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だったら、お前がママになるんだよ!!
カオリグサ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月15日
公開日
5,320文字
連載中
 ここ数百年勇者が生まれず、女神はほとほと困り果てていた
「はぁ、なぜ生まれないの! 私こんなに頑張ってるのに!」
 女神の努力もむなしく、時は過ぎるばかり
 彼女の管理する世界も、魔王の手により侵略され続けている
 英雄は生まれるが、肝心の英雄を率いる勇者が生まれない
 そうなればヒト族は結束することができず、やがて世界は魔王により滅ぶだろう
「仕方ない、異世界転生! これしかないわ!」
 女神は死んだばかりの魂を別世界から探し出し、一つの有力な魂を見つけ出し呼び寄せた
「おめでとう! 貴方は勇者に選ばれました!」
 適当な親にその魂を赤ん坊として産ませようと考えた矢先
「え、やだ」
 魂はただ一言そう答え、輪廻の輪に戻ろうとしていた
 引き留める女神
 しかし魂は聞く耳を持たなかった
(なんでよ、私こんなに頑張ってるのにどうして上手くいかないのよ!)
 怒った女神は魂に向かってこういった
「勇者が生まれない」
「は?」
「だったら、お前がママになるんだよ!!」
 かくして、元地球人のさえない中年、田中清明(たなかせいめい)は、異世界へと強制転生させられるのであった
 そして彼は、女神の言葉の意味を知る

第1話

 女神はただただ世界の安寧のため、平和のために努力を続けていた

 かの女神の名はシエラハート

 この世界では数百年に一度魔王が生まれ、世界を壊そうと動き出す

 そのため必ず反存在である勇者が生まれるのだが、魔王が生まれ早200年

 もはや地表の半分以上が魔王によって支配されてしまった

 にもかかわらず勇者が生まれることはなかった

「なんで、なんでなのよ!」

 勇者を世界に生み出すため、彼女はありとあらゆる手を尽くした

 加護を与え、力ある赤ん坊を見守った

 だが、英雄は生まれても、肝心の英雄を束ねる勇者が生まれない

「はぁ、なぜ生まれないの! 私こんなに頑張ってるのに!」

 女神の心は正常な判断ができないところまで追い込まれていた

 世界が滅べば、彼女を産んだ大神から、こっぴどく叱られる

「お尻ぺんぺんじゃすまないぃいい」

 彼女はすでに数千個世界を滅ぼしていた

「この手は使いたくなかったけど、もうそれしかない。異世界転生! これで汚名返上よ!」

 異世界転生は別に禁じられていないが、彼女が過去転生させた異世界人たちが、あまりにも自分とそりが合わなかったため、それ以降やってこなかったのだ

「あいつら苦手なのよね。何でも分かったような口ぶりであっさり転生に乗っちゃうし、無茶な要求してくるし、私のことエッチな目で見てくるし」

 ブツブツ言いながら彼女はとある世界の輪廻の輪から、力ある魂を探す

「あら、こいつなかなかいいじゃない」

 見つけた魂をすくい上げ、自分の前にそっと置いた

「純粋で正しい心を持った魂よ、あなたは残念ながらなくなってしまいました」

 よそ行き用の声を作ってその魂に語り掛ける

「はぁ・・・」

 何とも気の抜けた声で答える魂

「そこでです、あなたには第二の生を与えたいと思います」

「ああ、そうですか」

 魂は本当に興味なさそうに答える

「ぐっ、い、良いですか? その代わりにあなたには世界を救ってもらいたいのです! 勇者として! どうですか? 勇者です! 貴方は見たところ、正しい行いを選択し続け、徳をかなり積んでいます。是非とも、私の世界を救っていただきたく・・・」

「お断りします。それでは」

 魂はそう言うと、また元の世界の輪廻の輪に戻ろうとした

「ちょちょちょ、待ちなさいって! 勇者ですよ勇者! あなた達の住む世界では勇者ってすごく人気職なんでしょう?」

「あーまあ、そうですね。でも僕はなりたいとは思わない」

「な、なぜです?」

「僕はね、前の人生で自分の正しいと思ったことをやってきたつもりです。弱い人を助けて、常に誠実であった。だけど! その結果特にいいことはなかった! 浮いた話もなければいい仕事について幸福だったわけでもない! 正しい人は報われないんだ! 37歳で未だ童貞のフリーター・・・。もう、疲れたんですよ。女神様はいいですよね? そうやってふんぞり返ってこうやって転生者?を導くだけでいいんですから。さぞかし楽で楽しいゲームなんでしょうね」

「ゲーム? ゲームと言いましたか?」

「だってそうでしょう? 人間の魂を使った、ロールプレイングゲームですよこんなの!」

「そんなわけないでしょう! これどれだけ大変か分かってます!? 世界の秩序を保つのってそんな簡単じゃないんです! 24時間年中無休のハードワークなんですよ! それを、それをゲームだなんて!」

「はぁ、もういいですか? それじゃあ」

 この一言が、女神を傷つけた

 そして、この世界唯一神である女神シエラハートは堪忍袋の緒が切れ、今までのストレスが一気に吐き出された

「勇者には、なってくれないんですね?」

「だからなりませんってしつこいな。じゃ、縁があったらまた」

「フフ、アハハ・・・」

 女神の笑い声を不信がりつつも、魂は輪廻の輪を目指して動いた

 その背中辺りを女神にギュッと掴まれる

「ちょ、放してください!」

「だったらぁ・・・。だったら、お前が! お前がママになるんだよ!!」

 女神は無理やり魂を引っ張って、自分の世界の、赤ん坊を宿した夫婦の元へと、それはそれは綺麗なフォームで投げ込んだ

 この時点での赤ん坊には魂が宿っていないため、それはすんなりと受け入れられる

「はぁはぁ、はぁはぁ・・・。やっちゃった! ああああああああ!! ごめんなさいぃい!! つい怒りに任せて! ななな、どうしよう! そ、そうだ、えっと、いくつかの加護と、スキルを! こ、これでなんとか、許してね。勇者のママちゃん。てへっ」


「うわあああああああああああああああああああああああああ!!」

 放り投げられ、光のような速さで落下し、絶叫する魂

 その魂に女神から祝福の光が後からこれでもかと付いてきた

 そしてその日、何の変哲もない村で光に包まれた赤ん坊が産声を上げる

「おめでとうイール。元気な女の子だったよ」

 イールと呼ばれた童顔の女性に助産師が赤ん坊を抱かせる

「まぁなんてかわいいの」

 そこに扉がドンと開いて男が駆け込んできた

「イール! 生まれたのか! 俺たちの赤ん坊が!」

「ええあなた。ほら、こんなに可愛い」

「おお、おお、女の子か。ありがとうイール、ありがとう。大事に、大切に、育てよう。俺たちの宝物、シャイナ」

 この地方でのシャイナという言葉の意味

 それはくしくも、唯一神であるシエラハートがつかさどるとされている権能、光と同じであった

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