光に包まれて生まれた赤ん坊のことはすぐに村中の話題になった
「きっと女神様の祝福を受けて生まれたのだろう」
と、村長は考えた
この村、空星の村は周辺に街などがなく、一番近い街でも馬車で二週間はかかるという辺境の地
一応申し訳程度に国に属しているが、統治者もいない平和で自給自足を絵にかいたような村だった
人口は意外と多く、千人と少し
彼らは別に外の世界を知らないわけではなく、この世界での成人である15歳になると、村を出て旅をする権利が与えられる
この世界を自由に見て回れるのだ
その結果、婚約者を連れて帰って来る者や、他の文化や食を持ち込み、結果この村は豊で繫栄していっているのである
現にシャイナの父親は、母親であるイールが旅の果てに捕まえて来た伴侶である
「シャイナは本当に可愛いなぁ」
「ええ、あなたに似て活発ですごく元気」
「イールに似て絶対に美人に育つぞぉ」
まだ生まれたてだというのにこの親ばかっぷりである
それから10年
すくすく育ったシャイナは10歳の誕生日を迎えていた
「おめでとうシャイナ!」
「うう、あの小さかった娘が、こんなに大きくなって」
「パパ、大げさだよぉ」
彼女の誕生日には幼馴染達も駆け付けていた
一つ年上でシャイナと一番仲のいいアリス、四個上でみんなのお兄さんのジェクト、シャイナと同い年で引っ込み思案のリナ
子供は今この村ではこの4人だけで、全員が友人同士だ
「ほらこれ、シャイナに!」
4人で考えたであろう誕生日プレゼントを渡す
それは色とりどりの花で作られた大きな大きなブーケだった
「あ、ありがとうみんな!」
前世でここまで幸せだったことはない
両親は若くして亡くなり、ほとんどを孤独にすごした前世
それが今では比べ物にならないほどの幸せを感じている
(もう疲れていた人生が、ここまで素晴らしいものになるなんて、あの時は女神様を恨んだけど、こうしてみると転生してよかった)
未だ女神のお前がママにという言葉の意味は、うっすらとしか理解できていない
(恐らく女神様は、僕がいずれ勇者を産む母体となることを望んでおられるのだろう。でもそれは無理な話だ。何せ中身は童貞のおっさんなんだから・・・)
この10年、彼女は女神によって常に守られていた
そのためもはや女神に対する恨みはない
魔物には襲われず、身体能力も強化されているし、何よりこの村には収まらないほどの美貌を持っている
性別問わず愛されている彼女は、村の人気者でもあった
誕生日も終わった翌日のこと、数か月後に成人の儀を控えるジェクトがシェイナ達に打ち明けた
「俺、成人したら村を出て冒険者になる! この村は平和だけど、いつ魔族に襲われるとも限らないからな。俺が立派な冒険者になってこの村を守る!」
「ジェクト兄ぃすごい!」
みんなの頼れる兄貴分ジェクト
妹分たちをいつも守り導いてきた
だからこそ彼女たちも
「私達も決めてるの。一番下のシャイナが成人したら、ジェクト兄ぃを追いかけて冒険者になるって。だからさ、その時は、一緒にパーティーを組んでよ」
「ああもちろんだ!」
この約束は決して裏切られることのない、女神に誓う約束となった
それから数か月後、ジェクトの誕生日の翌日に、彼は旅立っていった
リナは泣いていたが、一番お姉さんとなったアリスが泣きやませる
この世界では成人の儀式の際、1つから多くて5つスキルを授かる
当然ジェクトもそのスキルを授かった
彼のスキルは剣聖と波導という特殊なもので、かつての英雄たちが持っていたものの中でもかなり強力なスキルだった
「あいつは恐らく英雄クラスになるだろう」
そう村長は言っていた
(僕もスキルを得られたら、この世界で冒険者になれる)
今はまだ女神の加護があるだけの弱い少女
出来ることは少ない
そして、さらに5年の月日が流れた
15歳になったシャイナは、スキルを授かるために村の小さな教会を訪れていた
「うううううあああああ、シャイナァアア、村を出て行っちゃうのかぁ。パパ寂しいぞぉああ」
大泣きする父ダン
それを慰めるように寄り添う母イール
「大丈夫よあなた。シャイナはしっかり者だもの。きっとすごい冒険者になるわ」
落ち着いたダンを見て苦笑いし、シャイナは儀式に臨む
儀式とは言っても女神像の前に膝まづいて祈るだけだ
シャイナは教会の牧師であるおじいさんの指示に従いながら女神の像の前に立つ
(来ましたね!)
