「瑞樹も今日から高校生なのね」
「そんなしみじみされても」
「母親としては息子が高校生になった姿をみるだけでぐっとくるところがあるのよ」
「そうゆうものなの?」
「そうゆうものよ」
高校生初日の朝の母さんは少し嬉しそうな寂しそうな表情である
確かに高校生って響きは少し大人に近づいているよな気がする
「お兄ちゃん、制服似合っているじゃん」
「ありがとう」
「高校生では彼女ができればいいね。モテない兄をもつのも辛いですよ」
「見た目は俊哉さん似で悪くないと思うし優しさもあるから悪くないとは思うんだけどね」
「オタクがダメなのかな」
「オタクがダメなのかもね」
「2人ともうるさい。今は彼女とか興味ないし」
母さんと妹の真紀の2人が揃ったらだいたいこんな小言を言われる
それに一つ言わせてほしい。
オタクはダメではない。
この趣味を理解してくれる人が少ないだけなのだ。
「いってくる」
「もう、怒らないでよ。いってらっしゃい」
「いってきます」
今日から高校生である。
中学生を3月に卒業して数週間後には高校生になっているから、正直高校生になったという実感はない。
中学生活も最初は順調に進んでいたような気がしたけど、最後の方はあまりいい思い出はないから中学生に対しての未練もないし、かといって高校生活がめちゃくちゃ楽しみかと聞かれたらそうでもないと思う。
義務教育の延長にある学校といったイメージだ。
うちの両親の教育方針として絶対に大学に進学というわけでもなかく
「瑞樹のやりたいように将来は決めなさい」
と父さんはいってくれて、母さんも同じような考え方だった。
今自分の将来でこれといってやりたいことがあるわけではないし、この3年間でやりたいことをみつけていければいいなぐらいのやんわりした考え方である。
厳しい両親のもとにうまれていたら「絶対に大学進学」という目標に向かって毎日勉強しないといけなかったかもしれない。
そう考えるとうちの両親の子供に生まれてよかったと思う。
「親ガチャ」という言葉があるのを聞いたことがある。
「子供にとって親はランダムで、自分で選べない」ことらしい。
確かに子供は親を選べない。でも逆に親も子供を選ぶことはできない。
世の中では親は子を選べないが前にきているけど、俺個人としては親が子を選べないのも同じぐらい大変だろうけどなとは思う。
学校につくとクラス分けの貼り紙が出ていた。
俺は1年3組に名前があった。
この学校は偏差値がそれなりに高く同じ中学の子はそんなに多くないし。
学校の生徒数も多めなことから同じクラスに同じ中学の人はいなかった。(多分)
「愛ちゃんも2組」
「そうみたい」
「やったぁ。高校で同じクラスになれたのは嬉しい」
「私もさくらが同じクラスでよかった」
話し声が聞こえる女子生徒の方をみてみると
そこにはめちゃくちゃ美人な人と可愛い人が立っていた。
このポテンシャルを持っている人は俺がいた中学にはいなかった。
流石高校って思ってしまったのは内緒である。
「おい、あそこの子可愛くないか」
「俺連絡先聞いてみようかな」
「絶対彼氏いるだろ。あのビジュアルだぞ」
「一目ぼれしたかも」
その子たちの存在感は圧倒的で、気づけば他の男子生徒がかなりそわそわしている。
周りを見渡してみれば、上級生もみにきているぐらいだ。
芸能人かなにかかな。。。
気づけば女子生徒はいなくなっていたが、そこにはハンカチの落し物があった。
多分、あの子たちのどっちかだろう。
俺は急いであの二人を探した。
だが、こんだけ生徒数がいればたった一人の生徒を難しくすぐに見つけることはできなかった。
とりあえずハンカチはバッグにいれて後から見つかり次第返せばいいかと思い教室に向かった。
教室について自分の座席を確認すると左の端っこの席だった。
神様ありがとうと思った。
元々友達少なめで友達作りも上手じゃない男子生徒は中心の席よりも端っこの席がいいのだ。
特に自分のことを陰キャと思っているやつはみんな端っこを好む傾向があるだろう。
それから担任の先生が入ってきて、入学式の詳細を説明され、1年生は体育館に向かった。
入学式は体育館に新入生が入場して校長先生や来賓の偉い人話した後、一人ずつ名前を呼ばれて返事をした。
その中にさっきの美人な人と可愛い人もいた。
名前は嶋野愛と春乃桜というらしい。その二人が呼ばれただけで体育館が少しざわついていた。
入学式が終わった後は自己紹介などをしてその日の学校は終わった
ホームルームが終わり、嶋野さんにハンカチを返そうと思い探し回っていると屋上に繋がる階段があった。中学時代は屋上がなかったからなんとなく屋上に憧れをもっていたからいってみることにした。
屋上の扉を開けてみるとドラマやアニメでみるような屋上が広がっていた。
そしてそこに嶋野さんと男子生徒が立っていた
「嶋野さん、俺と連絡先を交換してくれませんか?」
