ガトリングガンとレッドトロールの炎が席巻する街で、俺は謎のプレイヤーに一つの提案をした。
「あのデカブツを打ち倒す策を思い付いた。俺とアンタの二人が協力すれば、きっとこの緊急クエストに終止符を打つことができる。どうだ。この戦いの終結を望む者同士、ここは一つ手を組んでみないか?」
男は僅かに眉を下げた。
それから数秒ほど経過し、ようやく重い口を開く。
「……詳しく話を聞かせてもらえるかな?」
その返答に、俺は内心でガッツポーズを決める。
とりあえず俺の話に聞く耳は持ってもらえた。
あとは作戦を話して納得させ、了承を引き出すだけだ。
俺は短く息を吐き、銃撃音にかき消されないよう声を張り上げながら説明を試みる。
「まず伝えておかなきゃならないことがある。さっきから派手にぶちかましてるそのガトリングガンを黙って受けているレッドトロールだが、あいつが動かないのには理由がある」
「ほう、それは?」
「厳密には動かないんじゃなく、動けないんだよ。なぜなら、あのデカブツの左足を俺が潰しているからだ」
「左足を、潰した……?」
「ああ。俺が何とか左のアキレス腱を破壊した。その影響でアイツは動けずにあそこで踞っているだけなんだ。つまり、俺が断裂させたアキレス腱が回復しちまうとまた自由に動ける体に戻っちまう」
男は、ふむ、と頷き、攻撃の手を緩めることなく思考を巡らせている。
「確認だが、あのレッドトロールとかいうエリアボスは回復魔法のようなものは会得しているのかな?」
「それは分からない……が、恐らく回復魔法はないんじゃないかと思う。これまで戦ってきてもそんな魔法を発動した素振りはないし、回復魔法なんて便利なモンを持っているなら今の状況で使ってこない理由がない」
「それもそうだか。だったら、もしキミが加えた傷が回復してしまうとしたら、単純にレッドトロールの体に備わっている再生能力が関係しているってことなのかな」
「俺はそう睨んでる。魔法やスキルなんていう超常的なものじゃなく、単純に身体的な機能として宿っている能力なんだとしたら、これだけ回復に手間取っているのも頷けるからな。まあ、それでも十分規格外の回復速度ではあるんだが」
「なるほど……何となく話は見えてきたよ」
男は苦笑するようにフッと小さく笑った。
それが戦況の危うさを嘆いてのものか、それとも俺の無力さを嘲る類いのものかは分からない。
が、そのどちらにしても、このプレイヤー一人で盤面をひっくり返せないというのもまた事実だ。
エリアボスを本気で打ち倒したいという気概があるのならば、必ず俺の提案には乗ってくるはず。
そう信じて、俺は言葉を紡ぐ。
「はっきり言うが、俺はレッドトロールの左足が回復しきってしまったら俺たちプレイヤー側に勝機はなくなると思っている」
「だろうね。あれだけ全身を炎で覆い隠されたら、僕の銃弾も奴の肉体まで届きにくい。それにレッドトロール自身も防御的な立ち振舞いをしているから尚更だ。はっきり言って決定打に欠ける状況な訳だが、それはキミも同じということだろう?」
「そうだ。アンタと違って俺のメイン武器はこの双剣だぜ? 超接近系の武器しか持ってないってのに、あんなに猛々しい炎を展開されたらロクに近づくことすらできねぇよ」
「なるほど。それで僕たちが協力すれば事態が好転する可能性があるってことだね」
男の補足説明に、俺は無言で頷いた。
そして、決定的な問いを投げ掛けてくる。
「それじゃあ聞かせて貰おうか。僕たち二人で協力すればレッドトロールを倒せるという、キミの策を」
俺は不敵な笑みと共に、おもむろに口を開いた。