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第20話  エリアボス


 震撼する住宅街。

 都市直下型大地震のような縦揺れの暴威が俺たちを襲う。

 そして、突如眼前に表示されるウインドウ画面。


『【エリアボス】が出現しました。早急に対処し、討伐してください』


「な、に……ッ!? エリアボスだと!?」


 俺は慌てて敵感知スキルを発動した。

 自宅を中心として半径約五十メートル圏内に存在するモンスターをサーチ。

 脳内で円が拡大していき、索敵を進める。

 ぽつぽつとモンスターがヒットするがこれはスライムの影だ。

 そのまま索敵範囲を限界まで拡大し続けていると――やがて事の犯人を突き止めた。

 索敵圏内にギリギリ引っ掛かっている、赤黒いペイントマーク。

 しかし、そのマークはその他のモンスターとは色味が異なり、禍々しいオーラが伝わってくる。


 これがエリアボスか!!


「な、なんなのこれ!? き、緊急クエストって!?」


 俺と同様の画面が、北沢にもポップアップされていた。

 これは全プレイヤーに表示されてんのか!?

 オロオロと狼狽する北沢から視線を外し、プリムに意識を向けた。

 プリムはさっきまでのだらけた態度から一転、神妙な面持ちで空中に飛び上がる。

 俺は反射的に二人へ指示を出す。


「とにかくまずは外に出るぞ! この状況で家の中にいるのはマズイ!」

「え、あっ、そうよね! ま、まずは外の様子を確認しないと……」

「着いてこい北沢! リビングの掃き出し窓から庭に出るぞ!」


 俺はリビングを一直線に横切った。

 転倒したテレビを軽いジャンプで避け、掃き出し窓の鍵を手早く開けて荒々しく開け放つ。


 こういう緊急事態の時のために、やっぱり土足で家に上がっていたのは正解だった。

 もし律儀に靴を脱いでリビングに入っていたら玄関で北沢と共にもたつくハメになっていただろう。


 申し訳程度に伸びた芝生の上に降り立つと同時、プリムが耳元まで飛んできた。


「……遊一」

「どうしたプリム」

「今回は覚悟した方がいいかもしれません。これまで遊一が遭遇したどのモンスターよりも格上、文字通り別格の怪物を相手取ることになります」

「……へぇ、そうかよ。だったらその格上様がどんなツラしてんのか早いとこ拝ませてもらわねぇとな!」


 ズシィン……! ズシィン……! と、一定間隔で地鳴りが響く。

 その音に反応するように家全体がかすかに跳ねていた。

 敵感知を再確認。

 エリアボスは、ゆっくりとした動きながら着実にこちらへと向かってきている。


「つっても、どうやら向こうの方が俺たちに興味津々っぽいな。北沢、もしかしたらすぐに戦闘が始まるかもしれない。今の内に、魔法の発動準備をしておいてくれ」

「わ、分かった」


 遅れて庭に飛び出してきた北沢に、最低限の作戦を伝えておく。

 街中を揺れ動かすほどのモンスターだ。

 プリムの意味深な忠告からも、並々ならぬ強敵であることが予想される。


 俺と北沢は無言で頷き合い、庭から家の門へと向かい、慎重に歩道へ出た。

 音と地響きがもたらされる方角へ視線を向けると、そこには目を疑うが街を襲っていた。


「……ッ!」

「な、なによ……あれ……!?」


 俺は息を飲み、北沢は絶望したように顔を青くする。


 そのモンスターは、人型をしていた。

 だが、明らかに人間でもなければオークのような類いのモンスターでもない。

 まず目を見張るのは、図体のデカさ。

 その巨体はジャイアントスライムの比ではなく、何件も軒を連ねる住宅街のこのエリアで、

 普通の一軒家の大きさは優に超え、目算だが体長は十メートルに達しているかもしれない。

 ゴブリンのようなシャープな顔立ちと比べてアンバランスに思える体は、中年太りのように大きく腹が出ていた。

 が、肌は全身燃えるような紅に染められている。


「……ははっ、マジかよ。本当に倒せんだろうなアレ」


 まだ少し距離はあるが、それでも遠近感が狂うほどに桁外れの巨体を惜し気もなく披露している。

 しかし、まずは情報がないと何も始まらない。

 俺は遠方から鑑定スキルを発動した。



 名前:レッドトロール

 レベル:39

 トロール種の上位個体。各属性ごとに系統が分かれており、レッドトロールは炎を司る。炎魔法に高い適性があり、同じく炎に強い耐性を持つ。非常に好戦的で、一度捉えた獲物は死ぬまで攻撃をし続ける。



 なんつーか……マジの化け物じゃねこれ?


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