「それだけのことをいうためにここに呼んだの?」
嶋野さんは俺が思っていたよりもドライな性格だった。
横にいた春乃さんだったら「連絡先?いいよ」っていうノリだったのかもしれない。
まぁ春乃さんとも話ことはないけど。
「ごめんなさい無理です」
「連絡先だけでもダメですか?」
「知らな人に連絡先を教えるつもりはないです」
「なら俺と友達になってくれませんか?」
「なんであなたと友達にならないといけないんですか?」
「あんた思っていたイメージと違ったな」
「それはあなたが勝手に抱いたイメージですので」
「お前黙って聞いていれば偉そうに」
男は今にもつかみかかりそうな勢いだった。
確かに嶋野さんの言い方もドライすぎて聞いてるこっちも怖くなったけど
「嶋野さん」
「えっ」
嶋野さんも屋上に俺がいることは知らなかったらしく
横から突然名前を呼ばれて驚いている様子だ
「なんだお前」
「いや、なんでもないんですが、嶋野さんが落としたハンカチを届けに探していたら遭遇してしまった感じです」
「そのハンカチ!ありがとう」
「よかった。たまたまクラスの張り出しの時に隣にいて、嶋野さんがいたところに落ちていたからそうかなと思っていました」
「でもなんで私の名前を」
「それは入学式の時に名前を呼ばれていたのをみていたので」
「なるほど。ありがとう」
「いえいえ」
「じゃぁ俺はこれで」
「なんかシラケたな」
「そうだ!!さっきの一部始終みていましたが、断れているのにしつこく迫るのはよくないと思いますよ。しかもグランドからこの場所みえているので、多分あなたが嶋野さんに告白しているみたいになっているので嶋野さんに対して強気な姿勢でいくのはいいですが、恥ずかしくなるのはあなたですよ」
俺がそういうと、男子生徒はすぐにグランドをみていた。
グランドには運動部がこっちをみていて笑っていた。
その光景をみた男子生徒は顔を真っ赤にして走って屋上を後にした
「大変だったね」
「ありがとう」
「いやいや、ただそっちに向かっているときにグランドからこっちを見ている人をみつけたからいってみただけ」
「それでもありがとう。あなたの名前は?」
「松岡瑞樹」
「松岡くんね。覚えておく」
「覚えるほどの男でもないよ。じゃぁハンカチも返したしこれで」
「うん」
嶋野さんと話すことはないと思うけどこんなふうに話せたのは俺の中の数少ないエピソードになるかもな。
「みっちゃん何考えているの?」
「なんか一年って早いなと思って」
ここで愛にハンカチを返したのを愛はきっと覚えていない。
わざわざ「あの時ハンカチを拾ったのは俺なんだ」というのはなんとなく恥ずかしい
でもあの時はまさか愛とこんな関係になるなんて思ってもいなかったし、この学校で誰も俺が愛の彼氏になるなんて思っていなかっただろう。
そう考えると「縁」というのは本当にすごい。
今愛と付き合えて本当に俺の世界は変わっているし、幸せなのは間違いない
「そういえば」
「どうした?」
「みっちゃんはここにハンカチを返しに来てくれたよね」
「えっ。覚えていたの?」
「当たり前でしょ。みっちゃんとの思い出は全部覚えているよ」
「いや、あのときは入学式初日で俺と愛も初めて話したぐらいだから覚えていないと思っていた」
「確かにあの時に話しかけてきた有象無象の男は覚えていない」
有象無象でくくられている男子生徒のみなさんご愁傷様です
「よかった。その有象無象に入らなくて」
「私あの時名前聞いたでしょ」
「聞いたね」
「その時から松岡瑞樹という名前だけはちゃんとおぼえていたよ」
愛にそれを言われたときに、なんかすごく嬉しくなった。
1年生で友達も特にできていなくて、俺の名前をフルネームで覚えている人なんていないと思っていた。
それが誰かにちゃんと覚えてもらえていたという嬉しさ。
それが愛なら、嬉しさも倍以上だ。
「愛、ありがとう」
「もしかしたらハンカチを拾ってくれたみっちゃんが私の運命の人だったのかもしれないね」
「そうだったらいいね」
「あの時、みっちゃんがこんな素敵な人って気づいていればその場で私は告白していたのにな」
「俺も愛が本当はドライでクールビューティーじゃなくてちょっとポンコツで残念な女の子って知っていればもう少し近づいていたかもね」
「ポンコツで残念な女の子って嬉しくない」
「でも、そんな愛が俺は好きだから」
「へへへ。ぎゅーして」
「はいはい」
「ちゅーして」
「屋上は運動部の人たちに見られるから今度ね」
「うううう。わかった」
「いこうか」
愛に出会えてよかった。
ハンカチを拾ったのが自分でよかった。
覚えてもらっていてよかった。
今日の空も青空だった。
「みっちゃん」
「どうした?」
ちゅっ
愛が頬にキスをしてきた
「あとからっていったのに」
「我慢できなかった」
「いいけど」
「みっちゃん好き。行こう」
そして俺は愛の手を取る。