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第15話

愛と春乃さんと敬都との球技大会の練習を終えた帰り、俺と愛は二人で帰っていた。


「ねぇみっちゃん」


「どうした?」


「サッカー辞めて後悔していない?」


「いきなりどうした?」


「桜に聞かれたときに本当はみっちゃんはもっとサッカーやりたいって思っていたのかなと思って」


「なんでそう思ったんだ?」


「みっちゃんの、返事はもっとやりたかったけど途中で諦めたみたいな感じだったから」


「後悔はなくきっぱり終われているのかと聞かれたら違うんだと思う」


「なんでやめてしまったのか理由を聞いていい?」


「いいけど大した話じゃないけどいい?」


「みっちゃんの話なら私にとってはどれも大事なことだから」


愛の目は真剣だった。

俺は歩きながら少し昔の話を始めた


俺は小学校2年生から友達に誘われるのがきっかけでサッカーを始めた。

そのころ部員の数も少なくて俺たちの世代は人数がいたけど上の世代には人がいなかった。

上の世代に人がいなかったから5年生の時にはキャプテンに任命してもらった。

小学校の時のキャプテンの仕事はリーダーであるけど、あくまで監督・コーチがまとめてくれるから特にキャプテンの仕事はなかった。

サッカーは他の同級生には負けないぐらい上手だったと思う。

だから中学に入っても1年生から試合に出させてもらって2年生でも一つ上の学年の試合にレギュラーで出させてもらっていた。

先輩が引退してから自分たちの世代になった時にキャプテンに任命された。

小学校のキャプテンと中学校のキャプテンでは仕事と役割が違っていて、小学校は監督・コーチがまとめてくれるけど、中学校では基本自分たちが主体になっていくから試合こそ監督や顧問がきてくれるけど練習ではキャプテンがその役割をこなさないといけなかった。


その時の俺はキャプテンとしてチームを勝たせるのが仕事と思っていたから

練習から部員に対して厳しく接していた。

多分最初は上手くいっていたんだと思う。

同年代の部員は協力してくれていたし後輩の子たちもついてきてくれていた。

その時にもっと俺が気づくことができればよかったんだけど俺は「勝つ」ことを優先していた。

ある日の試合で


「今日の試合内容最悪だったな」


「確かに全員動けていなかったな」


その日の試合は格下だったけど試合の内容は散々で結果も0-3と何もできなかった。

公式戦が近くに迫っていたのもあったから少し焦っていたのかもしれない


「よし!今日はこのまま練習していこう。監督いいですか?」


「そうだな。キャプテンのお前がそういってくれるなら今日はこのまま練習していくか」


勝手に決めてしまったのはあったが、みんなも同じ気持ちだと勝手に勘違いしていた


「監督すいません。俺この後用事が会って」


「お前キャプテンの松岡がこんないってくれているのに、部員のお前がついてこなくてどうするんだ」


「はい。。。」


監督も昔の人間だったから俺みたいな「やる気あります」みたいな選手は大好きで、逆に「やる気がないようにみえる」選手は好きじゃなく、その時用事があると言い出した選手を怒っていた。

俺も当然監督の言い分が正しいと思っていた。

しかし、実際その部員の用事はとても大事なものだった。

後から聞いた話だが、部員のお祖母ちゃんがあまりよくない状態だったらしく、その日の試合の後に病院に行く予定だったそうだ。

それが練習になってしまったせいでお祖母ちゃんと最期に話せなかった。


この出来事がきっかけで部員の不満は募り始めて

俺と部員たちの間にモチベーションの格差ができ始めた。

キャプテンとして勝ちたいと思っている俺と楽しくサッカーをしていきたい部員たち。

もちろん中には俺と同じ気持ちになってくれる人もいた。

しかし、サッカーは11人でするスポーツ。

数人の矢印が同じ方向を向いていても他の部員の矢印が違う方向を向いていると上手くいくわけがない、

そうやって最後にはサッカーをするだけのチームになっていた。


自分は自分なりに精一杯キャプテンをやろうとしていた。だからそのときは自分がどこで間違ったのかわからなかった。でも自分がもっとうまくやっていたらいいチームを作ることができたんじゃないかとも思う。


