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第56話  助力


 突如乱入してした謎の男プレイヤー――葦原あしはらの協力を取り付けた俺は、一人街中を駆け抜けていた。

 半壊した世界で、ひとり思考を巡らせる。


「あのデカブツの体が人間と同じ作りだっていうなら、致命傷となる場所も人間と同じはず。だが、それなら葦原が開幕早々撃ち抜いたヘッドショットで絶命してないのがおかしいか?」


 とはいえ、ヘッドショットを食らったレッドトロールは一時的に意識を失って倒れていた。

 それからしばらくして再生能力により再び立ち上がったわけだが……。


「それ以降、アイツは本気を出してきた。今みたいに炎の鎧を展開して葦原の銃弾をめちゃくちゃ警戒するようになったよな。ということは、ヘッドショット一発で殺しきれなかったとしても、奴にとってもう二度と食らいたくないくらいには脅威に感じてたってことだ。もし無限に再生できるならそんな恐怖を覚える必要はない。となれば考えられるのは――」


 ――――再生能力の上限、か。


 レッドトロールに再生能力が備わっているのは見ていれば分かるが、それはプリムや北沢のような回復魔法とは種類が異なる。

 回復魔法であれば投入した魔力と魔法のレベルに比例して回復量が増大するが、再生能力の場合は明確に上限が決まっているのかもしれない。

 ヘッドショットの際はものの一分足らずで再生が完了して再び動き出したのに対し、俺が刻み付けたアキレス腱の再生はそれに比べたら遅々として進んでいない。

 まあ、アキレス腱よりも頭部の損傷の方がより死に直結するダメージになり得るので急所の再生に重きを置くのは頷けるが、もしレッドトロールが自身で再生能力の度合いを操作できるなら、とっととアキレス腱の傷も回復すればいい話。

 つまり、これらの情報を鑑みると、一つの仮説にたどり着く。


「奴の再生能力は自分でコントロールできない……? そして致命傷となりうる急所の再生は進みが速く、逆に手足にかけての体の末端部位になればなるほど再生が後回しにされるってメカニズムか?」


 この仮説ならば、一応今のシチュエーションに説明はつく。

 とりあえず妥当な考えとなっているのであれば、一旦これで動いてみるしかない。

 俺たちに与えられた時間は僅かなのだ。


 不意に、遠方から連射型の銃撃音が轟いた。


「あれは……葦原か。ついにレッドトロールの足の破壊に動いたんだな」


 俺が伝えた作戦をしっかりと実行してくれているようだ。

 恐らく、葦原のあのガトリングガンの能力があればアキレス腱くらいは破壊できそうな気はしている。

 少なくとも、俺が与えた足の傷の再生を妨げるくらいのダメージは加えられるだろう。


「となると、問題は俺の方だな。はてさて、どうやってあのデカブツにトドメを刺すか……」


 トドメを刺す方法については一つアイデアがある。

 実行可能かどうかは分からないが、俺の予測では奴の心臓を止められる見立てはついてある。

 だが、その手前に問題があった。

 レッドトロールの、体勢である。


「アイツはいま防御に専念しすぎてるから、踞ったような姿勢なんだよなぁ。俺のアイデアを実行するには、立ち上がってもらわないといけない。少なくとも上半身を露出させねぇと、そもそも攻撃すらできねぇぞ」


 俺のメイン武器は双剣である。

 超近接系のこの武器では、今の炎をまとったレッドトロールには近づけない。

 熱すぎて全身黒焦げになりかねんからな。


 焦燥感が絡み付くまま思考を加速させていると、不意に横から声が飛んできた。


「あ、いました! 遊一っ!!」

「か、神崎君!」


 そちらを見る。

 そこには、アパートの屋上から身を出して手を振る見知った顔が二つあった。




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