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第33話

~持久走大会本番~


最初に練習を始めて1カ月ぐらいが経った。

俺は現役時代ほどではないにしろ、ちょっとは体力が戻ったような気がする。

それでも先頭集団を走れるほどではないが。。。

おそらく真ん中ぐらいだろう。

敬都も最初のころは全然走れていなかったが、俺たちとの練習以外でも自主的にランニングをしていたらしく真ん中の後ろぐらいの集団には入れるぐらいには走れていた。

それよりも驚いたのが愛の体力だった。

愛は俺に合わせて走ってくれていたけど、多分俺よりも早いんじゃないかな。

一緒に走り終わった後、俺はかなり息切れしていたのに愛は爽やかに笑っていて。

あれは強がりではなく余裕なんだと思う。

男子と女子は走る距離は違うけど走るタイミングは同じだから他の男子よりも愛に負けたくないとひそかに思っていた。

彼氏としての威厳ぐらいは保っておきたい。

そうじゃないと愛の評価が下がってしまうかもしれない。


「みっちゃん体調は悪くない?」


「うん。昨日母さんが気合入れて豚カツ作ってくれたけど控え目に食べていて正解だったよ」


「真奈さんの豚カツ私も食べたい」


「今度言っておくね。昨日も愛ちゃんはいつ来るの?っていっていたから喜ぶと思うよ」


「へへへ。嬉しい」


「とりあえず今日は頑張ろう」


「そうだね」


愛はいつもと同じ様子だ。

さくらさんとの勝負で少しは気負っているかなと心配したけど余計なお世話だった

まぁ愛とさくらさんよりももっとヤバいやつがそこにいるんだが


「敬都大丈夫か?」


「う、うん」


「顔色真っ青だけど」


「なんか緊張して眠れなくて、寝不足と緊張で吐きそう」


「今から本番なのに出だしから最悪だな」


「ごめん」


「敬都どうしたの顔色悪いよ」


「さくらさん。緊張と寝不足で吐きそう」


「大丈夫?ポカリもってこようか?」


「大丈夫。ポカリなら持ってきているから」


「それならよかった」


「さくらさんおはよう」


「さくらおはよう」


「愛ちゃんも瑞樹もおはよう。今日は頑張ろうね」


「頑張ろう」


さくらさんはいつもの調子のように見えるけど、少し顔が疲れているように見えるのは気のせいだろうか


「お前ら頑張るのは先生としては嬉しいが無理はするなよ。今の時代色々とうるさいから。体調悪くなったりしたらすぐにコースから外れたり自己判断で動いていいからな」


先生の軽い挨拶が終わり、いよいよスタートしようとしていた


「愛ちゃん頑張ろう」


「さくらが頑張っているのみてきたから私も手を抜かない」


「流石愛ちゃん。私も負けない」


「みっちゃん私たちの勝負みていてね」


「いや俺が後ろの前提。。。まぁいいか」


先生の合図で男女一気にスタートした。

この持久走大会は男子3キロ、女子2キロと男女で距離は違うがコースは同じだから毎年途中まではカップで一緒に走る人たちや仲良しグループで走る人たち、そしてガチ勢でわかれているのが特徴である。

そして俺は仲良しグループで走る予定だったのだが、スタートと同時にその計画は終わった

なぜなら今現在俺の前では愛とさくらさんの二人がまさにガチ勢の走りを繰り広げている。

確かにスタート前に愛に「私たちの勝負みていてね」と言われたけど、本当に後ろから二人の勝負をみることになるとは。

ちなみに俺が手を抜いているわけではなくて、単純に二人のペースが男子に負けないぐらいの早いペースで走っており俺は実力で二人の後ろを走っているわけだ。

後ろを振り返ってみると遠くの方に顔色が先ほどよりも青白くなっている敬都が頑張って走っているのが見えるが終わったらジュースでもおごってやろう。


2人のペースはまさに互角で、愛がさくらさんの少し前を走っていて、そのすぐ後ろにさくらさんがついていっているような感じだ


「流石愛ちゃん。私もこの1カ月本気で走り込んできたけど、全然追い越すことができない。でも。。。」


さくらが愛の前に出ようとペースをあげた


「さくらってこんなに早かったっけ。さくらにも負けたくないけどそれ以上にみっちゃんにかっこいいっていわれたい」


愛はさくらが前に出る前にペースを一段階あげた


2人の真剣勝負を俺は後ろからしっかり見守っていた。

本当は横に並びたいところだが、追いつくことができない

本音を言うと追いつくことはできるが後半確実に体力がなくなるのがみえている

もう一度後ろを振り返ると敬都は頑張ってついてきているが、顔は白くなっている

あれ大丈夫かな。。。


スタートから半分が過ぎようとしたころにさくらさんに変化が起きていて

愛の後ろにはついていっているものの、後ろから見ても肩で息をしていて辛そうな状態だ


「はぁはぁ。はぁはぁ。もっとペースをあげないと」


さくらさんはそれでも愛に離されないように必死についていっていた


「もっと。もっと。。。。。あれ。体に力が入らなくなっているような気がする」



後ろからみていて嫌な予感は的中した。

愛の後ろについていたさくらさんは息が激しくなり身体が左右に揺れだした。

俺はこの状態をみたことがある。

あれは中学時代の夏の練習で走りのトレーニングの時に後輩が俺の前で同じ状態になり、その後倒れた。

さくらさんが同じ状態になっているのかはわからないが、とりあえずペースをあげた

そしてさくらさんの横についたタイミングでさくらさんは倒れた


「さくらさん。さくらさん。大丈夫?」


俺はすかさずさくらさんを抱え上げコースの横の日陰に入った。

さくらの異変に気付いていた愛も慌てて俺たちの後を追ってきた


「さくら!さくら!」


愛は泣きそうな声でさくらさんのことを呼んでいる


「愛!落ち着いて。さくさらんは多分熱中症か脱水症状を起こしているんだと思う。近くに先生がいると思うから水と冷たいタオルをもらってきて」


「わかった」


愛が先生を呼びに行っている間に俺はさくらさんを日陰に横にして自分の体操服を脱ぎうちわのよう仰いだ。もしかした汗臭いと思われるかもしれないが、今できることはこれぐらいしか思いつかない