心の中に突如響いた声
それは15年前、転生するときに聞いた女神の声で間違いなかった
(女神様、ですか)
(あの、まだ怒ってます? 本当に、申し訳ありませんでした! あなたの意志を無視して、私)
(いえ、今では感謝しています。前世あれだけ辛かった人生が、今ではバラ色です。それもこれも女神様のおかげです)
(そう言っていただけると、私も助かります・・・。それと)
(分かってます。勇者を産む。それが私の役割なんですよね)
(え、いいの? 一時のテンションであなたを女性として転生させちゃったのに)
(そりゃ最初は混乱したし嫌でしたよ。でも15年でしょう? もう覚悟も決まりましたよ)
(ううううう、私は、なんていい転生者を見つけたのでしょう。本当に、本当にありがとうございます!)
(まぁまだちょっと恨んでますけど)
(うっ、で、ですから、あなたにはスキルを、普通よりも多めに与えます。かつてこの世界を救おうとした英雄たちに匹敵する量です)
(いいんですか? そんなにホイホイ与えちゃって)
(いいのです! 私がこの世界の女神ですからね)
そう言うわけで、通常で5個が最大。それでもめったにないスキル量のはずを、彼女は倍の10個もらえることになった これはかつて勇者となった英雄と同じ量だ
(それならもう私が勇者をやった方がいいのでは?)
(いえ、肝心の勇者の素質が無ければ勇者にはなれません。あったとしても人々を率いる才覚が無ければならないのです)
(う、私に一番なさそうなものです)
そう言うわけで、シャイナは10のスキルを手に入れた
女神の加護も合わせると15もの力を手に入れたことになる
(ありがとうございます女神様)
(ま、まあ私のせいなので、ええ、あなたが生きて行くうえで不自由のないようにしたいのです。勇者を産んで欲しいのは確かですが、あなたの幸せをいつも祈っています)
加護を10個もらったことは秘密にすることにしたシャイナ
あまり騒がれても動きにくいと考えたからだ
得たスキルは二つと答える
一つ目は聖女
回復魔法を得意とするスキルで、癒し手のスペシャリスト
そしてもう一つが祈り手という、女神の加護を仲間に付与できるというものだ
彼女の女神の加護がどういったものかはシャイナ本人しか知らないが、加護を持っていることは村中に知られている
そのためこの二つは村の住人に知られるにはいい隠れ蓑になってくれた
「すごいぞシャイナ! さすが俺たちの娘! 最高に可愛いぞ!」
「あなた、落ち着いて」
シャイナの儀式も無事終わった
その日、午後から3人は、翌日の出立のための準備を始める
冒険に必要な様々な物を大きなリュックに詰め込み、準備は完了
「シャイナ、これを持って行きなさい」
そこにダンが小袋を手渡した
「これは?」
「俺が冒険者時代に使っていたアイテム袋だ。大枚はたいて買ったいいやつだから、かなりの容量だぞ」
アイテム袋はその名の通り、道具などを詰めれる、魔道具と呼ばれる類の魔法の袋で、内部が異空間になっているため、見た目より多くの物を詰めれる
「ありがとうパパ!」
ダンに抱き着いてお礼を言う
「ママからはこれ」
イールが渡したのは大杖
「これは精霊の杖。私が冒険者時代に使っていたものよ」
イールのスキルは癒し手といって、聖女ほどではないが、上位の回復魔法を使える回復系スキル
その彼女が使ていた杖のため、シャイナにはかなり相性のいいものだった
「ママもありがとう!」
こうして準備は整い、翌朝、アリス、リナと共に村から旅立ったのだった
ダンはいつまでもいつまでも、涙を流しながら手を振っていた