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第52話  共闘の申し出


 むせ返るような焦げ付く炎の香りと絶え間ないガトリングガンの銃撃音。

 それらを頭上に感じながら、俺は住宅街を走り抜けていた。

 目的地は、ちょうど銃を乱発しまくっている男プレイヤーの場所だ。


「この戦況が長引けば俺たちプレイヤー側が詰んじまう! 早いとこどうにかしないといけねぇんだが、そのためにはアイツの協力が必要不可欠だ……!」


 三階建ての豪華な家の屋根に陣取り、およそ人間が持てるとは思えないほどの巨大な回転式のガトリング銃を携えた男プレイヤー。

 名も知れぬ闖入者であるが、あのプレイヤーの協力なしにこの戦場を攻略することは難しい。

 ゆえに俺は急いであのプレイヤーと接触し、協力を仰ぐ必要があるのだ。


 地響きが足裏から全身に伝わりながら疾駆していると、やがて男プレイヤーがいる付近まで辿り着いた。

 そこで俺は身体強化を発動し、家の屋根に飛び上がる。


「さあて、問題はあのプレイヤーがどれくらい俺に協力的に接してくれるかどうかだが……。この状況じゃ人見知りだなんて言ってる余裕はねぇよな!」


 意を決して屋根からジャンプ。

 ガトリングガンをぶっ放しているプレイヤーの背後に降り立った。

 屋根から伝わる着地の衝撃にそのプレイヤーが振り返る。

 同時、俺は息を切らしながら声をかけた。


「おい、アンタ!」

「……っ! キミは――」


 視線が交錯する。

 北沢を除けば、初めて他のプレイヤーとの接触だ。

 初対面の人間という括りで言うなら、初めてのコミュニケーションである。


「俺は神崎遊一かんざきゆういちだ! さっきまであのデカブツと戦ってた!」

「神崎、遊一……」


 その男は、確かめるように俺の名前を反芻した。

 こうして間近で見てみると、思ったよりも優しい顔つきの男だ。

 遠目だったからあまり顔が分からなかったというのもあるが、服装もまるで学校の制服に似ている。

 ということは、こいつも俺と同じ高校生、か……?

 中学生というには少し大人びている気もするし、大学生以上の年上という感じもしない。

 こんな街中で派手に銃を乱射しているくらいだから、何となくもっと強面のお兄さんなのかと思っていたが、こんな優男だとは予想外だ。

 しかし今はこのプレイヤーのことは一旦置いておく。

 喫緊の課題は、俺とこのプレイヤーの協力にある。


「キミの活躍は遠目からだけど見ていたよ。それで、わざわざ僕の元まで出向いてくれてどうしたのかな? 楽しく談笑をしに来たってわけでもないんだろう?」

「ああ。談笑はこの戦闘が終わった後に回させてくれ。とにかく大前提の確認だが、俺はあのエリアボスを倒したい。それはアンタも同じだな?」

「そうだね。できれば早いとこ決着を着けたいと思っているところではあるんだが……」


 男がチラリ、とレッドトロールの方へ視線を移す。

 奴はまだ足が回復していないため同じ場所で踞っているものの、少しずつ体が動き始めている。

 あまり悠長に事を静観してはいられない。


「俺もさっさと決着を着けたいとと思ってる。だが、今の状態だとレッドトロールを倒す決定打に欠ける。そんなとこだろ」

「悔しいけど、その通りだね。それよりも、レッドトロールというのはあの巨人の名前かい?」

「そうだ。俺が鑑定スキルで見た」

「鑑定スキル……なるほど、それは便利だね」


 男は意外そうに目を見開いた後、値踏みするような視線で俺を眺める。

 あまり信用されていないか……?

 まあ今初めて出会ったばかりのプレイヤー同士だから、いきなり全幅の信頼を置いてくれと要求する方が無理な話だというのは分かっているんだが。

 それでも俺は止まれない。

 たとえ信用されていなくとも、この場で協力関係を構築できなければ俺たちプレイヤー側の事実上の敗北に等しい。


 ゆえに俺は、あえて相手を試すようなニュアンスを含ませた声色で、不敵な笑みを浮かべながら口を開く。


「あのデカブツを打ち倒す策を思い付いた。俺とアンタの二人が協力すれば、きっとこの緊急クエストに終止符を打つことができる。どうだ。この戦いの終結を望む者同士、ここは一つ手を組んでみないか?」




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