するとさくらさんの意識が戻ってきて


「瑞樹???」


「さくらさん!大丈夫」


「うん。なんとか。私なんで横になっているの?」


「さくらさんは愛の後ろを頑張ってついていっていたんだけど急に走り方がおかしくなって倒れたから慌てて俺が隣まで走って受け止めて今に至ります」


「そっか。私倒れちゃったか」


さくさらんは腕で顔を隠しながら静かに呟いた


「みっちゃん。さくらは?」


愛が水と冷たいタオルを持って戻ってきた。

先生が保健室の先生を呼びにいってくれているようだ


「さくらさんは今意識が戻ったよ」


「よかったぁ。さくら大丈夫?お水飲んで!!」


「愛ちゃんありがとう」


さくらさんは横になった状態で水を飲みおでこに冷たいタオルをのせると少し楽になったようだ


「私ダメダメだね」


「なんでそうなるの?さくら頑張っていたよ」


「頑張ったところで愛ちゃんには勝てなかった。まぁ勝てたところで何って話だったのかもしれないけど」


「さくらさんはなんで愛に勝ちたいと思ったの?」


俺と愛もさくらの近くに座って三人で横に並ぶ形になった


「う~~ん。なんか周りから2番って言われるのが嫌になって。それを受け入れている自分がもっと嫌になったからかな」


「その気持ちはわからないこともないよ」


「瑞樹にもそんなことあるの?」


「さくらさんが抱えているものとは違うかもしれないけど、俺の場合サッカーをしていた時に最初は自分が一番上手くなるぞって思って練習していたけど自分よりも上手な人が出てきたときに悔しがる気持ちよりも受けれ入れている気持ちの方が大きくて、それに自分が一番ショックを受けたことがある」


「確かにその気持ちと似ているかもしれないね」


「でも、違うのは当たり前なんだろうなって今は思うんだ」


「違う?」


「だって一人一人持って生まれた能力があって、それを「才能」とかで片付けたりするけど、結局は長所は人それぞれなんだと思う。だからサッカーで同じポジションの子でも同じ上手さを求める必要もないのかなって。つまり愛のすごいとところとさくらさんの目指す、すごいは違ってていいんじゃないかな」


「そうだよ。確かに私は勉強、スポーツを「こなす」のはそこそこできるかもしれないけど、さくらが私たちにしてくれたみたいに「支える」や「教える」は私は全然得意じゃない」


「そうゆうこと。さくらさんにはさくらさんの良さがある。愛には愛の良さがある。その良さを対等に評価するのは違うような気がしない?」


「自分の良さ。。。」


「そりゃ二人のことをよく知らない人たちからしたら愛が1番に見えてさくらさんが2番にみえるかもしれないけど、二人を知っている人間としてはさくらさんが愛より劣っているなんて思ったことないんだよね」


これはさくらさんが愛に宣戦布告した時から思っていたことだった

さくささんはお世辞抜きでめちゃくちゃ優しい人だと思う。

友達想いで、俺と敬都みたいな陰キャ相手にも分け隔てなく話してくれる。

しかもリーダーシップもあり、スペックはかなり高い。

そして何よりも美人だし。。。あまり大きな声では言えないけど


「本当に?」


「本当だよ。多分顔面蒼白で今走っている敬都に同じことを聞いても同じような答えが返ってくると思う。確かに愛は周りからのイメージで才色兼備ってイメージを持たれているけど、実際に付き合ってみると裏ではポンコツで可愛い部分ばかりで頼りないところもあるでしょ」


「みっちゃん私のことディスってない?」


「ディスってないよ」


「確かに愛ちゃんはポンコツな部分あるよね」


「さくら私のことディスってるでしょ」


「ディスってないよ」


「仲良くならないと見えないところはあるのかもしれないけど、さくらさんのいいところをもっとみんなが知った時に今の2番の評価は絶対に変わると思うから」


「瑞樹って見た目陰キャなのにいうことは漫画の主人公みたいになるときあるよね」


「さくらさん俺のことディスってない?」


「ディスってないよ」


やっと3人で普通に笑えた


「なんか私のモヤモヤ晴れたかも。1番とか2番とか考えすぎて私馬鹿みたいだ」


そういってさくらさんは静かに泣き出した。

それを愛はそっと抱きしめた。

さくらさんの感情をくだらないというやつはいるかもしれない。

でも、さくらさんの感情は誰にでも生まれるものであり、その感情に向き合い愛に勝負を挑んださくらさんのことを俺は心の底から尊敬していた。

俺にもそんな気持ちがあったのならもっと違う道を歩んでいたのかもしれない。

多分、これが先に進める人と先に進めない人の差なんだろう。

今泣いているさくらさんは本当に強い子だ。俺はただ逃げた臆病者だ。

愛はちゃんと結果を出す努力をしている

さくらさんは自分の気持ちにしっかり向き合っている

敬都は変わろうと努力している

じゃぁ俺はどうだろう。

俺ももっと前に進みたい。


2人の背中をみながら俺は静かに決意していた。

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