を横目に私も手を合わせて食事を始めると、芹が何故かこちらをじっと見つめてくる。


「なんですか?」

「いや、不思議だと思っただけだ」

「不思議?」

「ああ。私は今まで誰かとこんな風に食事をした事が無かったが、今はもう待ってでも揃って食事をしたいと思うようになった事が不思議だったんだ」

「それは僕もだな。食事なんて食べたい時に食べるもんだって思ってたぞ」

「ウチもです。だから巫女がここにこんな物を持ち込んだ時はどうしてやろうかと思っていました」


 そう言ってビャッコがテーブルと椅子を指差した。

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