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君が変して ~Mother & Daughter~
熊雑草
現実世界現代ドラマ
2024年11月15日
公開日
86,614文字
完結
 今時のどこか冷めた人生を生きるだけのサラリーマンの青年。その前に顔も知らない親戚のおばさんが金髪の少女を連れて現われる。
 そのおばさんは、少女を引き取ってくれないかという理由で青年の前に現われたのだが、誰とも関わりたくない青年は拒否する。しかし、連れの少女が話し掛ける言葉に、青年は何らかの誘惑に負けたのか、少女を養子にすることにしてしまった。
    *
 ここから青年と少女の生活が始まるのだが……この少女は出会った時から、少し変な兆しがあった。少女らしからぬ言葉に態度――実は死んだ少女の母親がとり憑いており、見た目は子供、中身は主婦なのである。しかも、厚かましいことに、その状態で母親の霊は娘を育てると言い始める。
 普通なら拒否するところだが、この青年も少し変なところがあり、彼はその状況を面白いと捉え、あえて受け入れてしまうのである。
 娘の体の所有権を奪ってしまった母親が娘に所有権を返すために奮闘し、それを仕方なく青年が手伝だったり、体の所有権が半分戻ったあと、母親の趣味の影響で娘がおばちゃん化していたことが発覚したり……。
 しかし、何だかんだで、最後はちゃんと母親と娘は分離します。

※こちらの作品はカクヨム様にも投稿しています。

第1話

 いつからか、この世界が酷くつまらないものに感じ始めていた……。

 小学生、中学生と、ただ流れる日々が楽しいと感じていた時は過ぎ、高校受験などというものをやらされ、嫌でも社会の中にいることを認識させられたあたりから、人生の価値観は凝り固まり出した。

 腐敗していく政治と偏向報道しか映さなくなってしまったニュース。K‐POPばかりの音楽番組。学生の頃は楽しいと思っていたバラエティでさえ、芸人同士の先輩後輩の上下関係が見え隠れして気持ち悪い。テレビは、いつからこんなに詰まらないものばかりしか映さなくなったのか……。


 ――だったら、自分の望むものを見つければいい。


 そう思った時期もあったが、個人で出来ることには限界がある。思ったからといって世の中の法則が変わることもなければ、いきなり行動を起こしたからといって何かが劇的に変わることもない。それは子供から大人になる過程で理解させられている。

 故に、この身に宿るのは、どうしようもない諦めという倦怠感だった。ただ流され、ただ生きているだけ。娯楽や周囲への興味が薄れていくにつれ、自分の存在意義が薄れていくのだ。


 ――だが、転機は突然に訪れる。


 二十代前半で家族と呼べるものを全て失っていた自分の家のインターホンを誰かが押して、チャイムが響く。

 仕方なく開けたドアの隙間からは化粧の厚い中年女性の顔が見えた。

「初めまして。私、あなたのお父さんの親戚で高橋と申します」

「はあ……」

 交友関係すら最低限にし、訪れるはずのない家に来た来訪者は見ず知らずの遠い親戚らしい。

「探し当てるのに、苦労させられました」

「そうですか」

 頼んだ覚えのない苦労を勝手にして、『させられた』などと傲慢なことを言えるこのおばさんは、俺に朗報を運んで来てくれたわけではないだろう。人間嫌いの勘は警鐘を鳴らし始めていた。

「少しお話があるのですが、よろしいですか?」

 上品な口調で話し掛けているが、俺の中でこのおばさんは早々にブラックリストに登録されている。悪いが、もう話もしたくない。

「よろしくないので、お引き取りください」

 言うが早いか、俺はドアを閉めようとドアノブを引いた。

 しかし、ドアの隙間には、おばさんの桜島大根のような野太い足が捻じ込まれ、俺の関わり合いになりたくないという行動を拒否するのだった。

「話ぐらい聞きなさいよ!」

 口調が一変し、おばさんの本性が表われた。ここで呆然としてくれれば、『ああ普通の人だった』で終わったに違いないのに……。

「いい加減に閉める力を緩めなさいよ! こんな都会の中の片田舎まで来るのに、どれだけ交通費が掛かったと思っているのよ!」

 お前の都合など知るか。俺の都合も考えずに、勝手に押し掛けて来たのは……ババア! お前だ!

 『もう、痛さで足を引っこ抜いてくれないかなぁ』と、強引にドアノブに力を込めて力一杯に引っ張るが、おばさんの足は依然とドアの隙間から動く気配がない。

 ところで、この逞し過ぎる野太い足……一体、どんな全体像なのか?

 興味をそそられた俺がドアの隙間からおばさんを確認すると、顔のでかいドラえもんみたいな三頭身の体型のおばさんだった。いや、ドラえもんは二頭身か?

 ……と、そんな馬鹿な考えに逸れている間に、おばさんがけたたましく捲くし立てる。

「あんたを探し当てるのに親戚中で金出して、探偵まで雇ったのよ! 話ぐらい聞きなさい!」

 お前らこそ、何をしている。顔さえ覚えていない親戚が探偵雇ってまで、俺に何の用だ。それと、さっきから金の話ばっかりだな。このおばさん。

「くだらないところだけ、父親に似て……!」

 父親? アイツは、俺よりはまともだろう。ここまでの人間嫌いは、そうは居ない。

 俺は、おばさんを追い払うべく話し掛ける。

「あなた、本当は俺の親戚じゃないでしょう。セールスですか? 間に合ってます」

「違うわよ!」

「じゃあ、宗教ですか?」

「違うわよ!」

「じゃあ、何しに来たんですか?」

「届けに来たのよ!」

「届ける?」

 一応、疑問系で返すが、絶対にドアを引く力は緩めない。このおばさん、この場から引く気配を一向に見せないし。

「一体、何を届けに?」

「親戚の会議で決まったものよ!」

 何で、その会議に俺が含まれない。俺も親戚の一人だろうが。そもそも、何で、届け物に会議なんて必要なんだ?

「あ~~~っ! まどろっこしいわねっ!」

 おばさんがドアノブに体重を掛けると『メキョッ!』と、長年生きていても中々聞くことの出来ない音を鳴らしてドアを強引にこじ開けた。

「警察呼ぶか……」

「呼ぶんじゃないわよ! 話があるって言ってんでしょうが!」

「俺は聞きたくないって言ってんでしょうが」

「いいから聞きなさいよ!」

 俺は溜息を吐いて左手の長袖のシャツを捲り、腕時計を確認する。

「三十秒で簡潔に」

「出来るか!」

 おばさんは烈火のごとく怒り、俺も追い返すのを半ば諦めた。多分、このおばさん、話をするまで帰らずに居続けるに違いない。ご近所迷惑もあるし、このまま怒鳴り続けられたら、温厚なご近所様でも乗り込んでくるかもしれない。仕方なく俺は、おばさんを家の中に上げることにした。

 ちなみに、おばさんに体重を掛けられたドアノブは、今日から半回転する業務を休業することになった。

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