「これが俺の中学時代の話かな。つまんなかったね」


「みっちゃん辛かったね」


俺の過去の話を聞いてかけてくれた言葉はとても優しく、愛の顔もとても優しかった。

その言葉だけで俺は泣きそうになっていた


「全部自分で蒔いた種だから」


「それでもみっちゃんは頑張ったよ」


「まぁ確かに頑張りはしたかな。上手くはやれなかったけど」


「私は部活動をしたことがないし、リーダー的な存在になったことがないからみっちゃんの気持ちを全部理解することはできないけど、みっちゃんが頑張ってきたのはわかるよ」


「愛は優しいね」


「みっちゃんが優しんだよ。だってみっちゃんは自分だけが勝ちたいんじゃなくてみんなで勝ちたいと思ったから試合の後に練習しようって提案したんでしょう。もし自分だけが勝ちたいと思っているなら試合の後に自主的に練習すればいいだけなのに、それをわざわざ監督に直談判して自分も疲れてい中、次こそはみんなで勝ちたいって思って練習したと思うの」


「みんなで勝つ。。。」


「確かにその部員にとっておばあちゃんと最期に話せなかったのは一生の後悔になってしまったのかもしれない。でもその部員ももっと自分で伝える努力をしていれば状況は変わっていたかもしれない。」


「でも練習を言い出したのは俺だから」


「そうかもしれない。みっちゃんの性格は私もわかってきたつもり。みっちゃんが背負うのは仕方ないことだし、実際に起きたことはなかったことにできない。でも辛いことを一人でためこむ必要はないんだよ。私はきついことがあったり、辛いことがあったりしたらみっちゃんに聞いてほしい。だからみっちゃんにも私のことをもっと頼ってほしい。弱音は吐いていいんだよ」


「弱音を吐くか。。。」


俺は確かに弱音を吐くような相手はいなくなっていた。

勝手に一人で孤立して


「おばあちゃんに教えてもらったんだけど、弱音はずっと吐いていたら、いずれ弱音は吐かなくなっていくんだって」


「弱音を吐いていけば弱音を吐かなくなっていくか」


「うん。吐くだけ弱音は吐けばいいんだよ。それを受け止めるのも私の役割だから」


「ありがとう」


「全部おばあちゃんの言葉だけど」


「なら愛のおばあちゃんにありがとうって今度いわないとな」


「でも、サッカーはもういいの?」


「そうだな。流石に今からサッカー部に入ってみたいなモチベーションはもうないかな。それに」


「それに?」


「今は彼女ができて毎日楽しいし」


「へへへ~」


今日の愛は学校での嶋野愛と家でデレデレのちょっとポンコツな愛でもなくて、新しい愛を見れたような気がした。途中ちょっと泣きそうにもなったけど、彼氏の威厳を保つためになんとか堪えた。

弱音を吐く。。。。

サッカーを引退してからは部員たちとなんとなく距離を置いていて、同級生とも深くかかわってこなかった分、弱音を吐けるような相手もいなかったし、弱音を吐くという選択もなかった。

でもこうやって愛に自分を少しさらけ出して自分の本音を出すのも大事なのかもしれないと思った。

自分を許せないし、後悔は消えないけど少しだけ前に進んだような気がした



「でもさ、部活はもういいとしてもサッカーの後悔はずっと消えないと思うの」


「サッカーの後悔?」


「そう。だから今度の球技大会のサッカーで一旦区切りをつけていいと思うの」


「区切りか・・・」


「部活に比べたら全然大したことがないんだけど一つの区切りとしては良いような気がして」


「区切りなんて考えたことなかった」


「せっかくだから考えてみて」


「わかった。ありがとう」


「じゃぁ次は私の話を聞いて」


愛はいつもの優しい顔から少し顔を引き締めて

まっすぐ俺の目をみて話し出した


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